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第一話 【初対面】

 ―――眩しい。


 それ以外の感覚は一切麻痺し、音、におい、重力や自らを包む空気の感覚さえ感じない。


 自分は今立てているのか?今、瞼は閉じているのか?開いているのか?

 寺坂圭哉はそんなことさえも解らない。


 何故こんなことになったのかさえ曖昧だ。

 確か、友人である皐月桃介と共に帰宅している途中、アニメの話をしているのを聞いていて―――そう、魔法陣。


 確か魔法陣が急に顕現して光を発した。

 その光の衝撃のせいで今俺はこんなにも混乱して――――


 そこまで考えを巡らせた後、圭哉は自らが多少落ち着きを取り戻したことを理解する。

 感覚も戻って来た。草木がさざめく音も、胸に広がる土のにおいも感じる、足が柔らかい土を踏みしめていることも―――




「え?」


 瞑っていた瞼を持ち上げ、視力が回復していたことを確認する。

 すると、目の前にはいつものアスファルトで舗装された道路、そこを横断するときタイミングを指示する信号機、いつも馬鹿話をする友人の姿が―――


「―――ない………え、ここ、どこ?」



 森だ。

 視覚、聴覚、嗅覚。この三つの機能が圭哉の脳にここは森だと主張している。

 普段であればその機能は疑うべくもなく信用し、その主張は難なく受け入れられるのだが…

 さっきまで圭哉は歩道を歩いていた。桃介と共に。


「え、えぇ……」


 あまりに唐突な出来事に言葉が出ない。

 圭哉は足元を見てみると光を失った魔法陣がそこに描かれていた。


「……これのせい、か?」


「―――もし、いいかな」


「!?」


 圭哉が魔法陣から出ようと足を上げると付近に人が居たらしく、男が声をかけてくる。

 この状況を説明してくれる人なのかもと思い、声のした方を振り返ると…


「……え、コスプレイヤー?」


「聞き覚えの無い言葉だが、何となく勘違いをしていることだけは伝わって来たよ」


 よく通る低めの声の持ち主は、深い青のローブを纏っていた。

 被っている帽子はシルバーで縁取られ、模様は白い糸で編まれ、多分相当金がかかっている。

 ローブの上からかけられた三重に巻かれたネックレスは金でできているようで、煌びやかすぎて中々趣味が悪い。

 そして最もコスプレ感が強くなっている原因であるその右手に収まる杖の先は二股に分かれており、それぞれの端になんだかよくわからない宝石が埋め込まれている。


 何というか、自分の目を疑うレベルで変な人だ。まさか一日で二回も自分の感覚を疑う日が来るとは思ってもみなかった。


「えーっと……?」


「ああ、すまないね。いきなり呼んでしまって」


「は?」


 何を言っているんだろうこのこの人。

 格好だけじゃなく言動もおかしい。


「あ、すいません。俺、ちょっとなんか混乱してるみたいで…えっと、ここってどこですか?」


「ふむふむ。それは当然の疑問だね。ここはハイニッツ王国プルウェア領だ。すぐ隣はノイブルク帝国なので、あまり治安は良くないが……」


「……んん?」


 噛み合っていない。

 圭哉は改めて自分の状況を一考する。

 眩しさに目を閉じる前までは、確かにいつもの通学路にいた。

 それが、急に現れた魔法陣が急に光りはじめ、気が付いたら変な格好した変な人に変な場所だと教えられ…


「あ、夢か」


「なんとも急な結論だね。まあ仕方がないとは思うけれども…じゃあ、そんな君に現実の説明を授けよう」


 苦笑いを浮かべたローブの男は軽く両手を広げ、圭哉を歓迎するように口角を上げ、話始める。


「私の名前はラウネン・フォーアラー。ハイニッツ王国王都にて…召喚士をやっている。現在はこのプルウェアの森林に、薬の材料を採集に来たところだ」


