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再襲来

 魔導兵器を交戦不可能となるまで破壊した。

 それで丸く収まるはずだったのだ。


 蒼汰を震え上がらせた巨体は、数を増やして再び舞い降りた。

 一気に2体が追加され、その巨躯にふさわしいほどに大型化された砲塔がこちらを向く。

 

 魔導兵器の安全装置が解除され、全ての武装に火が入る。

 そして繰り出される砲火の直前、蒼汰はいち早く声を張った。


「――殲滅して!!」


 大天使の洗脳を過分に含んだ声音が、一瞬にしてヘスティアとユキナの脳を支配する。  

 地面を蹴り、ヘスティアとユキナが跳躍。


 エーデルワイスは鍵を持ち、足元の扉に打ち付ける。


 蒼汰を見つめる2本の砲塔の魔力収束が、発射可能領域に到達。

 

 だがその時、蒼汰に向けられた砲身が向きを変える。

 狙いは足元に散乱する建物の残骸――鍵穴の付いた扉である。


 そのどれかからエーデルワイスが顔を出す。

 彼女のゲートの出口に向かって、魔導兵器は無言の魔導砲撃を撃ち放った。


 足元が爆発。

 形の残っていた瓦礫は粉塵と化し、空中高く撃ち上げられる。

 複数の扉をまとめて吹き飛ばす魔導砲撃は地面を抉り、クレーターを作り出す。


 敵の思惑を知り、蒼汰の肝が冷える。

 1体目の魔導兵器に対して行った戦術。


 それを見ていたのか、もしくは情報を共有してか、その場で対抗策を練った。

 学習し、そして次に生かす。

 それにより、エーデルワイスが姿を現す扉を事前に破壊した。


「「――っ!!」」


 魔導砲撃によって発生した熱気領域内に、ヘスティアとユキナが吶喊をかける。

 

 戦意は十分。

 あの大きさの割に、魔導兵器の戦闘力は大したことはない。

 仮に大出力で魔導砲撃を放出しようものなら、チャージ中に徹底的な攻撃を仕掛ければよい。

 

 洗脳による爆発的な戦闘力向上が、ヘスティアの攻撃を先鋭化している。

 そして洗脳中の精神は、冷静に攻撃対象を葬ることができるだけの安定性を確保する。


 ランスを構え、大きく地面を蹴り上げる。

 十数メートル跳躍し、ヘスティアは鋭利なランスを突き出した。


 大気を滑るランスの刃先。

 摩擦熱を発生させながら、彼女の刺突は烈火の勢いで魔導兵器砲身に襲い掛かる。


 確実に砲身を突き刺す正確な狙い。

 それにもかかわらず、ヘスティアの手に伝わる衝撃は驚くほどに軽いものだった。


 その時、彼女の視界を占める魔導兵器の影が消えた。

 ランスの刃先には僅かな金属片が付着しているのみ。

 そこにあった巨大な砲身が、一瞬にしてそこから消失した。


 彼女は頭上を見上げ、それを見た。


 鈍重な鉄の塊が、空高くへと跳躍していたのだ。

 かの敵はエンジンに火をつけ、突発的な機動で回避行動をとった。


 その近くでは、ユキナが敵脅威と肉薄。


 もう1体の魔導兵器の機銃を避けながら、拳を頭部に打ち込んだ。

 

 頭部装甲を変形させるほどの打撃は魔導兵器の全身に伝わる。

 4本脚がもつれ、胴体から地面に向かって倒れこむ。


 ユキナはその瞬間を逃さず、無防備な頭部に続けて攻撃を加えるために拳を引いた。


 だがこの時、複数の推進装置に火が入った。

 エンジンノズルから火が噴き、その巨体を宙に浮かすことのできる推進力を得る。


 そして推進力は瞬時に増大。

 ユキナの正拳をギリギリ躱すほどの超加速を実現する。


 1体目が見せることのなかった『回避』という概念。

 

 大きく飛んだ2体の魔導兵器は、スラムの端に着地する。

 そして間を置くことなく、2体が同時に前足の2本を折った。


 砲身を突き出すような前傾姿勢。

 最初蒼汰を砲撃した時と同じ姿勢である。


 ――また砲撃がくる!


 蒼汰は身構え、ヘスティアとユキナは追撃を開始する。


 だが、かの機械は魔力充填を行わなかった。

 代わりに全身の装甲がスライドし、中から黄色に光る発行体が露出した。


 全身を覆う黄色のプレートは徐々に光量を増し、今にも破損してしまいそうなほどに強い光を発している。


 ヘスティアとユキナは強い危機感を覚えながらも、蒼汰の命令を優先。

 その巨体に刃を突き立てるべく猛進する。


「――あれは、あれはだめだ!!」


 蒼汰の直感が恐怖した。

 見たことのない発行体に向かう2人に声を張る。


 だが、小さくなった2人の背中には届かない。

 言葉が届かなければ、彼女たちを止めることはできない。


 蒼汰は足場の悪い砂利道を走り出した。

 瓦礫を踏み越え、建物のなれの果てを乗り越えていく。


 だが、もう遅い。

 魔導兵器の光は臨界に達し、2人の魔法少女も接近。


 蒼汰は走って近づこうとも、声が届く距離まで詰められなかった。

 

 ヘスティアはランスを、ユキナは拳を構える。

 

