学校 2
萌は一人頷く。
そもそも男子と会話なんてありえない。
何を話していいかわからないし、会話が続かなければつまらない女の子だと思われるだけだ。
(……でも)
挨拶ぐらいはしてみようか。夢の中と声が違えば納得できるかもしれない。
萌は顔を上げて高津を見た。
と、高津も萌をじっと見つめている。萌は思わずどぎまぎしながら声を発した。
「お、おはよう、高津君」
すると高津は驚いたように萌を見た。
「神尾さん、俺のこと知ってるの?」
「え、あ、その、顔音痴だけど、高津君は有名だから……」
言わずもがなの弁解をした萌に微笑んで、高津は止めてあった自転車を押して歩き出した。
予想外の行動に、萌だけでなく百合子たちも目を白黒させている。
(……これってどういうこと?)
だが、しばらく待ったが彼は何も話さない。
間が持たないので仕方なく萌は自分から言葉をかける。
そんなことがこの一週間……いや夢で幾度もあったので、意外に緊張はなかった。
「高津君、誰かを待ってたんじゃないの?」
彼は照れくさそうに肩をすくめた。
「……実はね、神尾さんと一度話がしたくて」
夢の中と同じ声、同じ笑顔。それだけで胸がつまりそうになる。
込み上げてくる涙をこらえられず、萌は目をこする。
「神尾さん?」
「ごめん、目にゴミが……」
ふと横を見ると、少し距離を置いた百合子と和実が仰天したような顔でこちらを見ていた。
これは明らかにマズイような……
「あのさ、変なこと聞くようだけど、神尾さんは俺の事いつから知ってた?」
その不審な問いに萌が思わず視線を戻すと、真剣な表情の高津が目に入る。
(……まさか)
初めて会ったときと同じ瞳。それは萌にちょっぴり勇気を与えた。
「……あのね」
萌は一言一言を押し出す。
「……本当は昨日の晩まで知らなかったの」
「夢で会ったなんて言わないよね?」
立ち止まった萌の目に、ぼやけた高津の輪郭が映った。
「高津君……ひょっとして」
「神尾さんも見たんだな?」
涙が両目から溢れ出た。どんな夢を見たかを高津は口にしたわけではない。
だが寸分も萌は疑わなかった。
「よかった……生きててくれて」
「俺も、また君に会えて嬉しいよ」
声が詰まる。
だが、今こそ言えなかった言葉を言う時だった。そのために萌はここで高津と邂逅したに違いない。
「ごめんなさい、そして本当にありがとう」
高津は笑った。
「俺の方こそありがとう。本当に感謝してる」
高津に身振りで促され、萌は学校に向かって歩き出した。
涙が止まらないので、ハンカチを出してさらにぬぐう。
夢の時と異なり、鼻水まで出てきたので対処に困る。
「感謝されるようなこと、全然してない。それどころかあたしは……」
言いかけて萌は目を見開いた。
校門の前に止まっていた車。そこから出てきた白いカッターシャツの男は……




