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いつもと少し違う朝に  作者: 中島 遼
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岩岳 3

 北浜たちは既に大人同士の話を始めているようだった。

 「その子たち二人はやっぱりリソカリト……か」

 井上が呟く。

 「奴らだった人間を、元に戻せるなんてただ者じゃねえな」

 村山は地面に落ちていた丸い石を拾い、そしてしばらく見つめてから後ろに投げた。

 「あと、俺は暁の考えていることが時々わかります」

 村山の言葉に萌は目を見開いた。

 「君が?」

 「はい」

 高津を見ると、ああ言っちゃった、とでも言うような顔で村山を見ている。

 萌ももちろん同じ気持ちだ。

 何となく井上を信用してはいけないような気がする。

 だが、ここで村山がそれを口にするからには何か意味があるのだろう。

 「……君は人の心が読めるのか」

 「そんな大したものではありません。時々、何となく暁の声がするなという程度で」

 と、それまで黙っていた北浜が顔をしかめた。

 「……信じられません。ほんとに、信じられません」

 彼はごつごつした筋肉質の男なので結構場所を取っている。

 (……ってことは、どっきり疑惑は解消してないのかな?)

 萌は村山の横顔に視線を移す。

 この距離、この明るさでは顔の造作まではっきりとはわからない。

 だが一緒に体育倉庫にいた時にたっぷり眺めたこともあり、まつげの長さまで鮮明に想像できる。

 (……一度なんか、間近だったし)

 どうしてか顔が赤らんだ萌とは対照的に、北浜は蒼白に見えた。

 「……SFじゃあるまいし。でも……」

 言いながら彼は手に持った拳銃の銃身を指で撫でた。

 それはあのとき村山が彼に突きつけた物で、西部劇で見るような回転式のものだ。

 「これを君が俺から取り上げた際の記憶がない……」

 「やはりこれは元々貴方のものなのですね?」

 「自分の物……というのもおかしいけれど」

 井上が少し怯えた顔で北浜を見る。

 「君は暴力団関係者か?」

 北浜は首を横に振る。

 「ニューナンブM60。これを持ってるのは普通、警官です」

 「じゃあ、貴方は……」

 「城跡前の交番に勤務しています」

 北浜は腰のホルダーを見た。

 「しかし自分にとっては、制服を着用していないのにこんなものをつけていると言うこと自体が異常なんです」

 村山がポケットから、今度はスパイ映画に出てくるような拳銃を出した。

 「こっちはちょっと形が違いますが、これも警察用?」

 「ば、馬鹿な……」

 北浜は目を見開いた。

 「これをどうやって手に入れた?」

 「……貴方のお仲間が落として行ったものです」

 井上が肩をすくめる。

 「落ちたのは人の方で、残ったのがこいつさ」

 しかし北浜は井上の低俗な言葉には反応せず、じっと村山の手の中を注視した。

 「……俺は絶対に夢を見ている」

 「どうぞ、ご覧下さい」

 それを受け取る手が震えた。

 「9ミリだ、しかも羽つきの」

 井上が興味津々と言った顔で、弾倉を点検する北浜の手元を見つめる。

 「羽つき?」

 「この桜のマークには羽がついてるでしょう?」

 彼は銃の刻印を指さした。暗いので萌の場所からはよく見えない。

 「多分これの持ち主は、県南部の航空自衛隊に所属している。そして既に一発撃っている」

 全員が息を呑んだ。

 「一体何が起こっているんだ?」

 北浜は全員を見回す。

 「君たちの作り話を信じたくはない。だが、話の中にはどうしても否定できないことが混じってる。それとも俺の頭がどうにかなっちまったのか?」

 頭を抱えて喘ぐ北浜を、村山が静かに見つめた。

 「今までの話については、いい加減に流して聞いていただいても結構です。我々も真実を知ってる訳ではありません。ただ、本当に命の危険があるということだけは認識してください」

 北浜は9ミリと呼ばれた拳銃を村山に返し、回転銃を腰のホルダーに戻した。

 「……疲れた」

 信じがたい話しを立て続けに聞かされた北浜の疲労は相当なものだったろう。

 「今のうちに少し仮眠を取りましょう」

 テントと言っても小さなものなので、子ども含めての五人が精一杯の広さだ。どうするのかと思っていたら、村山は萌以外をテントに入れた。

 「暁と夕貴は出口側に、高津、お前はその隣で寝てくれ。できれば次が北浜さん、一番奥は井上さん。出口は開放で」

 「萌は?」

 高津が不審そうに村山を見ると、彼は頷いた。

 「俺が見張ってるから大丈夫」

 「普通は女の子と子どもがテントだよ」

 「……お前の方が俺は心配なんだ」

 「え?」

 「顔色が悪い。だが気を遣うなって言ったところで、お前の力はそういう性質のものだから無理だろう」

 考えてみれば、高津は敵の動向をアンテナを張ってずっと探っている。それなのに水源の場所から萌の寝る場所まで気にしてくれていた。

 「だから数時間でもいいから今は目を閉じて休め。明日の晩は俺がテントでお前が外だ」

 「……うん、ありがとう」

 高津は頷いてその場を離れた。

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