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援軍到着

「ねえ、何かおかしくない?」


 もえかたちと別れ、目的地の宇宙エレベーターである『ヴァリアラスタン』を目指す途中、幸奈は皆が心の中で思っていたことを代弁した。


「ここは商業地域なのに……どうしてこんなにも人がいないの?」


 不自然な不気味さに、幸奈は思わず肩を震わせた。

 

 太陽が沈みかけ、オレンジ色の空が頭の上を覆い尽くす時間帯。

 学校帰りの学生から仕事終わりの社会人、その他諸々の多種多様な人々が多く出歩く地域である。


 それが今、いつもの時間帯のいつもの街であるはずのこの場所が、人の気配のない無人地帯に様変わりしていた。


 ヘスティアはきょろきょろと周囲に視線を動かし、思ったことを口にした。

 

「……幸奈の言う通りです。私の知っている街の姿ではないですね」

 

 彼女は、戦闘のないオフの日にはよくこの場所へ足を運んでいた。

 住居の提供をしてくれた日本政府からの生活費から捻出したお小遣いを手に、この世界における娯楽を享受した街。

 

 普段の喧騒とは程遠く、嫌な静けさがヘスティアの心の鎮静を喧騒へと逆転させた。

 

 体制派(システマイザー)の魔の手が伸び、この無人こそが作られた罠なのか?

 それとも戦闘状況に備え、ファルネスホルンが一般市民を退避させたのか?


 いくつかの予想がヘスティアの脳内を駆け巡る中、隣にいた麗が口を開く。


「ファルネスホルンが市民の退去をさせるなんて聞いていないわ」


 麗の言葉によって、ヘスティアの仮説の1つが取り消された。

 そしてそれと同時に、ヘスティアの表情に僅かな雲がかかったように見えた。


 これから始まるであろう大規模な戦闘。

 そして戦場はこの世界の人々が行き交う密集地帯である。

 だがファルネスホルンは人々の避難をすることがなかった、それはつまり――


「――ファルネスホルンにとっては、一部の世界の一部のごく限られた人々を助けるだけの余裕はないのよ。だから少数を切り捨て、大多数を救うために動いているってことよ」


「犠牲を許容してまでなんて……いえ、正常な判断ができているから、勝つために切り捨てる必要のある命を切り捨ているんですね」


「残念だけどヘスティアの思っている通り、今回ばかりは上層部は犠牲を強要しているのよ」


 麗は唇を湿らせる。

 自分で言った言葉に頭が重くなるが、それを振り払うように左手の腕時計に視線を落とす。

 

「……そろそろ定刻だわ」


 ファルネスホルン最高評議会直属の精鋭部隊との合流。

 蒼汰たちが宇宙エレベーター『ゼネラルメビウス』の高軌道ステーション『ナノタウン』まで到達できるよう、派遣されているはずである。


「この辺りで合流するようにと聞いているのだけれど……」


 麗は街並み、秋空を見渡しながらそう呟いた。


 10秒、20秒と沈黙が続き、全員が援軍の到着をじっと待つ中、ふと幸奈が空を見上げた。

 目を焼きつける夕日を細目で見つめ、狭まった視界の中に夕日を背にした黒点が映っていることに気が付く。

 その黒点は徐々に数を増やし、そして鮮明に幸奈の瞳に映りこんでいく。

 

「あ……来たみたい……遠くから来たみたいだよ!」


 幸奈の言葉に続き、全員が一斉に空を見上げる。


 不気味な街に舞い降りるひと気。

 それも自分たちを護衛する精鋭部隊ともなれば、不安で沈みがちの気持ちも好転を迎えるだろう。

 

