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展望台の男女

 幾多の魔導砲撃、魔導爆発が蒼汰の逃げ道を失くす――

 

 展望台に穴が開きそうなほどの強力な魔法が蒼汰の体中を切り刻む。


「――殺す気で私を攻撃しなさい!!」


 赤髪を翻したヘスティアの後ろ蹴りが炸裂――


 サッカーボールのように吹き飛ばされた蒼汰の体が大きな柱に打ち付けられる。


『――ヘスティア・シュタルホックスの洗脳を解くためには、彼女の全身を流れる『BWP』の成分を滅却しなければなりません』


「うるせぇ! そんなことは分かってんだ!! 今のシュタルホックスさんに僕の洗脳は効かない――役立たずは黙ってろ、()()使()!!!」


 彼らしくない荒れた口調、暴言。

 たびたび蒼汰にだけ聞こえていた女の声は黙り込む。


「何を一人でぶつぶつとほざいているのですか!?」

 

 一閃!

 柱ごと両断する斬撃が蒼汰の頭上を斬り裂く!!

 大きな柱が真っ二つに切断される。


 蒼汰はすぐに態勢を立て直して疾走。

 

(何で刺突武器のランスで物体の切断ができるんだ!?)


「――逃げるんじゃありません! 十分な戦闘データが取れないでしょう!!」


 演算開始。

 魔力を砲撃として形成。

 ランスの刃先に凝縮される魔力。

 触れただけで腕が吹き飛ぶ莫大なエネルギーを宿す。


 蒼汰はすかさずバーのカウンターに身を隠す。

 カウンター内を荒し、手ごろな高級ワインを一本手に取る。

 栓抜きでコルクを抜く。


「本気で来なさい! 大天使!!」


「僕はまだ君にお礼を言わなくちゃいけないんだ――だからとっとと正気に戻れ! ヘスティア・シュタルホックス!!」


 互いの攻撃が同時に繰り出されたのか――

 いや、動きは蒼汰の方が圧倒的に速かった。


 魔導砲撃は時速300キロで直進する。

 だから同時に攻撃を開始すれば蒼汰が圧倒的に不利――


 だからこそ、蒼汰は素早くワインの栓を抜いて投擲――


 ぐるぐると円を描きながら飛ぶワインの瓶がヘスティアの顔面に直撃する。


 彼女の魔導砲撃が発射。

 のけ反った体に釣られるように照準が蒼汰から大きくずれる。

 爆音を響かせて宙を焼き進む砲撃が、蒼汰の後ろの柱を融解する。


 蒼汰はカウンターを乗り越え疾走。

 右手の拳を強く握り込み、彼にできる最高の鉄拳を作り上げる。


()ぅ――どこですか……大天使!!」

 

 栓の開けられたワイン。

 それを投擲し、彼女の顔面に直撃させた。

 栓を開けたことによって流れ出したワインがヘスティアの視界を奪う。

 

 蒼汰は七色の絨毯の上を全力で翔ける。


「アルベルトとのあなたの会話を聞いていました――あなたはあの男を恨んでいたはずだ!!」


 プロジェクター室での記憶を掘り起こす。

 ヘスティアのあの表情――決して忘れない。


「それなのにあの男に好き勝手に操られて――悔しくないんですか!!」


 大天使という能力を持ち、洗脳という最低最悪な力を使う蒼汰が人のことを言えるわけはない。

 過去にヘスティアを洗脳し、好き勝手に彼女を支配した蒼汰だ。

 こんな彼の叫びには説得力の欠片もない。

 ならば――


「説得力がなくても――洗脳を使用する本人だから、その能力の恐ろしさを全力で教示してやれることができるんだぁぁ!!!」


 限界まで引き絞った拳。

 全身を銃にして、拳という弾丸を撃ち出す!!