 黄色のプレートの光量増加が停止し、凝縮した光を一気に放出――


 ――その一呼吸にも満たない間に、天から降り注いだ1本のサーベルが魔導兵器の頭蓋を貫通した。


 頭を貫かれた巨体から全ての光が消失。

 断末魔の咆哮を上げ、その場で静かに息を引き取っていく。

  

 そして隣の魔導兵器が光を解放した瞬間、それを阻止するように上空より人影が舞い降りた。


 爆発的な速度で飛び降りた人影は、逆手に持ったサーベルを突き下ろす。

 

 同じく脳天を穿たれ、刀身が深々と突き刺さる。

 オイルが散乱し、黄色のプレートの光が鳴りを潜めていく。


 それは短時間で起こった出来事だった。

 緊迫した時間は過ぎ去り、2体の魔導兵器は魂の抜けた鉄塊と化したのだ。


 魔導兵器が沈黙したことで、ヘスティアとユキナの洗脳が解ける。

 そこに蒼汰も到着し、少年の到達に2人が視線で出迎える。

 

「吉野君……」

 

 洗脳中の記憶のないユキナが、動かなくなった魔導兵器を前に訝し気な声を漏らす。


「……」


 反対に、記憶の欠落から洗脳を受けていたと感づいているヘスティア。

 

「あれは何とかなったから……もう大丈夫」


 声に覇気がない。

 上の空といった様子の蒼汰は、魔導兵器の頭上に立つ人影を見ながら呟いた。


 その時、蒼汰のすぐ後ろの建物の扉が開け放たれた。

 反射的に振り向き、気を引き締めた蒼汰が息を呑む。

 

 扉の縁から手が伸び、ヒールを履いたスラリとした足が覗き見える。


「――まったく、もう最悪だわぁ」


 悪態をつき、肩で息するブロンド女性。

 血を流したエーデルワイスが、切れるような瞳で周囲を確認する。


「エーデルワイスさん……」


 警戒モードのエーデルワイスに声をかける蒼汰。

 彼の姿を視認し、彼女は朗らかに微笑みを浮かべる。


「もう、ひどい坊やぁ。私に怪我をさせるだけさせて、活躍の機会を奪っちゃうんだからぁ」


「いえ、あれを成したのは僕たちじゃなくて……」


 意味ありげな蒼汰の言い訳に、エーデルワイスが眉をひそめる。


 自分から外れた蒼汰の視線が、上へ昇っていることに気が付いたエーデルワイス。

 彼の視線を追い、彼女は魔導兵器の上に立つ人影を目撃した。


「あれは……」


 エーデルワイスは剣を納め、扉を抜けて蒼汰の隣に立つ。

 4人の視線が集まる中、太陽を背景にした魔導兵器殺しの口がゆっくりと開く。


「――すまない、遅くなったな」


 魔導兵器の上から声が降り注ぐ。

 

 太陽が邪魔をする中、目を凝らしてその正体を視認する。


 黒髪を揺らす、長身の男。

 黒を基調としたマントと軍服を身にまとい、煌びやかな鞘を腰に垂らしている。


 魔導兵器の頭脳を貫いたサーベルを引き抜き納刀。

 地上20メートルはある頭部から足を踏み出し、地面に向かって一気に飛び降りた。


 魔力による衝撃吸収もなく、鈍い音を立てながら硬いブーツで着地する。


「――タイムマシンが到着した。この時間軸を離れるぞ、()()()()


 自己紹介もなく、一方的な会話が進行する。

 誰もがポカンと口を開く中、蒼汰は男の素性を問いただす。


「あ、あの! あなたは一体……」


 黒髪の下の瞳が蒼汰に向けられる。

 蒼汰はとても強い色をした彼の目を見続け、返答を待つ。


「――ファルネスホルン最高評議会本部から派遣された、奥村真広だ」


 その瞬間、蒼汰は頭を強く打たれるような感覚に陥った。

 

「奥村……真広……」


 それは、真広の強烈なオーラを叩きつけられたからではない。

 奥村真広という、蒼汰の記憶に刻まれた名前。


 その名前は、失踪した蒼汰の姉の口からよく語られていた名前である。

 そんな彼がファルネスホルン最高評議会から派遣されてきた。


 揺れる蒼汰の瞳を覗き込んでいた真広が、再び口を開く。


「……君が吉野蒼汰か」


 まるで蒼汰を知っているかのような口ぶり。

 いや、ファルネスホルンの人間である限り、大天使をその身に宿す蒼汰の存在は知っていてもおかしくはない。


 だが今の真広の言葉は、組織の重要要素としての吉野蒼汰を指したものではない。


「君のことはよく聞いたよ――」

 

 ――君の姉から。


 蒼汰には聞こえない音量で語った、君の姉という倒置法。

 

 真広の僅かな口の動きに眉をひそめる蒼汰であったが、すぐに『はい』と答えてスルーした。


 空気が揺れる。

 魔法少女やエーデルワイスのスカートを揺らしながら、地面の広い面積を巨大な影が覆った。


 上を見上げれば、太陽の光を遮るようにゆったりと下降するタイムマシンの船底があった。


 衝撃を感じさせない柔らかな着地に成功したタイムマシン。

 蒼汰たちを招くように、搭乗口の扉が開く。

 

 蒼汰以外に彼の姉を知る真広が、背後に到着したタイムマシンに親指を指した。


「――タイムマシンに乗り込んでくれ、日本支部諜報長官がおいでだ」

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