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昔語り

 『オルレアンの亡少女』


 フランスはとても長い歴史を持つヨーロッパにある国です。


 その歴史の中で、オルレアン家という家柄の国王が引く王政時代がありました。

 国王に嫡子がいない場合、代わりにオルレアン家が王位を継承する者を輩出するということもありました。


 ですが1848年に勃発した2月革命により、オルレアン朝の歴史は途切れてしまったのです。


 それでもオルレアン家は現在でも続いています。

 けれども、それは表向きの話でした。


 2月革命のとき、私たち家族は必死に逃げました。

 過激革命派がいつ襲ってくるか分からない。

 だから必死に逃げました。

 ヒールが脱げ、小枝が足に刺さって痛かったです。


 私は逃げるのに必死で、ぬかるみにはまってしまいました。

 それで転んで、急な坂を滑り落ちてしまったのです。


 気が付くと、そこは崖の下でした。

 お父様も、お母様もいませんでした。

 執事やメイドの姿もなく、私に懐いていた犬のロメオもいませんでした。


 喉が渇いた、お腹がすいた。

 でも誰もいません。

 私は寂しくて、辛くて、死んでしまった方が幸せだとさえ感じました。


 その時です。

 光に包まれた女神さまがお空から降ってきたのです。


 女神さまは私の怪我を治し、水を与え、リンゴをくれました。


 そして女神さまは言いました。


「異世界から来る人間たちが争いを始めてしまう。それにあなたは巻き込まれてしまうでしょう――」


 か弱き私に、女神さまは魔法を与えてくれました。


「ですから、これを使って身を守りなさい。そして戦いなさい――この世に災厄を降り注ぐ翼を持つ少女を討つのです。さすれば、あなたの家族は――」


 助けられる。

 そう女神さまはおっしゃったのです。


 私は決めました。

 大好きな家族を助け、もう一度会うために。

 賊を討つと――


 それ以来、私は魔法少女になりました。

 たくさん修行をして、さらに強くなりました。


 そんな私もとうに成人を迎え、気づけば数百年が経過していました。


 そして遂にこの世を陥れる大災厄がやってきてしまいました。

 

 私は戦うと決めました。

 翼を持つと言われる少女を討つために、神様が一振りの剣を与えてくれました。


 ディスターソード。

 この剣を振ると、オルレアンの花が咲くと言われています。


 私、頑張ろう。

 私は、遂に翼の少女と戦うことになりました。

 

 絶対に会おうね、お母様、お父様、ロメオ。



 そうです。

 これが私の物語。

 私は、絶対に悪魔を撃ち滅ぼす――






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






 凱旋門を中心に放射状に広がっていく道々。

 日本ではお目にかかれない建物の林立する麗しき都市。


 蒼汰一行はパリの街並みを散策していた。


「藤ノ宮、他の異世界転移者と合流するといってもどうやって探すんだ?」


「基本的に異世界転移者であれば反応波を発しているはずよ。それを追えば探すのは他愛もないわ」


 麗は隣を歩く蒼汰を一瞥する。

 本人は気が付いていないようだが、この吉野蒼汰という少年から発せられる異常な反応波。


 本来反応波とは大天使や異世界転移者が、無意識に発する存在を表す波のことである。

 

「――それならいいけど、合流するなら早くしたいな……」


 蒼汰はバツが悪そうに周囲を見渡す。

 なぜならこの町の住人や観光客が自分たちに注目しているからだ。


 蒼汰と麗はブレザーを羽織り、幸奈はセーラー服を着るという始末だ。

パリの街並みには似合わない日本の学生服を着ている自分たちは、現地の人々からすれば異様な光景なのだろうか。

 

「そんなの気にしなくていいわよ。別に私たちは悪いことをしたわけじゃないのだから」


「いや、悪いことはしたよ。藤ノ宮の作った偽造パスポートでここに来たんだから」


 もとからパスポートを持っていなかった蒼汰。

 急遽フランスに飛び立つことになり、藤ノ宮が突貫工事で作成したのだ。


「――藤ノ宮」


「何?」


 蒼汰のトーンの変化に気が付き、麗は彼の言葉に耳を傾ける。


「フランスに来た理由って、やっぱり――」


「ええ。先に受けたミサイル攻撃、あれは確実に私たちを殺すつもりでやったものよ。あなたを利用しようとするアルベルトのいる勢力とは別の勢力の仕業――」


 麗は考え込むように顎を触る。


「それに、フランスはワルプルギス文書断片の座標なのでしょう? 大天使殺害側の勢力の情報収集、文書回収も兼ねた渡仏よ」


 軽く答える麗。

 だが蒼汰は知っている、このフランス渡航が軽い海外滞在になることはないと。

 大天使の実験のためにこの世界へ派遣された異世界転移者たち。

 あらゆる感情や思想が綯い交ぜとなった混沌の魔の手が、蒼汰一行に襲い掛かってくるのだ。


 だからである。

 だからこそ、こうして今も蒼汰たちの後ろをぴったりと張り付く人影があるのだ。


 無論麗はそれに気が付いている。


「――吉野君」


 麗が足を止める。

 

「? どうしたの?」


 不意に麗が蒼汰に顔を近づける。

 そしてボソッと、耳元でささやく。


「つけられているわ……」


 蒼汰の顔色が急変する。


 「私の合図で走り出して――」


 そうして麗は蒼汰から顔を離し、後ろを歩いていた幸奈にアイコンタクトを図る。


 すぐに意図を察した幸奈。

 小さく頷き、麗の横に並ぶ。


「――それじゃあ走るわよ――」


 3人が各々の脚力を駆使する――



「――お待ちください」



 声をかけられる。

 正面から――


 すぐに足を止め、幸奈のツインテールがワンテンポ遅れてはらりと舞う。


「申し訳ありません驚かせてしまって」


「あなた――異世界転移者ね? 白? それとも黒かしら?」


 麗は最大限にまで底上げした警戒心で、男の身元を調査する。

 そんな麗の眼光に押されることなく男は話を続ける。


「――私はあなた方と敵対する気はありませんよ」


 優し気な笑顔を見せる男。

 麗はまだ警戒を解くつもりはないようだが、それでも男の話に耳を傾ける。


「だとしたら何の用なの?」


「皆様が日本において、アルベルト・シュタルホックスの計画を打ち破った方々なのだとお聞きしています」

 

 それを知っているのか。

 確かに蒼汰たちの激闘は、注目されない小さな小競り合いとは全くの別物であった。

 その大規模な数日間が誰かに覗き見られていても不思議ではない。


「今日はお願いがあって皆様に接触したのです」


 男の笑顔が崩れる。

 一気に真剣な眼差しを浮かべた男が申請する。


「お願い?」


 麗の問いかけに男は軽く頷く。

 

「それは後ほど詳しくお話します」

 

 蒼汰たちの返答を請う。

 蒼汰、幸奈、麗は顔を見合わせる。

 男の願いに麗が頷き、言葉で伝える。


「――分かったわ。その代わり、そちらで掴んでいる()()の情報を全て話してちょうだい」


「お安い御用です」


 承諾。

 

 蒼汰たちのイエスの答えを聞き、男は内心彼らに感謝する。

 

「――では行きましょう、エーデルワイス嬢がお待ちです。マルセイユ宮殿にまで来ていただけませんか?」                                   

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