重要人物の手がかりとギルドマスター
事情は分かった。
けど実際、俺は知っている事は何も無いからなぁ......
「悪いですけど何も知りませんよ?。もし何ならそういう事に関する呪文を掛けて貰っても構いませんし、そういう人と話をしても構いませんし」
俺がそう言うと、マスターと言われている人は笑いながら俺に話しかけてくる。
「ああ、そこは心配しなくていい、確認した」
ああ、俺が部屋の中でこの人とやり取りしている間に、別の部屋で俺の事を探っていたって事か。
「まああまり気分のいい話ではありませんが...それで容疑が晴れたのならいいですよ」
「まあそこら辺はすまないとしか言いようがないな、だがこっちもそれだけ必死なんだ」
冒険者ギルドが必死にその生存を確かめるべき人物っていうのは、余程大物なんだろうな。
俺はそう考えながら目の前のギルマスを見た。
すると目の前のギルドマスターは悪戯っぽく笑うと。
「そういう訳だ嬢ちゃん。何か情報あったら報告してくれ」
「......ギルドマスターの度重なる失礼な言い分に対する報復として、一切情報が入っても報告しないとします」
「マスター!」
「悪い悪い、軽い冗談じゃねぇか」
「その冗談で、色々不都合があっても俺は今後知りません」
俺が冷たく言い放つと、流石にまずいと思ったのか、素直に謝り謝罪を述べた。
「......全く、色々軽すぎるのと人をからかうのはマスターの悪い癖ですよ?」
「いいじゃねぇか少し位......」
「いつかそれが大惨事になると俺は予想出来ますけどね」
「すまないね。この人は体だけ大きくなった子供なもんだから」
そうエルフの男性が言ってきたので。
「いえ、この人のギルドマスターとしては軽すぎる言動でそれは分かります。大変ですね貴方も」
「本当にそう思うよ最近」
「お前ら!人をダシにして仲良くしてんじゃねぇよ!」
自業自得だと俺は思う。
「まあとにかくだ、何か情報が掴めたら私達の方に連絡を貰えると嬉しい、紹介が遅れたが私の名前はルーカス=エルマンという、そしてそこの大人になりきれてない中年がゴッザス=バーグだ」
「誰が中年だ!俺はまだ25だ!」
......正直30台半ば位だと思ってた。
「分かりました。何か情報が掴めたら、ルーカスさんの方に連絡すればいいんですね?」
「ああ、そうして貰えると助かるよ」
「おい、俺が言ってるんだから俺じゃあないのか?まだ怒ってるのかお前、もう機嫌直せよ」
マスターが何か言ってくるが、俺はそれに対しこう言った。
「マスター、マスターは本来ギルドのトップ、言わば顔役です。社長です。そんな人は普段はドンと構えておいたほうが威厳が出るというものです。だからルーカスさんに言うようにしようとしたんですが?」
「そっそうか?」
それに問題のあるこのギルドマスターに下手な情報を与えたら、何か大変な事になると俺の勘が告げていた。
俺が言った後に、ルーカスさんが後を繋いで言い始めた。
「マスター、まだ見てない書類やサインの要る書類が沢山ありますよね?あれは貴方しか出来ない事なんですよ?」
......大丈夫か?このマスター?
「あー...そういやそんなつまらない仕事も残ってたなぁ...たく、俺はギルドでジッとしてるよりも外で魔物を狩ってる方が良いんだがなぁ...?」
そう良いながらギルマスがルーカスさんの方を伺いながらチラっと見るが、ルーカスさんは至って冷静ににギルマスに。
「駄目です。あれは貴方を縛り付ける鎖のような物なんですから、ちゃんと書いて他に提出してくださいでないとエリスンさんに言いつけますよ?」
「やっやめろ!アイツに言うのだけは止めろ!頼むから!」
このギルマスの慌てよう、余程苦手な人物だとみえる。
「とっ兎に角!<エルグリート>って人物の情報が入ったら、その情報をルーカスに伝えればいいこれで終わり!帰って良し!!」
そう言われると、俺はギルマスに背中を押されるように部屋から追い出された。
まあ情報が入れば伝えるか、今はそれよりも依頼を受けて金を稼がなくては。
俺が部屋から出てギルドの窓口に戻ると、係員の人が俺に話しかけてきた。
「お疲れ様です。もうお話は終わったんですか?」
「ええ、終わりました。今からは普通に依頼を受けたいと思います」
「かしこまりました。ではそこの掲示板にランク別に依頼書が貼ってあるので、そこをご覧下さい」
そうやって勧められた先を見ると、大きな掲示板のような場所にいつくも紙が貼ってあった。
そう言えば俺のランクは確か一番下のTだったな......Aから数えたら...順位にしたら20位かよ......先が長いいなぁ......
「そう言えば、ランクは一番上でAなんですか?」
俺が係員に聞くと、係員の人は首を左右に振って否定する。
「いえ、まだ上にS、SS、SSSと有ります。まあ実質上人にはSランカーが数人居ますが、Sランクとその上のランクは主にモンスターに使われます。そしてSランクのモンスターからは(災害指定)がなされます」
......災害指定ってどんだけ物騒なモンスターなんだよ...
「主にドラゴンなど、単体で都市を殲滅、壊滅できるモンスターをSランク指定していますね」
...それ逆に言うと、人単体で町や都市を壊滅できる人が居るって話ですか?1人軍隊ってやつですか?
