こんな日常です
久しぶりに書いたので温かい目で見てください。
サンタ電気店内。
「新型のペンタブ、すごく描きやすいんだって」
「マジで? ちょっと触ってみようよ」
同じ年頃の女子学生たちが騒いでいる。
(ペンタブ、ちょっと触ってみたいかも……)
鳶色の髪のセミロングの少女、黒坂凛は店内の広告を眺めながらも彼女たちの話に耳を傾けていた。
「こめん、凛ちゃん。お待たせ」
小柄な少女の声に
「ミカ、私も今来たところよ」
凛は振り返る。
「スマホ新しく買うのよね。いいの選んであげるわ」
凛の言葉に、ミカは嬉しそうな表情をする。
「うぃるすばすたーって、色々種類あるんだよね。わたし、あまり詳しくないから」
数年前に設立されたエクソダス社によって、スマホのAlは大幅な変化をとげた。
Alはうぃるすばすたーと呼ばれ、今では人々の生活に欠かせない存在になっている。
「これなんてどう?」
うぃるすばすたー・アヌビス。
黒い子犬が尻尾を振っている。
それを見て、ミカは目を輝かせた。
「かわいい。この子、すっごくかわいい!!」
凛は腰に手を当てると
「最近は、動物タイプも人気よ。人型はたまにウザい時があるから」
得意そうに言う。
それを聞いて、ミカは苦笑する。
「それって、セトくん? 結構面白いと思うけど」
凛は肩を竦める。
「たまに生意気なのよね」
♦︎♦︎♦︎
「ただいまー」
凛が家に帰ると
「おかえりなさい」
エプロン姿の母親が出迎える。
玄関まで漂うスパイスの香りに、凛は眉を寄せた。
「今日もカレー?」
凛の母は嬉しそうに頷く。
「ええ、メジェドさんに聞いたらカレーがいいって」
そう言って、スマホの画面を凛に向ける。
メジェドはモデルのエジプト神と同じく相変わらず不思議な造形をしていた。
「……メシェドって、三日に一回は絶対カレーよね」
ため息をつきながら、凛は自分の部屋に向かう。
「あら、勉強ね。偉い、偉い」
頑張って、と母が応援する。
「集中するから、絶対に部屋開けないでよ」
「分かってるわよ」
凛は部屋の扉を閉めると、パソコンを起動させる。
「さすがに、見られたら変態扱いよね」
パソコンに表示されたのは、男同士の恋愛漫画の一部。
いわゆるBL漫画。
「マスター、マスター、おかえりなさい」
中性的な顔立ちの少年が画面に張り付く。
「見てください。ちゃんと、ペン入れしておきましたよ!」
凛は顎に手を当てる。
「……前よりは、進化してるわね。ベジェ曲線上手く使ったわね」
「えへへ、それとマスターが欲しがっていたもの注文しておきましたよ」
「え?」
確か、新しくペンタブが欲しいと前から言っていた。
それをセトは聞いていたのだろうか。
「Gペンです。これで、もっと細かい絵が描けますね」
「……」
凛は米神に青筋を浮かべる。
「三次元のGペンをどうやって、そっちに持っていくのよ。しかも、プレミアムついて高いし。今すぐキャンセルしなさい!」
凛にマウスポインターで叩かれ
「ごめんなさいぃい」
セトはパソコン画面の端っこに追いやられた。