 こちらへ向かう軍団は徐々に蒼汰たちに接近する。

 それと比例して蒼汰の表情も和らぎ、落ち着きを取り戻し、そして絶望に浸る。


「――魔力閃光……先制攻撃だ!!」


 気が付けば蒼汰は叫んでいた。

 自分たちを破壊せんと迫る魔導砲撃を目の当たりにし、それまでの平静を打ち破った。


 蒼汰と魔法少女3人はそれぞれ通りから外れて建物の陰へと飛び込んだ。

 そして数秒後、彼らが先ほどまでいた通りに連鎖的な爆撃が降り注いだ。


「――みんな!! 大丈夫!!?」


 両腕で顔を塵や砂埃を含んだ爆風からガードしながら、蒼汰はどこかに逃げおおせたであろう少女たちに声をかける。


 舞い上がった砂塵で周囲の状況は分からない。

 視界が遮断され、蒼汰は聴覚だけを頼りに彼女たちの安否を探る。


「……だ、大丈夫! 生きてるよ吉野君!!」


 前方から聞こえる幸奈の声音。

 

「私は無事です! 蒼汰君は大丈夫ですか!? お体は!!?」


 続いて自分よりも蒼汰を案ずるヘスティアの声が轟いた。


「よし……。藤ノ宮は!?」


「私も無事よ。大丈夫」


「全員無事だね。精鋭部隊との合流前だけど、敵の到着の方が早かっ――」


 そう続いた蒼汰の言葉は、続いて放たれた第2射目の着弾音によって大いにかき消される。


 むせ返るほどの熱波が喉を焼き、肌を炙り、蒼汰の体は宙に浮いた。


 そんな吹き飛ばされそうになる蒼汰の腕をヘスティアが鷲掴み、何とか彼の空中浮遊を阻止する。

 

 爆風と爆炎が鳴りを潜め、連続した魔導砲撃も一旦休息時間に入る。

 高熱になった道路の残骸に身を潜め、麗は冷静に周囲を警戒ながら口を開く。


「未だ精鋭部隊は目視下にないわね。だから私たちは3人で厄介ごとを払いのけないといけないわよ」


 ――いつも通りの気の乗らない日常ね。


 落胆し軽口を叩く麗。

 彼女は土埃で染められた髪を払い、霊装を展開して生み出した拳銃を両手で握る。


 麗の後ろでヘスティアもランスを取り出し、別の瓦礫に身を潜める幸奈も変身をして臨戦態勢に移行する。


 蒼汰は土埃の吸引を防ぐため鼻と口を掌で押さえながら、瓦礫の隙間から上空をのぞき込む。

 勧告なしの空襲という無作法を働いたならず者を観察し、相手の兵力数を分析する。


(ここから見える範囲で70人くらいかな……)


 こちらの戦闘員は3人。

 対して敵側は楽観的に見積もって70人。


(本気で僕たちをここで潰す気なのかな)

 

 アルベルト、エーデルワイス、もえかのクローン、Ⅿmw――

 かつてそれらを撃破してきた魔法少女たちの功績は大きい。


 仮にそんな彼女たちを本気で消すつもりがあるのならば、一筋縄のいかない精鋭を集めた襲撃隊の可能性が高い。

 

 殲滅は厳しい。

 ならば、残された手は援軍を待ちつつ『ヴァリアラスタン』に向けて一点突破。

 または援軍が来るまで、この場での抗い。


(……この場を守って合流までの時間を稼ぐのがいいかな)


 合流時間まではもう少しある。

 援軍側にトラブルが起きていない限り、必ずここにやってくる。


「――よし」


 行動は決まった。

 援軍到着までの生存をかけての抵抗である。


 幸いこの辺りは多くの建造物が集結する商業地帯。

 敵の目から逃れることや、建物に隠れながら不意を突いての襲撃も可能となる。


「地の利を活かして生き残ろう――みんな!!」


 そう叫んだ蒼汰の瞳が赤色に染まる。


 彼の変化は周囲に伝染し、魔法少女たちの瞳の色を変化させていく。

 吉野蒼汰という存在を上位個体として認識し、彼の命令を確実に執行するための人格へと変化してく。


「もうすぐファルネスホルンの精鋭部隊がやってくる。それまで空に浮かぶ連中を撃ち落として!!」


 3人の魔法少女の武器を握る手に力がこめられる。

 最後の良心を振り払い、脅威の排除のみを専門にした狂人たちが、一斉に活動を開始する。

 

