聖女の翼
残りのレールガン7基。
麗に残された制限時間約3分。
世界最高のダンス会場を与えられた彼女。
これから始まる至上の3分間を堪能する――
「――霊装使用――鉄の像を破壊せしめん地獄の龍よ!! わが手に堕ちろ!! 対戦車ロケットランチャー!!」
空間から出現させたそれを担ぎ、弾頭の安全ピンを抜く――
人工衛星の壁を走り、飛び出す。
無重力空間の中を自在に飛び回る麗。
そして視界に入るのは地球に砲身を向けるレールガン。
その砲身に向けて引き金を引き絞る。
勢いよく射出され、火のついた弾頭が加速――
戦車を破壊するために考案されたその兵器がレールガンを破壊する――
レールガンの砲身を貫通し内部爆発――
ひしゃげ、炎を上げたレールガンが沈黙。
爆発の衝撃で彼女の体が吹き飛ばされる。
それでも彼女は笑っている。
それは血に飢えた獣のほころびではない。
目標達成を目指して努力する、青春時代の少女の笑顔。
どれほど物を破壊しようが、どれほどの殺人兵器を操ろうが――
彼女の清楚さは失われることがない――
ゆっくりと両手を広げる。
すると、彼女の胸元――正確には心臓に光が灯る。
それは何事にも表現しがたい――霊装の光。
「――第3の霊装使用――聖母の歌う子守歌、そこへ舞い降りし神翼の聖女!!!!」
麗の背中――
そこから勢いよく生み出された聖女の翼。
暗い宇宙を太陽のように照らし出す、神秘的な魔力光を生み出しながら存在する。
片翼20メートルの翼が大きく羽ばたかれる。
今の彼女を言葉で表現するとすれば――天翔ける天使。
いや、その言葉では誤りだ。
もっと別な何か。
言葉では表現できない存在として麗は降臨した。
彼女の体が加速する。
脱出船よりも速い奇跡が天を舞う。
左手に出現させた予備の弾頭。
麗はそれを再装填――
引き金に指をかけ、躊躇いなく発射された弾頭がレールガンを破壊する。
連鎖するオレンジの光。
宇宙に咲かせる巨大な花。
花を咲かせた少女――
小鳥のように優しく、天使のように美しく羽を動かす麗。
持っていたロケットランチャーを投棄。
「あと――6基!!」
開放感あふれる宇宙航行をしながら、麗は新たな武器を出現させる。
ヘスティアやユキナのような破壊的な魔法攻撃ができないのなら――
こうして強力な武器を生成し、自分なりの戦いをすればいいだけよ!!
レールガン起動開始まであと1分。
3基目!!
停止する人工衛星の真上――
真下の人工衛星へ向けて急降下する麗。
「ジェットコースターの最初の坂はこんな気分かしら?」
1人の少女と人工衛星の距離が徐々に狭まる。
そしてすれ違う――
はるか下方へ突撃する麗は人工衛星との距離を引き離していく。
彼女がスイッチを押した。
そのスイッチから発せられた電波。
それがレールガンの側面で受信される。
レールガンが大爆発を起こし、それが人工衛星に誘爆。
すれ違いざまに設置したプラスチック爆弾が派手な大爆発を引き起こした。
「とっても綺麗ね。彼氏ができたら一緒に見たい見事な花火よ」
残り40秒――
タイムリミット目前――
これでは間に合うはずもない。
ならなぜ麗はここまで楽しそうに笑うのか?
何か策があるのだろうか?
答えは明白――
これが残存魔力量から考えて、最後になるだろう。
彼女は両手両足を思いきり広げる。
そして語った――
「――史上最大の鉄の牙城、海上を支配する最大の号砲、戦艦大和!!!」
麗の召喚する武器や兵器の中では史上最大級――
全長263メートルの巨体が生成される。
全て麗の遠隔操作で制御する。
遠くに位置する5基の人工衛星。
マルチロックオンでその5つの影を正確に捉える。
宇宙に浮かぶ鉄の船の砲身が稼働する。
「仰角最大! 一番奥の衛星にも当てるわよ!」
彼女の意志で一部の砲身が限界まで稼働。
準備はできた。
あとは麗艦長の指示で全てが決まる――
「目標、前方の金属の塊5つ!!」
この場におけるヒロインは藤ノ宮麗ただ1人。
彼女の独壇場――邪魔をする者などいない。
髪を下ろした麗の魔力周波が勢いを増す。
煮えたぎる闘気を漂わせながらも、そこにいるのは可愛らしい女の子。
戦士と少女を両立する彼女が、今、魂を込めた声音を解き放つ――
「一斉射――撃ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
雷撃!
稲妻のような衝撃をまき散らす砲弾が、圧倒的な運動エネルギーを伴って飛翔する。
宇宙空間を撃進する砲弾がそれぞれ人工衛星のどてっぱらを貫く。
内部構造があっという間に瓦解。
あらゆる部品やケーブルをズタズタに引き裂かれ、原形を崩した衛星の破片。
粉々に砕け散ったレールガンの破片が辺り一面に吹き飛ばされる。
全8基のレールガンが消し飛んだ。
破壊され、破片となったレールガンの残骸はデブリとして宇宙空間を漂うだろう。
衝撃波で盛大に黒髪を躍らせる麗。
スカートに付いたスス汚れを払い、勝ち誇った表情で戦場を眺める。
破天荒ながらも所作は女の子。
もえかを救い、東京都市を救った藤ノ宮麗。
ここは彼女の世界ではないが――
彼女の世界における彼女の故郷――地球。
その美しさを最高に堪能できる展望台。
彼女は水の惑星の神々しさを心に刻みつける。
しばらくの最高の時間に酔いしれ、彼女は彼らのもとに帰ることにする。
背中の大きな翼を羽ばたかせる。
「今日はとっても素敵な日ね――最高の展望台だったわ」
彼女は踊るように天を駆け抜け、嬉しそうに凱旋飛行を楽しんだ――