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脱出

「どんどん落下速度が上がっていっているわ!!!」


 ケーブルが切られ、海上のアースポートまで落下する。

 

 突如飛来したミサイル攻撃。

 明らかな殺意、敵意。

 負の感情が集約した爆破によって、蒼汰たちは下へ下へと落ちていく。


(――さっきのミサイルは――)


 飛来したミサイル。

 麗はその目でしかと確認していた。

 小型のミサイルの表面。

 そこに描かれた模様


 ――王冠を貫く剣。


 麗はそれを見逃さなかった。


(オルレアンの――!!)


 心の中で麗は歯を食いしばる。


「ふ――藤ノ宮! 何とかして!!!」


 麗は蒼汰の情けない救いの声に嘆息する。

 貨物エレベーター内はパニック状態。

 資材が辺りを暴れ回り、蒼汰たちは柱にしがみ付くことで精いっぱいだ。


 自分が動かなければここで死ぬ。


「――まったく。面倒なことは全部私任せなのね」


 最終目的はここから脱出すること。

 だがここは高高度。

 外に出たところで羽がない限り海面に体を打ち付けるだけだ。


「霊装使用――4枚羽根を羽ばたかせる酋長の生まれ変わり、我らを運びし箱舟となれ!! ヘリコ――」


 麗の詠唱は終わるはずだった。

 だが終わらせることなく中断されてしまった。

 彼らにとって、その答えは明白極まるものだった。


 爆発。

 2発目のミサイル攻撃が貨物エレベーターに直撃した。

 激しい衝撃で4人の体が壁や床に叩きつけられる。

 

 痛む頭を押さえ、麗は壁を一瞥。

 爆発によって大きくえぐり取られた壁が穴を空ける。


「――直撃!?」


 室内の空気が外に漏れだし、新鮮な冷気が充満する。


「麗ちゃん!! もうだめ!」


 床が傾き、3人が一斉に足をとられる。

 幸い3人は全力で柱にしがみ付き、大事に至ることはない。だが――


「そ――蒼汰君! 助けて!!」


 床をゴロゴロと転がり落ちるもえか。

 彼女が近くの取っ手を掴んだとき、すでに下半身は空中に投げ出されている。


「もえか!」


 蒼汰は床を蹴ってもえかに手を伸ばす。


 必死に手を伸ばした蒼汰が、取っ手を掴むもえかの手首を握る。

 力の入れすぎでもえかが顔をしかめる、だがそんなことは気にしていられない。

 

 徐々に加速するエレベーター。

 このままエレベーターから出られずに着水してしまえば――


(みんな仲良くミンチになって海を漂うことになるわね……)


 ケーブルの断絶でエレベーターはアースポートの軸から大きく外れた。

 どこに落下するのかも分からないため、早急に脱出する必要がある。


 だからこそ麗は決断する。


「みんな! とっとと外に出なさい! 早く!!」


 麗が近くにしがみ付く幸奈のセーラー服を鷲掴みにする。


「う――麗ちゃん!?」


 麗の魂胆を悟り、抵抗態勢に入る幸奈。

 だが麗はそれを許さない。


「幸奈、絶対に助けてあげるわ」


 その言葉と共に麗は幸奈の体を空中へとぶん投げる。 

 幸奈は大穴から姿を消す。


「吉野君! 狗神もえかさん! あなたたちの番よ!!」


 麗は柱から手を離し床を滑り降りる。

 すれ違いざまに蒼汰ともえかの服を掴んで外の世界へ――


「――うっ!?」


 強烈な風を全身に受け、暴風が髪を波打たせる。


(全員が脱出できた――ここから!!)