「――消えろ!! ドッキュン☆ソード!!」

 

 最初に殺意を露わにしたのはミラクル☆ユキナであった。


 フリフリのスカートを翻し、ユキナは魔法のステッキの先端に魔力を集中させる。

 ソード状に形成された魔力は高熱を帯び、周囲の大気が焦げる香りが漂う。


 敵の魔導砲撃や剣による物理攻撃を体を翻しながら回避し、ドッキュン☆ソードの攻撃範囲に敵を捉えた。

 肝の座った赤い瞳を鋭利に研ぎ澄まし、躊躇なくドッキュン☆ソードを敵の胴体に叩き込んだ。


 魔導砲撃であれユキナのドッキュン☆ソードであれ、その特徴はいわゆるビーム兵器と同質である。

 高温のエネルギーの塊が人体を打ち込まれた時点で、体の血液や組織は一瞬で溶解、焼き焦がされる。


 異臭を漂わせながら胴体を切断された魔法使いが宙へと投げ出されるのを尻目に、ユキナは続く第2の斬撃で剣を持った騎士の鎧を断ち斬った。


 ツインテールが血で汚れ、可憐な童顔を赤黒く化粧しながらも、ユキナは止まることはない。

 

 迫る敵に拳を、肘を、手のひらを撃ち込み、瞬く間に絶命させる。

 

 周囲の敵陣を単独でかき乱すほどに無双を続けるユキナ。

 そんな中、洗脳された魔法少女と真っ向からぶつかり合う群衆よりも後方、空中で待機していた魔法使いたちが魔法の杖を地上に向ける。


 その動作にいち早く気が付いたのはヘスティアだった。

 大軍勢が一度に魔法少女たちと戦おうとしたところで、過度な密集戦となって同士討ちは避けられない。

 だからあのように後方に待機し、必要とあれば後方支援を行う、そういうことだろう。


「――魔導砲撃による火力支援が来ます!!」


 そう叫びながら、ヘスティアは白銀のランスに魔力を集中させる。

 普段のようにランスにリフレクターを張り、強度を向上させることによって物理的な破壊力を底上げすることが目的ではない。

 ただ単純にランスの中に魔力を注ぎ込む。


 ヘスティアからの過剰な魔力供給により、ランスの強度は限界を超えてその身に亀裂を走らせる。

 落としただけで溜め込まれた魔力が一気に放出しそうな、まるで爆弾と化したランスを逆手に持った。


 ヘスティアの視線は上空にいる敵魔法使いの支援部隊。

 空からの一方的な撃ち下ろしポジションにいる彼らは、今もヘスティアたちを狙って魔導砲撃の発射準備に入る。

 

