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いつもと少し違う朝に  作者: 中島 遼
30/37

ガレ場 2

 「はい、これ」

 横に並んだ北浜が、唐突に萌と高津に回転式の銃を差し出した。

 思わず萌は目を見開いて北浜を見上げる。

 「護身用だ。これには弾は三発残ってる」

 使い方をレクチャーすると、彼は眉間にしわをよせる。

 「使わないにこしたことはないが、持っていないと危ないようだから」

 高津と一緒に村山を見ると、彼は小さく頷いた。

 そして、静かに前に歩き出す。

 (どうしてこんなことになったんだろ)

 その後ろを、本当にとぼとぼと萌はついていった。

 (病気でも何でもいいから、彼らみたいにおかしくなればいっそ幸せに生きていけたかもしれないのに……)

 土質は今までの山に比べれば登りにくかったが、山の傾斜が幾分緩やかになってきているので、そこまで辛くはない。

 「五分間、休憩しよう」

 少し木々が生い茂り、見通しが悪い代わりに周りからも目につきにくそうな場所で、彼らは一時休止した。

 「夕貴、少し水を飲むんだ」

 彼女は相変わらずじっと一点を見つめたまま、外界とのかかわりを持とうとしない。

 村山のリュックは井上が離反したあの崖においてきてもうなかったので、彼は萌から水筒を借りた。

 「夕貴」

 コップに口がつくと、喉は動いた。

 それだけのことなのに、どうしてか心が救われる思いがする。

 「萌も飲めよ」

 高津が自分の水筒のカップを萌に差し出した。

 北浜、高津は既に水を口に含んだようだ。

 (……水が少ない)

 水筒は萌と高津の分、二つだけ。

 萌はカップに入ったそれを半分だけ飲むと、高津に返した。

 (疲れた)

 頭の重さはひどくなる一方だ。

 「……村山さん」

 北浜が村山の側に来て座った。

 「俺は昨日まで彼らみたいに貴方達を追っていて、そして殺そうとしていたんですよね?」

 「……はい」

 「治してくれたのは、暁君と夕貴ちゃんなんですよね?」

 村山は頷き、人形のように動かない夕貴を見つめた。

 「追っ手を治してくれるように、この子に伝えられないですか?」

 「何故俺に?」

 「テレパシー能力があると貴方は言いました。だから……」

 「俺が会話できたのは暁だけ。それも受信のみっていう不便な力なんです」

 「じゃあ、彼女に何かを伝えるのは?」

 「……すぐには、残念ながら」

 北浜は少し唇を噛み、そして問う。

 「暁君の声は、今は?」

 村山は目を伏せる。

 「……何も」

 どうしてだか涙が突然溢れた。

 暁の死を悲しんでとか、この状況が辛くてとか、そんな立派なものではない。

 「萌……」

 高津が驚いたようにこちらを見つめるのが見えた。

 その手がぎこちなく萌の肩を叩く。

 「……君は、優しいな」

 嗚咽で声が出ない。だから否定したくともできなかった。

 (……違うの)

 優しくて強いのは他のみんなだ。

 萌が泣くのはただ訳もなく涙が出るからに過ぎない。

 「タイムキーパー、時間は?」

 村山の声が耳に届いたが、言ってる意味がわからなかった。

 「休憩は五分だ」

 「村山さん」

 高津が驚いたように顔を上げる。

 「今は、もうちょっとだけ……」

 「時間がない。今日が期限だ。さっさと元凶に会って」

 村山が頂上を仰ぎ見る。

 「……何もかも全部終わらせてやる」

 いつになく強い響きが心を打つ。

 萌は袖で涙をぬぐった。

 「ごめんなさい。二分超過しちゃった」

 立ち上がった萌に村山はぎこちない笑みを返す。

 「それぐらいなら調整可能だ」

 五人はさらに道を登った。

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