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水曜日の彼女  作者: 揣 仁希
冬の始まりから新たな始まりへ
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水曜日の誕生日

ケーキ焼くのって難しいですよね。

シフォンってペシャンコになったりしませんか?


その日、鈴羽を仕事に送り出してから僕は大忙しだった。

何故なら今日は鈴羽の、僕の大切な彼女の誕生日だから。

午前中にギリギリ間に合った指輪を取りに行きダッシュで帰宅、ケーキ作りに精を出す。


今日は2人きりで祝うからそれほど大きなケーキは焼かない。

けれどただ一人のためだけに作るので妥協は一切しない。

僕は生地を練りながらつくづく料理が得意で良かったと思っていた。


今日のケーキはシフォンにしてみた。今まで何度か作ったけど鈴羽がかなりのお気に入り具合だったのでそうした。

生クリームもちょっといいやつを使う。

生地の焼け具合を確認しつつ晩御飯の用意も同時に進める。

ちょうどいつも行くスーパーでカニが安売をしていたので焼きガニとカニ飯を作る。

ご飯は若干おこわ風にアレンジしてみた。


うん。我ながら中々にいい出来だ。


リビングにいい匂いが漂ってる。

こうして半日かけてケーキを焼いてご飯の用意を済ませた頃にはすっかり日は暮れていた。


「もうそろそろ鈴羽帰ってくるかな」

夕暮れの街を窓から見つめ僕はポケットの中の小さな箱の感触を確かめた。



「ただいま〜」

「おかえり。今日もお疲れ様」

「つ〜か〜れた〜ちゅっ」

いつも通り玄関で軽く抱擁をしてキスをする。


「あれ?なんかいい匂いがする〜」

リビングに入ってすぐに鈴羽がくんくんと匂いをかいでいる。

「あはは、今日は、ほら、鈴羽の・・・ね?」

「え〜皐月君、何にも言わないからもしかして忘れてるのかなって思ってたのよ」

「そんなわけないじゃない、驚かせようと思ってね」

抱きついた鈴羽を抱きしめて僕はそう言って笑う。


「たま〜に皐月君ってイジワルよね」

「サプライズって言ってほしいなぁ」

イジワルよね〜と笑いながら鈴羽がお皿やコップを用意してくれる。


「じゃあ晩御飯にしようかな」

「うん」


焼きカニとカニ飯は中々に好評だった。

季節的にはちょっと遅かったけど冬場だけってわけでもないので良しとしておこう。


「はぁ、皐月君の女子力がますます高くなってる」

「そうかな?料理好きだしね、僕」

「好きなだけじゃここまで作れないよ?」

「好きな人の為に作ってるからかな」

「・・・サラッとそういうこと言うんだから」


晩御飯の片付けをしつつ実際、自分だけならこんな料理は作らないし鈴羽が食べてくれるから作ってるわけで。


「今回は鈴羽の好きなシフォンケーキにしてみたよ」

「・・・この辺が女子力高いなのよね」

「シフォン好きでしょ?」

「それは、まあ、好きだけど」

スプーンとお皿を並べてからケーキにロウソクを立てて部屋の明かりを消す。


「じゃあ改めて・・・鈴羽、お誕生日おめでとう」

「ふふっありがとう。なんか照れるわね」

ふぅーっとロウソクの炎を吹き消す。


パチパチパチと拍手する僕。

「ふふふ、もう、やめてよ」

「そう?」

「またひとつ、おばさんになっちゃったわね」

「あはは、鈴羽はいくつになっても鈴羽だよ」

「10年後もそう言ってくれるかしら?」

「もちろん。ケーキを焼いて待ってるよ」


去年の今頃は遠くから眺めてるだけだった彼女(ひと)とこうして誕生日を祝っている。

本当に出逢いってわからないものだよなぁ。


美味しそうにケーキを口に運ぶ鈴羽を眺めて僕はあの日、あの時の出逢いに改めて感謝していた。










お読み頂きありがとうございます\(//∇//)\

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