 だが連中は知らない。

 この戦場における制空権が、未だ連中の手に堕ちているわけではないことを。


 さらなる魔力供給で雷のような亀裂を増やし始めたランスを、ヘスティアは槍投げの要領で投擲。

 爆発的な速度で投げられたランスは空中にいる魔法使いの集団にまで到達した。


 主人の手から離れ打ち上げられたランスを横目に、敵魔法使いの動きが一瞬止まる。 

 単なるやぶれかぶれか、もしくは明確な意図があったのか判別できない状況。

 無視か迎撃か、その刹那の選択が彼らの命運を分けた。


 魔法使いの集団の中をすり抜ける直前、ランスの亀裂から莫大な魔力閃光が溢れ出た。

 その光は出口を無理やり押し広げんばかりにランスの亀裂をこじ開け、さらに多くの光が漏れ出し、そして解放される。


 上空一面を焼き尽くす膨大な魔力爆発が引き起こされ、血も血液も蒸発させる高温のエネルギーが上空の敵を葬り去ったのだ。


 その爆発の音と衝撃は地上にも影響を及ぼす。

 周囲の建物の窓ガラスを根こそぎ叩き割り、屋根を吹き飛ばし、電柱でさえも根元からへし折る威力。


 地上で戦闘中の敵も熱波にやられ、服が炎に包み込まれ、鋼鉄の鎧をまとった騎士にいたってはフライパンと化した鎧で全身を焼かれていた。


 ヘスティアのきっかけが、大規模的軍勢の陣形を大きく揺るがす。

 その隙をつき、麗が一気に飛び出した。


「――体制派(システマイザー)の工作なのかは分からないけど、街を無人にしてくれてありがとう!!」


 展開したリフレクターと洗脳によって底上げされた忍耐力で、魔力爆発の影響をある程度受け流した麗。


 制服をボロボロにしながらも、決してボロボロと崩れ落ちない殺意と戦意で敵陣へと突出。


「誰もいないのなら、無用な気遣いをせずに済むのだから!!」


 霊装の力で創り出した大型のナイフを手に持ち、身を低くしながら獣のように駆ける。

 

 かろうじて大ダメージを避けた敵の騎士の1人が腰からダガーを抜き放ち、迫る麗に向けて投擲。


 麗は投げられたれたダガーをナイフで弾き、手の甲で払いのけ、奥歯で噛んで受け止める。


 そして敵魔法使いの驚愕した表情が見えるほどの距離にまで接近。

 麗を仕留めきれず、慌てふためく敵魔法使いは腰に手を回し予備のダガーの柄を掴む――


 ――だが洗脳によってブーストされた麗が、敵の再武装など許すはずがなかった。


 握った大型ナイフを振りかぶり、驚異的な腕力と突進で勢いの付いた慣性を加えた殺意のナイフが投擲される。

 

 迫る白刃、巻き起こる恐怖。

 ナイフという明確な殺意の形が魔法使いに迫る。

 避けることもできない速度で投擲されたナイフが魔法使いの喉を穿ち、鮮血と共に魂を肉体から乖離させる。


 目の前で仲間が死に絶え、後ろで援護役に徹していた魔法少女の顔が恐怖に染まる。

 いや、顔色を変えた理由は、単に仲間が殺されたからではない。

 今まさに自身を食い殺そうと接近する赤い瞳の化け物を前にして、自分も目の前の仲間と同じ状態にされるという圧倒的な恐怖が、魔法少女を威圧したからだ。


 敵魔法少女が恐怖で怯み、動けなくなったことを確認した麗。

 周囲に散らばる敵を牽制すべく、握っていた拳銃を弾倉が空になるまで撃ち放った。


 元仲間であった死体が噴き出す鮮血に彩られた舞台上で、敵魔法少女が自我を取り戻す。

 刹那の惨殺を成し遂げた麗を惨殺すべく、敵魔法少女は手のひらに魔力を集中させる。


 しかし、凝縮される魔力が破壊能力を獲得するまでの収束率にまで引き上げられるよりも早く、麗が動いた。


 麗は瞬時に創り出した手榴弾の安全ピンを抜き、それを敵魔法少女の口の中に押し込む。

 前歯をへし折り、喉を押し広げるほどに突っ込まれた手榴弾の最後の安全装置たるレバーを外す。


 全ての枷を外された手榴弾は爆破の準備段階を経て、内部に潜める莫大なエネルギーを解き放つ。


 声にならない声を背後で聞きながら、麗は次なる目標へ視線を移していた。


(盾持ち、剣持ち、弓持ちが複数……弓兵が援護しつつ、盾兵を先頭に突撃、本命の騎士が剣で私の心臓を貫く考えね……なら!!)


 麗は瞬間的な思考を終了し、霊装に想いをこめる。


「――私たちの邪魔はさせないわ! 楯突くのであれば全力でもって肉塊にしてあげる!!」


 瞬時に創り出した戦車を急発進させ、盾兵もろとも騎士をキャタピラで踏み潰す。

 搭載された機銃を遠隔操作し、弓兵を銃撃で牽制しながら戦車砲を撃ち放った。


 旧時代的な装備に身を固めた敵兵を1人、2人、あまつさえ2桁を即座に仕留める麗。

 だが彼女の表情には達成感など感じられず、心ここに在らずといったように別のことを気にしていた。


(こっちが何人もぶっ殺しても数が減らないわ……これ以上の物量では蒼汰様にも……)


 麗は効率的に敵を抹殺している。

 だが彼女の処理速度が追いつかないほどの速度で増える増援。

 最初は70人かそこらの戦力であったはずの敵は、今では数百人にも及ぶ群衆で襲いかかってくるのだ。


(それに、何だか疲れて……殺意は潤沢でも、体が殺意に追いつかない……)


 原因不明の謎の不調。

 蒼汰の命令を確実に遂行できるように、洗脳が彼女の身体機能を極限にまで引き上げているはずだ。

 

(洗脳の仕様を覆す原因……一体なぜ?)


