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第二話 【状況確認】

「姓はテラサカ、名はケーヤ……齢18、元の世界の名は……地球、で合ってるかな?」


「……はい。合ってます」


 ラウネンからの質問に、圭哉はイエスの返答をする。

 今二人は、先程の山賊達の跋扈する森を抜け、『ハイニッツ王国』とやらの『王都』へ向かう最中の宿場にいる。

 そこで互いの状況説明を、互いに嫌々ながらしている。

 もう既に日は落ち、圭哉に懐いていた魔物は自らのテリトリーから離れられないのか、ある地点からついてくるのを止めていた。


「君はコウコウセイという身分で、もう暫くしたらハツデンとやらの技術者として働く予定だった、と」


「……はい。間違いありません」


「18になってようやく働くのか。随分君の世界は気長なものだな」


「まあ教育制度が充実しているからというか……こっちの世界で山賊とか見たことありませんし」


「ほうほう、随分平和なことだな。それならば君のあれほど弱腰な態度も仕方がないといったところか」


「あんた何様なんですかほんとに」


 自分も大概何もできなかったくせに。

 言葉の外にその意味を込めるが、気付かないのか無視しているのか、ラウネンはそのまま話を続ける。


「ではでは、説明せねばならないだろうね。何故私が君を元の世界……地球に返せないかを」


「言い回しがいちいち尊大だなこの人……」


「言ってしまえば、私は実は召喚士ではないのだよ」


「?……はあ」


 よくわからない。

 召喚士でないのならどうやって圭哉をここへ呼んだというのか。

 いや、召喚士と言われた所でピンと来ているわけではないが。


「召喚の為の知識だけはちょっとした都合で持っていてね。(いん)と言霊は覚えていて、実行してみたら君が出てきたってわけさ」


「はあ。印と言霊ってのがよくわかんないですけど……」


「ああそうか、そもそも君の世界には霊精の概念すらないのか……仕方がない。強引な説明になるが聞いてくれ」


 ラウネンの説明はこうだった。

 この世界は霊精っていう目に見えない力が、空気と同じようにあって、それを印と呼ばれる魔法陣等の霊精のカタチを変えるための術式、言霊と呼ばれる霊精の原動力ようなもの使って、魔法だの召喚だのを使う。

 元々ラウネンは魔法使いで、ちょっとした都合で魔法が使えなくなっている。

 そんな最中山賊に襲われたもんだから、にっちもさっちもいかなくなって駄目元で召喚してみたら圭哉が出てきた―――


「なんか巻き込まれ感凄いな俺!?」


「だから悪かったと言っただろう?」


「何ちょっと上から目線で言ってんのあんた……」


 なぜか余裕が表情や態度から滲み出るラウネンはそんな圭哉の嫌味も軽く無視し、話を続ける。


「そんな訳で、分からないんだ」


「……何が?」


「君を返す方法が。分からないんだよ。実際に召喚士としての修業を積んだわけでもなく、適当にやってみたらできてしまったから」


 ラウネンはにこやかな表情を崩さずに言ってのける。

 その内容があまりにラウネンにとって何の感傷も与えていないように見えて、圭哉はその耳と目を疑っている。


「えーっと、つまり……?」


「うん。召喚しておいて済まないけど、君の帰り方なんか僕の知った事じゃないから他をあたってくれないかな」


「ふざっけんな!!」


 絶叫。隣の部屋から壁を殴る音が聞こえるが、俺は悪くねえと圭哉は開き直る。


「おいおい、そんなに叫ぶと山賊に斬られて宿の主人に回復魔法で治してもらった君の左肩の傷が開いてしまうじゃないか」


「ご説明どうも!わざわざ言われなくてももう開いてます!!」


 怒りに任せて叫んでみたが、怒りは痛みと共に倍増し、結局不快だ。くそう。

 そんな思いを抱きつつ、圭哉はラウネンを睨むと、その眼光に屈したわけではないだろうが、ラウネンはニヤニヤと笑みを浮かべながら一息つき、片手をひらひらと動かしながら、