 

 麗の瞳に魂がこもる。

 彼女の胸元が発光――胸の谷間に隠される拳銃が光を放つ。


 これで霊装はいつでも展開可能である。

 あとは頃合いを見て実行するのみ――


 眼下に落ちるのは彼女たちが乗っていた貨物エレベーター。

 人間よりも質量のある金属の塊が、加速に加速を加えて落下していく。


「ふ――藤ノ宮! 藤ノ宮!!」

 

 風の流れに乗った蒼汰が麗の袖を掴む。


「お前――ここまでやったんだ、何か策はあるんだろうな?」


 蒼汰に手を掴まれるもえか。

 そしてもえかは幸奈の手を掴む。

 3人は最後の頼みである麗に必死の視線を投げ掛ける。


「策があるからこそ行動に出たのよ。破れかぶれの無計画なんかじゃないわ」


 蒼汰の真剣な表情。

 彼の若干の怒気を含んだ瞳に射貫かれ、麗は僅かに頬を緩ませる。


「助けてあげるから安心なさい――それにしても、あなたは怒ると口調が荒っぽくなるのね?」


「そんなことはどうでもいい!!」


 パラシュートのない降下の中にもかかわらず、麗は何事もなく皮肉を交える。

 彼女は強い。

 今の麗は解決策を発見したことで、死への恐怖に屈服しない。


 青く広がる洋上、そして徐々に迫る人工島。帰るべき港が目の前にまで迫る。


「先の霊装を再生――現出せよ! 輸送ヘリコプター!!」


 4人を包み込むように巨大な光の物体が出現する。

 そして一気に閃光が四散。


 光がはじけ、その身を剥く。

 

 大型のプロペラが空気を引き裂く。

 上昇力を得た物体が、その中に蒼汰たちを乗せて再び舞い上がる。


「だから言ったでしょう――助けてあげるって」


 威風堂々。

 藤ノ宮麗の策こそがこれである。

 ヘリコプターの飛行可能高度にまで落下し、海上に叩きつけられる前にヘリを出現させる。

 

 麗の創り出した創造物は、彼女の思考で操縦される。

 ヘリは陸地へ向けて進路をとる。


「し――死ぬかと思ったよぉぉ麗ちゃん!!」


 涙を流しながら幸奈は麗に抱きつく。

 めいいっぱいの力で麗を締め上げる幸奈。


「ゆ、幸奈。いいから離れなさい」


 麗は無理やり幸奈を引き剥がす。


「ねえ、あれ見て」


 窓の外を食い見るもえか。

 蒼汰も便乗して窓を覗く。


「貨物用エレベーターが……」

 

 先ほどまで蒼汰たちを乗せていたエレベーターが海上に着水。

 勢いよく海面に叩きつけられたエレベーターは言うまでもなく粉砕状態である。


「僕たち……助かったんだ……」


 蒼汰眼下に広がる人工島。

 そして静かに着地する。


「やっと着いたね蒼汰君」


 もえかの笑顔が眩しい。

 まだヘスティアのことが心残りであるとはいえ、彼女の表情が蒼汰の心を浄化していく気分だった。


「ふう。やったね麗ちゃん、降りよ?」


 幸奈は立ち上がり、麗の手を引く。

 だが麗は動かなかった。


「麗ちゃん?」


 命の助かったのにも関わらず、麗の表情は緊迫で満ちていた。

 彼女の視線は幸奈ではなく、別の何かを見ている。


 幸奈は不思議そうに麗の視線の先を追う。

 そして見た。


「そんな……」


 空いた口が閉じられない。

 

 麗たちの乗る輸送ヘリを取り囲む装甲車。

 全身を戦闘服に包んだ男たちがその手に握る小銃でこちらを覗いている。


「空港警備隊に、自衛隊……」


 どうして?

 なぜ私たちが地上に降りてくる時刻を正確に把握している?


 そして何より彼らの目的は明白である。

 地上から宇宙へ、そして地上へ。

 ここまでの行程で自分たちがやってきたこと。


「賠償金なんかじゃ済まされないわね……」


 麗が冷や汗交じりに薄ら笑いを浮かべる。

 正直麗一人でもあの集団をどうにかすることができる。


(それでも、それだと私の保身は……)

 

 それに、彼らが()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして規約にもある。

 無関係者を殺すことは原則禁止である。


『――ヘリコプターに乗った少年少女諸君。我々はあなた方が変な真似をしない限り危害は加えない。降りて来るんだ』


 声明が発せられる。


『――我々は日本政府だ。君たちに話がある、内閣府へ招待しよう』

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