「はあ、そうですか………ん?召喚士?」


「ああ。さっきも言ったが、その魔法陣は私が書いたもので、君は私に召喚されたのだよ」


「……はあ!?」


 本当に夢なんじゃないだろうか。

 まさか自分がやる日が来るとは考えたこともなかったが、圭哉は頬を抓ってみることにする。


「……いたい」


「急にどうしたんだい君は…それは君の世界ではどういった意味の事なのかな」


「夢ならこれで覚めるかなって……」


「ほうほう、ではこれが夢でないことは既に証明されたと思っていいのかな?」


「俺はまだ半信半疑ですけどね……」


「……では何のために君は自傷を?」


 眉を寄せ、圭哉がやった事をよく理解できずにいるラウネンと名乗った男は、瞑目し、改めて言葉を続ける。


「それで、君を召喚した理由なのだが」


「ああ、そうですね。……いっそ夢ならこのまま起きるまで付き合ってみるか」


「ふむふむ、前向きに考えてくれたようで何よりだ。では依頼させて頂こう」


 ラウネンは圭哉の肩を越して指をさす。圭哉も振り返り、指示された方向を向く。


「私はシマを荒らしただのなんだのと因縁を付けられてね。山賊達から逃げていているんだ。あっちの方から追ってきている筈だ」


「はあ」


「そんなわけで、君には山賊退治を依頼したい」


「……え、無理です」


 圭哉の即答をラウネンは予測していなかったらしく、一瞬、驚きに目を開く。

 しかしすぐに落ち着きを取り戻したようで、圭哉に新たな言葉を投げかける。


「どうしてかな。依頼を聞いてくれるとの話だったが」


「いや、山賊退治って……俺ただの高校生ですよ?」


「コウコウセイ?」


「え、あー……この世界高校ないのか。えーっと、勉強中の身ってとこかな」


「ほうほう。しかし私は山賊を退治するための召喚術式を描いて、そこから君が現れた。君が自覚していないだけで山賊を倒すだけの能力は持っているのでは?」


「いやいやまさかそんな……」


 そんなまさかだ。

 圭哉は体育の成績も並。部活も陸上部に所属はしていたが、大会で結果を残したりとかそういったレベルの事は全くしていない。

 人と殴り合いの喧嘩をしたことも無ければ隠された能力を秘めているなんて勘違いをする年頃も優に超えた。


「なんか不思議な力が付いた気もしないし……山賊を倒すなんて無理―――」




 ―――そこに、圭哉でもラウネンでもない、地面を荒々しく踏み躙る音が響いた。


「見つけたぜぇ!雑魚術者ぁ!」


「おっと、来たか」


 ラウネンの謎の期待に対する反論を考えていた圭哉の背後に、無精髭を生やした半裸の見るからに野蛮そうな男が現れる。


 こいつが例の―――


「そう。君に退治してもらいたい山賊だ」


「えっ、いや無理でしょ」


 山賊の男があらわにした上半身には、普通に生活しているだけではまず付かない量の筋肉がついている。

 その肌の表層にはいくつもの傷跡がり、いかにも今まで戦いを切り抜けて来ましたような雰囲気を醸し出している。

 それに加え山賊の手には刃渡り40㎝程のナイフが握られている。恐らく使い込まれているのだろう。根元が赤く、血色に錆びている。


「ああ?てめえ召喚士だったのかぁ?こんなガキ召喚してどうするつもりか知らねぇが、そいつもろともぶっ殺してやるぜぇ!」


「ふむふむ。私としてはぶっ殺されるのは困るので、どうにか頼むよ」


「俺としては頼まれるのも困るんですが!?」


「やっかましい!」


「どぅあ!?」


 ラウネンの無茶振りに叫んだ圭哉に、山賊は容赦なくナイフを振り下ろす。

 それをみっともなく前方に転がりながら回避し、圭哉は事なきを得る。