俺の背中に冷や汗が伝わった。
「まあ、Sランクになる時、人格・性格・功績も規定に入りますのでなかなかSランクになる方はおられませんがね」
「ちなみに何人位いるんですか?そんな人?」
「Sランカーは現在5人ですね。ほぼ国のお抱えとかの人ですが、中には放浪癖がある方が1人と、食を求めて各地を回っている人が1人いらっしゃいます」
Sランカー2人以外は主に国のお抱えなんだ。
まあ、安定収入が良いって人だろうなぁ。まあ、俺もエシュナとか居るし、安定収入有るのならそっちに行くと思うしな。
公務員万歳。
まあ今は、少しでも早くランクを上げて収入を増やすことが先決なのではあるが......
さて、Tランクの依頼ってどんなのだろう?
(〇〇さんの家に、荷物を届けよ)
(定食屋〇〇のメニューの材料のピンクラビットを30匹狩って届けよ)
(奥手な〇〇さんの恋文を代わりにXXさんに届けよ)
......待てや!どう見てもこれお使いクエストじゃないか!
しかも恋文届けよって、依頼出さないで自分で渡すか言えよ!
こんなんでLV上がるのかよ......何かヤダ。
俺がそんな事を考えていると女性係員の人が声を掛けてきた。
「どうしました?」
「いや、この中にゴブリン退治とか無いかなぁ?と思って」
それを聞いた女性係員さんは、少し怒ったような顔をして俺に注意してきた。
「駄目ですよ!ゴブリン退治とかはSー(マイナス)になってからですよ!全く、ゴブリンは弱いモンスターと言えど初心者からしたら手強い強敵なんですから!!」
うん、知ってる。えらい目にあわされた。
でも、もう油断はしないように心掛けてる。
「それにゴブリンは集団で行動するのが多い種族です。囲まれて攻撃されたら大変なんですよ?」
ああ、だからあの時ゴブリン逹は単体でいる個体が居なかった訳だ。
数は力、質より量とはよく言ったもんだよな。
「まあ、偶然倒したとしても、カードを作る前にした戦闘経験は分かりませんが、カードに記載されるのはカードを発行してからですので」
さいですか、まあ信じて貰えなくても良いけどね。
まあちょっと勿体無いが......係員の人はそう言いながら俺のカードを見ると、怪訝な顔をしてきた。
「ん?......おかしいですね?LVが3?普通はLV1からが普通なんですが...?」
そりゃそうだ。ゴブリン倒してLVが上がったもの。
「まあいいです。兎に角あなたは自分のランクに見合ったクエストをこなしてください」
そう言われたので、俺は幾つか有るクエストを見繕いクエストを始めた。
正直に言おう......面倒だったが簡単だった。
失せ物探し......スキル<サーチ>でOK
迷子の犬、猫......同じく<サーチ>してから捕縛、暴れるようなら<麻痺>
ラブレター......まあ普通に何度も往復...てかじれったかった。
お婆ちゃんのお使い......簡単だけどこれクエストか?
店の手伝い......まあこれもスキルを使ってサクっと
...という訳で俺は1日と経たずSー(マイナス)に上がった。
係員の人はあまりの早さに驚いていたが、ちゃんと仕事をした事は確認したみたいなのでちゃんとお金は払ってもらえた。
ちなみに移動する時に<高速移動>を使っていたので結構疲れている。
肩で息をしてふぅふぅ言っている。
このスキル確かに高速で移動できるけど、疲れるのは普通に疲れるからなぁ......このスキルをカバーできるスキル無かったかなぁ?頑強とかスタミナUPとか疲労抑制と...
(スキル獲得<頑強><スタミナUP><疲労抑制>を獲得)
遅いよ!!
もっと早くそういうスキル欲しかったよ!!
......まあとにかく、お使いクエストでも数こなしたお陰で少しは足しになって銀貨12枚と銅貨64枚が手持ちになった。
そして何だかんだでお昼時になって......あ!そう言えばエシュナにお金渡してない!すぐ帰るつもりだったから
。
俺は大急ぎで宿屋に帰った。
そして宿屋に帰ると
「お帰りなさいませ」
宿屋の表で掃き掃除をしているエシュナを見つけた。
「あのーエシュナ?何してるの?」
「掃除ですけど?」
「いや、それは分かるんだけど......何で?」
「あまりにも暇なもので、宿屋の女将さんに頼んで仕事を手伝わせて貰っているんです」
「...ほんっっとうにごめん」
俺はそう言いながらエシュナに頭を下げた。
「いえ、いいんですよ私が言い出した事ですし」
「本当だよ。なかなかいい子だよアンタは」
そう言って店の中から出てきたのは、貫禄たっぷりの女将さんだった。
あれ?そう言えばINした時に居た人と違うぞ?
「ん?なんだいその顔は?ああ、最初に居た人と店番が違うからだね。今さっきまでは従業員がやってたのさ、仕入れをアタシと旦那でしている間のね」
「仕入れですか?」
「ああ、あたし等は宿屋と飯屋をやってるからね。丁度この時間は仕入れ時さ」
ああ、なら丁度いい。
「すいません。じゃあ俺とエシュナも飯にしたいんで飯屋どこか教えてもらえますか?」
「ん?いいよ嬢ちゃんこの子とアンタに案内してあげよう」
「俺。お・と・こです男!」
「はっはっは!馬鹿言っちゃいけないよ。こんな可愛い男の子いてたまるもんかい」
女将さんはそう言って豪快に笑う、冗談と思われているようだ......もうやだ。
「いえ女将さん、本当なんです。この人が私の旦那様なんです」
「あははははあんたまで担ぐのかい?」
「いえ、そうではなく......」
暫くの沈黙の後、女将さんはエシュナの顔をじーっと見ると、冗談でないのを察して...
「本当に?」
「本当です」
「だからそう言ってるだろ!男だよ俺!」
この世界に来て、俺は何回この言葉を言わなければいけないのだろうか......(泣)