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いつもと少し違う朝に  作者: 中島 遼
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岩岳 5

 高津は子供二人を追い立てるようにテントから出てきた。

 「村山さん、敵が来た!」

 「距離と人数は?」

 「ふもとの方から近づいている。距離は今のところ直線で二百メートルぐらい。人数は……なんか凄く多いってことしかわからない」

 遅れて出てきた北浜と井上が怖い顔をしてこちらに来た。

 「敵が来たのか?」

 「今から五十分前後で彼らがここまで来ます。まず、テント等を片づけるのを手伝ってください。」

 既に動きながら村山は男性四人に指示を出した。

 慌てふためいて逃げることだけ考えた萌と違って、村山はここにいた証拠すら消してから発とうとしている。

 (真似をしよう)

 とにかく彼の真似をすれば、少しはましな人間になれるかもしれない。

 「あたしも何かやる!」

 「火を消して岩を適当に転がしておいてくれ。あと、暁たちの世話を頼む」

 そのまま向こうに行くのかと思いきや、不意に村山は萌に近づき、軍手を渡しながら耳元に口を近づける。

 「くれぐれも、暁と夕貴の手を離さないように」

 「え?」

 小声で言うような内容ではない。

 その意味を問おうとしたが、既に彼の姿は闇に溶けた。

 リュックは側にあったので、そこにそれぞれの水筒を入れ、そしてとりあえず自分の分を背負う。

 「圭兄ちゃんたちのリュック、僕があっちに持っていこうか?」

 見上げる暁に首を振る。

 「逆にこっちに置いておいた方がいいと思う。二人はじっとしてて」

 「何か手伝いたい」

 「じっとしてるのがお手伝いになることもあるよ」

 小さな二つの手をぎゅっと握ると、暁と夕貴も握り返してきた。

 「手伝った方が僕、いいんだけど」

 何度も言うところからすると、きっと彼は怖いのだ。

 「じゃあ、火を消す用のバケツを持って。そう、それをこの辺りにちょろちょろとかける」

 「わかった」

 火が消えると、あれほど小さい灯りだったのにもっと真っ暗になった。

 テント組の方は懐中電灯で作業をしている。

 (……普通はテントをたたむのってすごく時間がかかるって高津君言ってたな)

 しかしテントが極めてたたみやすい構造なのか、村山の要領がいいのかわからないが、いつも十分程度できっちり片づく。

 「暁、そのバケツ、この布で拭いてからお姉ちゃんのリュックに入れてくれる?」

 しゃがみ込んで暁が作業しやすいようにしたが、萌がやる三倍くらいの時間がかかった。

 それでも彼にしたら一所懸命だったのだろう。

 「できた!」

 「ありがと」

 「ねえ、僕、もっと手伝いたいからあっちに行こう?」

 萌は子供たちの手を自分の方に引き寄せ、両肩を抱いた。

 「駄目、みんなのリュックの番してるの。だから今は離れないで」

 「萌姉ちゃん、怖いの?」

 思わず萌は微笑んだ。

 「うん、すごーく怖い。暁と夕貴がいてくれて良かった」

 「萌姉ちゃんを励ますのも、お手伝いだよね?」

 「うん」

 「頑張るよ」

 最近、他人をダシに自分の怖さを緩和する術を少し覚えた。

 それもまた成長なのだと思う。

 (……暁と夕貴の手を離すな、か)

 それは、敵が攻めてきたとき、彼らの守りを萌に託すという意味か。

 萌は時計を見た。蛍光部分がぼんやりと光っているので時間はわかる。

 「村山さん、十五分経過!」

 萌の声と同時に、彼らの準備も終わったようだった。

 高津の具合が良くないと思ったのか、村山は今回はぐずる夕貴を引きはがして高津のリュックの前に乗せ、自分は重い暁を背負った。

 (……北浜さんや井上さんなんて、荷物ないのに……)

 そう思わないでもなかったが、彼らに子供たちを任せたくない気持はよくわかる。

 「出発しますが、よろしいですね?」

 「真っ暗で道もわからない」

 井上が震える声で言った。

 「それだったら、夜の間に彼らを迎え撃った方が良くはないか? 不意打ちにはもってこいだ」

 「なるべくなら争いたくありません。彼らが治るということがわかった以上は」

 「しかし……」

 北浜が井上の肩を叩いた。

 「俺もできればそいつらに会いたくないと思ってます」

 「……それは俺たちの話を信じてくれたってことか?」

 「どちらかと言えば、村山さんの人柄を」

 高津が頷いたのがぼんやりとわかる。

 「行きましょう、もたもたしてると本当に危ない」

 「わかった」

 全員が歩き出したので、井上も慌てて後についた。

 順番は高津が一番、萌が二番、村山が三番で北浜、井上と続く。

 北の山を歩いた時のように、道なき道を歩くわけではなかったが、それでも夜道はかなりきつい。

 萌は何度も滑り、そのたびに後ろの村山に迷惑をかけた。

 (……注意力が散漫なんだ。)

 足下に気をつけると、今度は木にしたたか肩をぶつける。

 闇は萌をあざ笑うかのようにますます深まった。

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