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いつもと少し違う朝に  作者: 中島 遼
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岩岳 2

 (夜は嫌だな)

 暗いので、葉の裏や枝に虫がついていても見えない。

 火にくべた途端に枝が尺取り虫に変わってとても驚いたのはいつだったか……

 「萌姉ちゃん、これなんかどう?」

 「ナイス、暁。同じ物をもう十本!」

 暁と夕貴も手伝ってくれたので、すぐに燃料はたまった。

 井上、それに北浜の二人は村山から指示を受け、少し場所を移して周囲から見えにくい位置にテントを張っている。

 窯はその陰に当たる位置に作られているのだろう。

 「あ、ごめん、高津君」

 わき水を汲んできてくれた高津を見つけ萌が礼を言うと、彼はやや不機嫌そうにクッカーを左手から右手に持ち替えた。

 「呼び捨てでいいって」

 「あ、そうだった」

 暁が嬉しそうに高津の側に寄る。

 「それ、こないだ僕、テレビで見たよ」

 「え?」

 「結婚したんだから、呼び捨てでいいって言ってるのに! って怒るんだ」

 少し段差があったのに暗くて見えなかったため、萌はけつまずいた。

 「わっ!」

 が、偶然にもクッカーを持ち替えていた高津が開いた左手で支えてくれたので事なきを得る。

 「ご、ごめん、水は?」

 「大丈夫」

 「嘘だよ、圭兄ちゃん、ズボンびちょびちょ」

 「ええっ!」

 慌ててクッカーをひったくる。

 「萌!」

 「戻って火に当たっててよ。水汲んでくるから」

 「どこに水が湧いてるかわかる?」

 言われると確かにそうだ。

 「……いや、ちょっと暗くてわからないかも」

 「じゃ、一緒に行こう。こんなの、歩いてるうちに乾くし」

 (……馬鹿)

 四人で歩きながら、萌は再び自己嫌悪に陥った。役に立たないだけでなく、足を引っ張っているのが情けない。

 それなのに合理主義に走らず、一緒に行こうと言ってくれる高津はやはり相当親切だ。

 「……村山さんって」

 「え?」

 萌が高津を見ると、彼は暗闇の中、微かに首を振った。

 「いや、何でもない」

 「言ってよ、言いかけたんだったら」

 後ろでは暁が夕貴と手を繋ぎながら、小声で何か特撮の主題歌らしきものを歌っている。

 「別に、悪口言うつもりはないんだけど、何か弱いよな」

 「ええっ!」

 萌は驚いた。

 「むしろ、凄く強い人に思えるんだけど」

 「状況とか、プレッシャーとかには確かに強いんだけど、その、なんというか、井上さんにさ」

 高津が言わんとすることの意味はわかった。

 確かに村山は優しい。もう少しあの我が儘勝手放題男に対して、びしっと強く出てもいいのではと萌も思わないではない。だけど、

 「村山さんは奥ゆかしいから」

 高津はふうと溜息をついた。

 「……そういうの、奥ゆかしいじゃなくて、歯がゆいって言うんだ」

 不意に高津が右に曲がったので、慌てて萌も後に続く。

 そうして彼は岩の側に屈んだ。

 「わあ、水がでてるっ!」

 暁が喜んでクッカーを岩肌にぴたりとつける。

 しかし、それでは全然水が溜まらないので、高津は手で水の方向性をつけてクッカーにそれが落ちるようにした。

 「よく見つけるね、こんなとこの」

 岩肌からしみ出るようなわき水は、通常夜には発見できない。

 「耳を澄ますと音がするよ」

 「……言われればわかるんだけど」

 クッカーに溜まるのには少し時間がかかるが、ここは稜線に当たる場所なので、昼間でも沢に降りて水を汲むのは不可能だ。

 (丸山も北山も、水がなくなる頃にちょうど小川が現れたから楽だったし……)

 それとも、そうなるようにあらかじめ村山がルートを組んだのだろうか。

 「圭ちゃんはこういうのがどこにあるのか、探すのうまいよね」

 溢れたクッカーを持ち上げながら高津は頷く。

 「勘はいい方だから」

 「ふうん」

 歩きながら彼は暗闇の中、岩岳の山頂のある方角を見つめる。

 「そういう意味では今でも俺、あそこには行かない方がいいと思うよ」

 「え?」

 「もの凄く嫌な予感がする」

 「でも行くんでしょ?」

 「俺一人が反対してもしょうがないし」

 萌は首を傾けた。

 「賛成してるんだと思ってた」

 「……反対するほどの根拠がないから」

 野営地が見え、暁と夕貴がそちらに向かって走っていく。

 しばらく二人はぼおっとそれを目で追った。

 「……ごめん、萌」

 「何が?」

 「全部、嘘」

 唐突な言葉の意味がわからなくて、高津を見る。

 「多分、これからも今まで通り大丈夫さ。人数もだんだん増えてきたし」

 「そうね」

 さっきの話題でわずかに不安を感じていた萌は、それを聞いて安心する。

 「絶対大丈夫よ、何とかなる」

 高津はちらりと萌を見て、それから再び視線を前に戻した。

 「だけどそのとき……もし俺が、俺じゃなくなったら、構わず切り捨ててくれていいから」

 萌は彼を凝視した。

 「……え?」

 答えがないのでさらに言葉を繋ごうとしたが、野営地に入ったので何となく口をつぐむ。

 (……どうしたんだろ?)

 少し様子が変だとは思ったが、考えてみれば今まで普通だったのが不思議なくらいだ。

 (疲れない方がおかしいよね)

 思いながら、適当な大きさの瓦礫を見つけて萌は転がした。そしてそれを暁と高津の間に置いて椅子にする。

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