「津々うらうら」
「おい、うらうら。行こうぜ」
背負った太陽と赤く染まった草原までも、やつの味方に見える。
「うらうらじゃない」
僕の本当の名前は筒井だ。筒井の「つつ」から「津々浦々」を連想したあだ名なんて、遠回し過ぎる。
「ゴロがいいだろ、うらうらって。だいたい、ツツって言いにくいんだよ」
だいたい、行こうぜって言う女の子は可愛くない。
と言い返してやろうかと思ったが、やめた。彼女の名誉のために言っておくと、可愛くないというのは口の利き方のことだ。
という訳で僕は、
「世の中の筒井さんが泣くよ」
と穏かにたしなめたのだが。
「泣くのはあんた1人だよ」
文句を言っても、いつもやつのペースに巻き込まれる。
「その点、田中見里は優秀だろう?」
名前はもらったものだから仕方ない。悔しいから、敢えてもごもごと、たなかみさと、と3回言ってやった。だけどやつは気にもせず、振り返って前を歩く。風に吹かれる草原たちと戯れるように、鼻歌交じりに背を揺らしている。
全くもって無力である。やつの背中に向けてぼそぼそと毒づいていると、
「うらうらがうだうだ言ってやがる」
と、軽快なステップのままに反撃された。
「うだうだうだうだ」
やけっぱちになって抵抗しても、聞きやしない。もはや、むだむだだ。
ふと見里は顔だけ振り返り、肩越しにふっと笑う。
やられた。
僕はいつも、この無自覚のトリックにはまっている。
こうして歩いているうちに、筒井は全国を回ってしまうのかもな。
筒井うらうら。
短くてどこへも出せない話をよく書きます。今日はここへあげましょう。