「――っ!?」


 ヘスティアは身を引く。

 目は見えない、だが長い戦争人生で培った心の目で見た光景。

 目の前にいる少年が、今まさに拳を突き出している――


「あなたは、そんな洗脳人生だけを送っていい人間じゃない!!!!」

 

 蒼汰の正拳がヘスティアの胸元に炸裂する。


 胸を撃たれ、肺から空気が強制的に吐き出される。

 

 バランスを崩す――


 ヘスティアは倒れる――上半身が重力発生装置の影響でどんどん床へ引き寄せられる。

 

 後頭部が叩きつけられる衝撃――


 のはずだった。


 未だ目は開けられない。

 だが背中の感触で分かる。


 ヘスティアは誰かにその身を支えられ、床に頭を打ち付けることなく静止していた。


「――あなたの人生は洗脳され、他人の意志だけで動く偽物のままで終わるんですか――」


 その声はひどく反感を持った声。

 最悪で、()()()()()()()()()()()()洗脳の力を持つ少年の声。


 その声が不思議と心地よい。

 自分の心が浄化されるような気分になる。


 大天使を持つ吉野蒼汰、魔法少女を操る洗脳。


 洗脳――洗脳。


「――みんなを殺した――洗脳!!!」


 自分を支えていた蒼汰を破壊すべく、全力でフリーの拳を振り切る。


 ランスを持たぬ左手で蒼汰の肋骨を粉砕。

  

 内臓を破裂させる威力で撃ち出された拳が蒼汰の体を吹き飛ばす。

 広い床を転げまわり、かつてない痛みが全身を硬直させる。


 動けない。

 

 本当に内臓が破裂したのかも分からない、だが体の中から込み上げる激痛が死への恐怖を煽っているのは確かだ。

 蒼汰は一度死亡して生き返った。

 二度目はないかもしれない――


「私は……あなたの考えていることが分かりません」


 一時的な失明を引き起こしているヘスティアが語る。


「吉野蒼汰。あなたはどうしてそこまで私の身を案じるのかが分かりません」


 胸に手を置くヘスティア。


「僕はあなたに救われた……そのお礼を言うために決まっているでしょう……」


 喉の奥から絞り出した言葉。


 蒼汰の告白にヘスティアの眉が動く。

 彼女は眼球の痛みから瞼を閉じている。

 だが彼女の瞼の向こう、困ったように蒼汰から視線を反らしているようにも思えた。


「私はお礼を言われるようなことはしていません。私は――」


 ヘスティアの口が止まる。

 何かを引きずる音。

 絨毯を足裏で踏みしめる音。

 蒼汰が苦しそうな声を上げて何かをしている。

 

「シュタルホックスさんは、本当の自分を見失っているんですよ……」

 

 耐えられない痛みを堪えて立ち上がる。

 フラフラの足取りで蒼汰は歩き出す。


「自分を忘れてしまい、忘れてしまったことにすら気が付けないのであれば……」


 一歩一歩確実に。

 ヘスティアは蒼汰の接近に気が付き、後退を始める。


「僕が問い続けますよ……あなたという存在を……」


 蒼汰の接近。

 ヘスティアの後ずさり。


 その両方の速度に違いはない。

 だから距離は一向に埋まらない。

 だが。


 ヘスティアが柱に背中をぶつける。


「は……離れなさい」


 握りしめたランス。

 柱を背にヘスティアはランスの刃先を蒼汰に向ける。


 得体の知れない恐怖。

 大した戦闘力などない吉野蒼汰に恐れを抱く。

 

(逃げてはいけません……これは実験、私は大天使を投入可能になるまで強化する計画の歯車の一つなんですから!!!)


 突き付けたランスに魔法を凝縮させる。

 熱を持った魔力閃光が空気を焼く。


「――本気で攻撃しますよ、吉野蒼汰!!」


 ヘスティアは背後の壁を蹴って突進する。 

 刀身が魔力で保護されたランス。

 それが蒼汰の頭に吸い込まれるように伸びていく。


 だが蒼汰は避けない。

 避けることなく詠唱する――


「そんな武器はいらないでしょう!!」


 一言。

 その一言の瞬間ヘスティアの手の内のランスが遠方に吹き飛ばされる。


 蒼汰の言葉が現実となり、彼女から武器を奪い去った。


(こんなの……データにはなかったはずです……)


 大天使の未知の領域に踏み込んだヘスティア。

 そんな彼女の体内では、徐々に『BWP』の成分が活性化していた――

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