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エーデルワイスとの謁見

 路線バスに揺られながら、蒼汰一行はパリ郊外へと足を踏み入れる。

 日本人も多く住むと言われる戸建住宅群を抜けた先。


「着きました。ここがマルセイユ宮殿です」


 宮殿前のバス停で停車する。

 豪勢絢爛な白い門の向こう、幾多の花壇を抜けた先にある巨大な建造物。

 

 バスを下り、その巨躯の前では自分の体がちっぽけなものだという感覚さえ覚える。

 男は門の前に立ち、センサーに自分の眼球を近づける。

 

 角膜認証で門のロックが解除され、自動的に敷地内への道が開く。


「門が開きましたので、早速行きましょう。宮殿内は複雑です、はぐれないようにお願いします」

  

 引き続き先導する男の後について行く。


 長い花畑ロードを抜け、玄関の扉を開く。

 複雑な模様をした絨毯を踏み進み、一行は最上階である4階を目指す。

 

 そうして長い徒歩の末、蒼汰たちは巨大な扉の前で立ち止まる。


「――中でエーデルワイス嬢がお待ちです」


 男はそう言って両手で取っ手を握り、力強く扉を開け放つ。

 開いた扉の先、高級感あふれる調度品の類が陳列された大広間。

 その奥に、絢爛な椅子に腰かける女性が一人。


「――待っていました、吉野蒼汰様」


 スラリとした足で立ち上がる。

 コツコツとハイヒールを鳴らしながら蒼汰に近づく。


「ようこそマルセイユ宮殿へ。私はこの屋敷の頭首、エーデルワイスです」


 自己紹介の後、彼女は自身の着こむドレスと同色の手袋を脱ぎ、蒼汰の目の前に手を差し出す。


「お招き感謝します。吉野蒼汰と申します」


 彼女の手を握る蒼汰。

 しばらくの握手の後、エーデルワイスは蒼汰たちをソファーのもとへ案内する。


「大変な目に遭ったばかりなのに来させてしまって……」


 ごめんね。

 エーデルワイスは心底申し訳なさそうに頭を下げる。

 ウェーブのかかった金髪が垂れる。


「いえ、構いませんよ」


 あなたとの協力にはメリットがある。

 そうは言わず、会釈で彼女の気持ちを受け取る。


「頭を上げてください。謝罪の必要はありませんよ」


 ゆっくりと顔を上げるエーデルワイス。

 彼の優しさに感服したように微笑みを浮かべる。


「ありがとう蒼汰様――ブルギニオン、アレを」


 彼女の言葉で案内役の男が書類を用意する。

 ブルギニオンと呼ばれた男は、写真付きの書類を蒼汰の目の前に広げる。


「すごい……綺麗」


 隣に座っていた幸奈がカラー写真を覗き込む。

 そこに映っていたものは石、いや宝石と呼称するのが正しいだろうか。


「それはレッドクォーツと呼ばれるものです」


 レッドクォーツ。

 周囲の光を反射し、その美しい色合いを強調する宝石。


「霊装の一種――そういえば理解してもらえる?」


 エーデルワイスの言葉で、両隣の幸奈と麗が反応する。

 

 自身の内に秘められた固有魔法を実現するための魔具。


「特にこのレッドクォーツというものは、自分の中の固有魔法を引き出すものじゃない――この石自体に魔法が込められたものなの」


 レッドクォーツに関して知識のない蒼汰と幸奈は黙りこくる。


「ドイツに根を張る敵対勢力が、このクォーツを使って私たちをパリごと吹き飛ばす計画が水面下で進行している」


 麗以外の表情が一気に凍り付く。

 一切に顔色を変えない麗。

 そんな彼女は次に出てくるエーデルワイスの言葉を予言する。


「だから私たちが先にクォーツを回収、パリへの大規模攻撃術式発動を未然に防ぐ、ね?」


「ご名答。さすが監視補佐官」


 監視補佐官の言葉。

 それを聞いた麗が眉をひそめる。


「――あなたが大天使の監視と補佐を任されている事実はすでに知れ渡っているでしょうね」


 のらりくらりと話すエーデルワイス。

 その事実を前に、麗は機嫌が悪そうに唇を噛む。


(やっぱり……本当のことを話す必要がありそうね)


「――それで、このレッドクォーツはどこにあるの?」


 手を上げた幸奈が疑問を言葉にする。


「場所自体は分かっているの。フランス西南部にあるラスコー洞窟。そこの最奥にあることは分かってる」


「……それじゃあ、どうして取りにいかないの?」


「あそこは特殊な磁場を発生させる結界が張られてる。その磁場は近づいた魔力を変形させ四散させる。魔法使いが接近すれば、体内の魔力がシャッフルされて内部から魔力が四散」


 心臓を中心に、人体に蔓延る魔力が爆発を起こす。

 

「――ドライツェフ」


 麗がボソッと口ずさむ。


「――そう。絶対魔導防御術式である対魔導リフレクターと双璧を成す、絶対魔導不可侵術式のドライツェフ」


 それが洞窟に張られている以上、魔力を蓄える魔法少女たちが接近することは不可能だ。

 だが、ドライツェフに一つの突破方法が存在する。


「大天使の存在を利用する」


 エーデルワイスの放った言葉。

 シンプルかつ大胆な作戦。


「――大天使は他の魔法使いとはまるで別物ともいえる魔力周波を持っている。それを応用してドライツェフを突破するの」


 吉野蒼汰を取り巻く魔力周波をメンバーに干渉させる。


「大天使の魔力周波で全員の全身を覆い隠し、ドライツェフを誤認させる」


 大天使の魔力周波ですっぽりと包まれてしまえば、彼女たちの魔力が外に出ることはない。そうすればドライツェフが魔力を感知することはできない。

 

 ドライツェフは魔法使い用に設定される術式である。

 適応範囲外の大天使の魔力であれば、そのフィルターを突破することが可能であるということだ。


「まだクォーツはドイツ陣営に発見されていないの。だから今がチャンス、絶好の機会」


 一通り説明の終わったエーデルワイスがティーカップを持ち上げる。

 そんな彼女の前で、いまいち腑に落ちない麗が質問を投げかける。


「要求は分かったけど、どうして私たちだけなの?」


 こちらの世界に転移させられた人間は大勢いる。

 その中から麗たちだけを指名したのだ。


 麗の視線をからかうように受け止めるエーデルワイス。

 静かにティーカップをテーブルの上に置き、言葉を繋げる。


「あなたたちがアルベルト・シュタルホックスの計画を打ち破った実力者たちだから。それほどの実力者と十分に連携できる者はあまりいないの――これでは説明不足?」


 その事実も知れ渡っているのか。

 

「それを見込んでこうしてお願いしたの」


 微笑みを浮かべるエーデルワイス。

 その話を聞いた麗からはこれ以上の質問はでない。


 満場一致でラスコー洞窟行きが決まった。

 蒼汰たち意思を確認したエーデルワイスは満足げに立ち上がる。

 

「洞窟内に入る準備の時間も必要だし、それに軽く下見をした方がいいね」


 ドイツ陣営にまだレッドクォーツの在処が知られていない以上、早急に取り掛かる必要がある。

 だが蒼汰たちもフランスに来てからそれほど時間が経っていない。疲れが溜まっていることをエーデルワイスは見抜いていた。


 だからこそ慰労も兼ねて彼女は提案する。


「幸奈さん、麗さんはパリの街をご堪能下さい。蒼汰様は、私とデートしよ?」

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