「冗談さ。きちんと責任をもって私が調べるよ。あのまま山に捨ててくればよかったなーなんて考えていないから、安心したまえ」


「何で今そんな無駄な一言付け加えた!?思ってなかったら出てこないだろそんな言葉!」


「君は楽しい奴だな」


 クックックと喉を楽しげに鳴らすラウネンに、ただからかわれていただけだと悟った圭哉は、それ以上の反抗をその日はしなかった。


 * * * * *


 その日は治療と休憩だけで日が落ちた。

 宿屋の主人には改めて回復魔法をかけてもらい、体力的にも精神的にも摩耗した圭哉は次、陽光が差すまでベッドから起き上がる事が出来なかった。


 * * * * *


 ―――翌日……宿場、玄関。


「よしよし、すっかり回復したようで何よりだよ。その様子ならば本来私が一人なら、既にたどり着いたであろう我が家へと帰ろうではないか」


「……これからあんたの言うことは半分くらい聞き流すことにします」


「ははは。それもよかろう」


 圭哉はぶっきらぼうに言葉を吐いた後、包帯を取り去り、昨日怪我があった場所を指でなぞる。

 そこには山賊のナイフによって抉られた肉も、裂かれた皮の痕も無く、いつもの自分の左肩があった。


「……すげえ。これが異世界」


「二回も回復を頼んだせいで宿泊費が無駄に嵩んだがね」


 そんなラウネンの愚痴を余所に、圭哉は自分たちと同じく宿場を出ようとする人々を眺める。

 圭哉自身に人間観察の趣味も無ければ、基本的に赤の他人との関わりを面倒臭がる性質なので特に親しくもない人物を眺めるのは珍しいことだ。


 そんなことを自分で勝手に思いつつも、圭哉はその珍しい行動を続ける。

 何故なら、圭哉が眺める人物が圭哉自身にとって珍しいからだ。


「ほうほう。君の世界には獣人はいないのか?」


「……ん、そうなんですよ」


 ラウネンは圭哉の視線から察し話を振る。

 圭哉は異世界文化には今のところ驚かされてばかりだが、一番目を疑うのは獣人の存在だ。


 狼の耳に尾。毛むくじゃらの身体。横に広い口。

 どういう風に進化すればこうなるのだろう。と、高校で生物の授業を一応取っていたので凄く気になる。


「王都に行けばいくらでも見られる。それと一つ忠告するが、獣人と人間の関係は十七年前の戦争以降、未だに良好とは言い難い。物珍しいからと言ってそんな熱い視線を送ると難癖をつけられるかもしれないよ」


「あ、はい。わかりました」


 話半分にとはいえ、圭哉にとってこの世界を説明してくれるのはラウネンしかいない。皮肉は気にせず、素直に言われたことには従うのが正しいだろう。

 そんな様子を意外に思ったのか、ラウネンは眉を上げる。


「まあ、良い。行こうか」


 そう言うと、ラウネンは地図を開き、その上に指を指し示す。


「ここが現在地。昨日も教えたがプルウェア領だ。ここから西へ行くとテルトーという村がある。そこには馬車業者が居るから、そこで足を確保して王都へ向かう」


「なるほど」


「テルトー村までは3時間程歩く。君は見るからに運動が得意ではなさそうだが、大丈夫か?」


「一応陸上部だったんで大丈夫だと…っていうか失礼じゃありません?」


「リクジョウブが何かは分からないが、大丈夫なら出発だな」


「皮肉をスルーし始めたことを意趣返してるぞこの人……!大人気ねぇ……!」


 話し終えると早速ラウネンは宿を出る。

 圭哉もそれに続き、外へと向かう。


 昨日は怪我の痛みや混乱のせいでまともに観察できていなかったが、よく見ると植生も元の世界と違うようだ。

 葉の色が時間で様々変化したり、ごつい幹のように見えて触ってみると意外と柔らかかったり、SF映画なんかで見る奇妙さだ。

 常識が通用しないというのはどうにも不思議な感覚で、今まで疑ったことのないものが覆されるのはふわふわと落ち着かない。


 それなのに人間の姿かたちや言語なんかは似たようなものだからそれも不思議だ。

 よく考えてみれば太陽もあるし体に異常がないことから考えても空気の成分が違ったりということも無さそうだ。

 まあそんなことを考えても、圭哉は学者ではない。それによって何か儲けが出る訳でも、得がある訳でもないので、これ以上はやめておこう。


「この道を行くぞ。私は約束があるので、急がなければならないんだ」


「そうだったんですか、なんだか暗に僕のせいで遅れていると責められている気がしますんで、急ぎましょうか」


「頭が悪くないのはいいことだ。皮肉が無駄撃ちにならずに済む」


「くそっ!皮肉返しが通用しない……!」


「君とは楽しくやっていけそうだよ」



 ―――王都へ向けた旅路が、始まる。

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