「ふむふむ、その様を見るに、どうやら倒せないというのは事実らしい。本当に困った」


「あんたマジ何のために俺召喚したんですか!?」


 肩で息をしながら圭哉はラウネンへ糾弾をぶつける。

 山賊はニヤニヤと薄汚く笑みを浮かべながら、二人の方へにじり寄る。


「へへへ、テメェら二人そろって珍しい格好してやがるなぁ。売りゃぁ高くつきそうだ」


「私としてはこの装束は師匠から譲り受けた物なので、売り飛ばされるのは困るな」


「俺としては明日も学校あるから売り飛ばされるのは困るな……」


「そんな話ぁどうでもいいんだよ!黙って死ね!」


 山賊の脅しにラウネンと圭哉が嘯くと、それが癇に障ったのか、賊はまたもナイフを振り上げ、圭哉を狙い振り下ろす。

 今度は余裕をもって回避を試みるも、山賊も回避を予測し、何度も繰り返し振り回す。


「ちょっ、あぶっ!」


「けへへへ!オラオラぁ!もっとしっかり避けねえと死ぬぞぉ!?」


「ら、ラウネンさん助け……!」


「残念だが、私も君と身体能力は変わらないだろうから足手まといになるよ」


「何なのあんた!?」


「よそ見してんじゃ!ねぇ!」


 ツッコミに気を取られるあまり隙が生まれ、山賊が放つ凶刃が圭哉の左肩を襲う。

 急な衝撃に対応できず、圭哉の足はもつれ、そのまま倒れこみ、グルグルと転げまわってしまう。


「な、ぁっ、いってェ……!!」


「はっ!かすり傷じゃねえか!そんなにのたうち回るほどかぁ?いたぶりがいがあるガキだぜ」


「や、やめろ!あんた、こんなことして、警察が……!」


「あ?ケーサツゥ?んだそれぁ」


「け、警察もないのか……」


 割と無意識の内に頼っている国家機構の存在すら否定され、夢疑いのあるこの世界ですでに圭哉の心はボロボロだ。


「なんだぁ苦し紛れにそんなこと言うしかできねぇのか……ならもう死ね」


「ひっ―――」


 薄ら笑いを浮かべていた山賊はぴたりとそれを止め、ナイフを改めて握りなおすと、ゆっくりと圭哉に近づく。圭哉の胸の内には諦念、絶望、恐怖。それらの感情が渦巻き、自らの身に起こることから目を背けるために固く目を閉じ―――


「―――」


 ――――――衝撃は、訪れない。

 恐る恐る目を開くと、そこには圭哉の後ろ…さらに奥を見ている山賊の姿があった。

 その表情は硬く、驚きと恐怖が混在しているように見える。


 圭哉は山賊が見ている方向を向く。すると、そこには―――


「――――犬?なんか可愛い……」


「ば、馬鹿野郎!てめぇ世間知らずにも程があんだろ!?」


「?」


「ふむふむ。この付近にも出るのか。どうやら、君の血の匂いに誘われてやってきたようだね」


「な、何ですか、あれ……」


「あれは、魔物だ」


 ラウネンは硬い声で言い切る。

 魔物。

 ファンタジーによくありがちの単語だ。

 山賊はさっきまでの勢いは消え失せ、わたわたと後退りを始めている。


「バカな!今の今まで魔物なんてこの森に現れたこともなかったのに……!!」


「自分たちの領地だと主張するのならばそこに棲息しているものの情報位しっかり調べて置いて欲しいものだな」


「黙れ!俺は逃げ―――」


 山賊は逃げの一手を打とうと走り出すが、その行く手を魔物が塞ぐ。


「なっ!?は、はえぇ!?」


 魔物は森を振るわせるほどの慟哭をし、その大きく開かれた口をそのままに、目前にいる山賊へ突貫する。


「や、やめ―――」


 山賊と魔物の影が重なる。

 音が聞こえる。皮が、肉が、骨が、破れ、千切られ、砕ける音を

 圭哉は目の当たりにする。人が無残にも、食い破られる姿を。


 魔物が一頻り山賊を貪った後、圭哉を瞥見する。


「―――ひ」


 逃げなくては。

 しかしどうやって?