 考えても答えは出ない。

 思考中にも断続的な攻撃は止まない。

 麗は思考をシャットアウトし、目の前の敵を見据える。


(それにしても、この攻撃、あの敵軍、我々を舐め切っているのかしら?)


 洗脳によって麗たちは大天使から無尽蔵に近い魔力供給、底上げされた戦闘力、良心の欠如から成る殺人への無配慮を獲得している。

 今や戦闘特化型の人体兵器である彼女たちの能力情報など、すでに筒抜けになっているはずだ。


 しかしながら、敵は対症療法にもなるか否かという程度の抵抗しか見せない。

 麗たちを本格的に殺そうとする気のない攻撃、何か裏があるのだろうか。


 しかし良いか悪いかは差し置いて、麗の思考が瞬時に否定される出来事が起きる。


 上空、敵魔法使いよりもさらに上空に現れる黒点。

 それは徐々にこちらへと近づいており、その姿かたちが僅かに視認できそうなくらいの距離にまで接近してきた。

 そのとき、上空にいた敵魔法使いが次々と血を噴き、大地に向かって墜落を始める。


 蒼汰が瓦礫のバリケートから身を乗り出し、上空の異変を認識しようと目を細める。


「あれは、超長距離からの砲撃……」


 背後から奇襲される形で撃ち落とされる上空の魔法使いが、対応に遅れて徐々に数を減らしていく。

 幾重もの過重弾幕が空を突き抜け、銃弾が夕焼けの空を焼き焦がす。


「――蒼汰様!!」


 背後で彼の名を呼ぶ声。

 麗が呆気に取られていた蒼汰の襟首を強引に鷲掴み、瓦礫の後ろに引きずり込んでいく。


「今はまだ戦闘中です、頭を上げてはいけませんよ?」


「ご、ごめん藤ノ宮」


 聞き分けのいい蒼汰の返事を受け、全身を煤と血で汚した麗が微笑みを浮かべる。


「この調子であれば敵の殲滅も現実のものとなります。上空の敵は精鋭部隊に任せて、私たちは地上の残存戦力を無力化します」


「精鋭部隊ってことは、あれが……」


 全身を黒いボディスーツに包み、背中や腰に戦闘機のような翼やエンジンを背負った異形の姿。

 あらゆる方向にエンジンを動かし、空中を縦横無尽に飛行しながら携えた武装で敵を葬り去っていく。 


 手持ちの小銃で敵を射抜き、携えた刃先が敵を貫く。

 連携の取れた空中戦法で敵をなぎ倒していき、それに対抗のできない敵はなぶり殺しである。


 空中機動で漆黒の長髪を振りまき、端正な横顔に硝煙と血糊をまぶす女性がいた。

 体のラインが大胆と浮き上がるボディスーツを華麗に着こなし、戦況を見極めながらその都度指示を出して部隊を動かしているようにも見える。


 そんな彼女が一瞬地上にいる蒼汰たちを一瞥し、敵の攻撃を受け流しながら咽喉マイクに声を吹き込む。


『――遅くなって済まない、こちらはファルネスホルン最高評議会直属、遊撃大隊『アイドレード』大隊長、ノエル・ウィルバート特務少佐だ。諸君らの護衛を仰せつかった』


 体のどこかに取り付けられたスピーカーから、勇者の登場が如き端麗で凛とした女性の声が拡張される。


「ルートはこのまま直進、アースポートへ向かえ。私たちは君たちのエスコートをするとともに、襲来する敵残存兵力の掃討を行う」

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