 圭哉より身体能力が高いであろう山賊は容易く餌に成り果てた。


 魔物が近付く。

 腰が抜け、立てない。

 ラウネンはどこへ行ったのか。

 そもそも彼が圭哉を召喚しなければ、こんな目に遭うこともなかった。


 ああ、目の前に死が居る。

 どうしようもない。

 こんな短時間に生を諦める経験を二度もするとは。

 いや、これは夢だ。

 きっと悪い夢で、今ここ食われてしまえばすぐに覚める―――


「…………?」


 またも、いつまでたっても訪れない衝撃に目をそばめつつ開けると、魔物が圭哉の目前にお座り…そう。お座りをしていた。

 こちらへ襲い掛かる気配もこちらを食べ物だと認識している様子も無く、ただこちらの行動を待っているような姿で。


 恐る恐る手を伸ばすと魔物は圭哉にすり寄るように顔をこすりつけてくる。


「な、なんなんだ……?」


「ワン!」


 魔物は山賊に見せた恐ろしい表情を一切収め、敬愛すらその表情に浮かべているように見える。

 すり寄ってきた顔から、首、体と流れるように撫でつけてみる。

 魔物は抵抗せず、むしろ喜んで圭哉の行為を受け付ける。

 圭哉は実は昔から何故か動物に好かれる性質で、それは魔物にも通じるのかと妙な感慨を覚える。


「おぉ……こう見ると普通の犬とはだいぶガタイが違う……っつーか口元グロ……ぅえ、吐きそう―――」


「―――何者なんだ、君は」


 声のする方を見ると、ラウネンがこちらを睨み付け、杖を構えながら立っているのが見える。

 その姿は警戒しているようにも、憤りを感じているようにも見えた。


「何者って…それはこっちの」


「魔物を操るというのは人間の所業ではない。魔術や幻術などでは説明が付かない」


 圭哉の反論は気にも留めず、ラウネンは圭哉に詰め寄る。

 魔物はそんな様子を見て圭哉を庇い立てるようにラウネンへ向けて唸り声をあげる。


「……やはり、その魔物は君を主人と思っているようだが?」


「……何でかなんてこっちが聞きてえよ……」


「魔物を従える人間なんて存在してはならない。君はまさか……魔族か?」


「……はあ?」


 ラウネンからの問いかけは全く意味が分からない。

 当然だ。圭哉は十八年間日本で生活してきた歴とした人間だ。

 それを捕まえてお前は魔族か?などと問われても。いいえの回答しか持ち合わせていない。


「あんた……勝手に召喚して勝手に疑い掛けて……もう、何なんだ!」


「……」


 ここ数分の出来事でもうすでに圭哉の頭はパンク寸前だ。

 夢だとは言え二度も死に瀕しては精神が持たない。

 もうここにいてはまたいつ死にかけるか……いや、いつ死ぬか解らない。


「もう、いいでしょう!あんたの目的の山賊狩りは終わったんだ!とっとと俺を元の世界に……!」


「……それはできない」


「ああ!?何でだよ!」


 不安とストレスから、圭哉の声が荒らぐ。

 ラウネンはその様子を見て、顎に手を置き、軽く息を吸い、一息に説明を始める。


「理由としては二つ。まず、私が山賊達と言っていたのを覚えているかね?その言葉通り、私は複数の賊に追われていてね。一人では生きて帰られるか不安なんだよ」


「そんなこと!俺の知った事じゃあ―――」


「それと、君の送り返し方が分からない」


「――――――は?」


「と、いうわけで、君にはこの森からの脱出に参加してもらうよ」


「は?は?ちょっ」


「君が魔族かどうかは後で調べるとして、今はその性質を利用させてもらう。その魔物も山賊達を追い払うのに使ってくれ。では行こう」


「待て待て待て!」


 全く聞く耳を持たないラウネンはもう歩き始めている。

 圭哉の叫びには一瞥を寄越すものの、返答するつもりはないらしく、指をクイクイと圭哉へ向けて『来い』と命令をする。

 すると圭哉は、意志とは無関係に立ち上がり、ラウネンの後ろをついて行かされる。


「ぉあ?!体が、勝手に……!?」


「当然だろう。君は私が召喚したんだ。被召喚者は召喚士の言うことに逆らえない。常識ではないか?」


「俺の世界じゃ召喚士なんてファンタジーワード、ゲームかアニメくらいでしか見ねえよ……!」


「ファンタジーワードやゲームカアニメというのが何かは知らないが、不便な世界だな。そこら辺の常識のすり合わせも、私の家でするとしよう。では、今度こそ行くぞ」


「ちょ、このっ……!ゆ、夢なら早く覚めてくれぇー!!」




 何故未だに覚めないのか。


 その答えが、これが夢で無いからだということに、圭哉は既に気付き始めていた。

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