◆7月のおわり ひと口だけの悲劇
春は曙、夏はアイス。
いっそ主食にしちゃおうか? てなほどに暑い夏の日差しの下で食べるアイスが好きだ。
こってり濃厚なミルク系の味もいいけれど、シャリシャリとしたかき氷系アイスバーもいい。小豆に練乳のカップアイスも渋くていいし、高級なチョコでコーティングされたバニラバーなんか神の領域だ。宇宙人が攻めてきても、これがあれば戦争だって止められる気がする。
今日はガリガリくん、君に決めたっ! とばかりに僕はアイスを買ったのだけど。
「ん~っ! ラムネ味がいちばんおいしいよね!」
ショリショリ……。
ユウナが『僕の』アイスを美味しそうに頬張っているという異常事態に、思考が一時停止する。
ジーワジーワと蝉の声がやまかしい、夏の午後の帰り道。
向日葵が黄金色の光をまとわせて天に向かって伸びている。真っ青な空に、一層と緑の濃くなった水田の稲達、山の稜線の向うには成長中の入道雲が真っ白にな顔を覗かせていた。
期末テストも終わって、いよいよ明日から夏休みで――
「――って、まてまてぇ!?」
僕はようやく我に返りツッコミを入れる。
ここは近所のカオスなお店、田中商店の前だ。
僕がガリガリくんを袋から取り出して、北極の氷を思わせる化学合成なブルーの色合いを楽しんでいた時の事だった。
「アキラ、ひとくち味見させてよ!」
と、にこにこしながら寄ってきたユウナに、つい気を許したのが運の尽き。
その『ひと口』が悲劇を生む。
――はむっ!
「ちょっ!? おまっ!」
想定を超えた一口が僕のアイスを襲ったのだ。
無慈悲ともいえる一撃で、半分以上がアホ幼馴染の口の中に……消えた。
「ひと口でけえよ!」
「んぐ……。ひとくちは一口じゃん?」
しれっとした顔でいう。
リスのように頬をモゴモゴさせているのがまた腹立たしい。
――でも、これ食べたら間接キス?
と、脳内で囁く僕の脳内煩悩はとりあえず殴っておく。
ふと見れば、僕の手元に残ったアイスの先から木の棒が顔を覗かせている。
『ハ ズ ……』
「しかもハズレって見えてるし!?」
ガッカリだよ!
もしこれを僕が食べていれば、アタリと出ていたかもしれない。
いわゆるシュレーディンガーの猫。 量子力学的パラドクスの棒アイス。
アタリハズレの『結果』は、僕が食べ終わるまでは決まっていないはずだったのに。
「まーいいじゃん、またね!」
「お、おいっ!」
ユウナが軽やかに身をひるがえして走り出す。
元気よく跳ねるツインテールが、夏の日差しにきらめく。
「今度お礼にスイカ御馳走するからさ!」
少し先で振り返って、そんなことを言う。
「スイカって、ユウん家の庭先で育ててるやつだろ……」
ごちそうも何も、実質タダみたいなもんじゃないか。
ユウナの家の庭先には畑があって、毎年見事なスイカが実る。
いつも嫌という程食べさせられて、ありがたみなんて無いのだけれど、それでも僕はのこのこ行ってしまうのだ。
「アキラは――特別に食べ放題だよ!」
白い歯を覗かせて夏の景色の一部みたいな笑みを浮かべると、ユウナは軽やかに駆け出した。
遠ざかる後ろ姿を呆然と見送りながら、僕は溶けはじめたアイスを慌てて頬張る。
半分になっても、やっぱり冷たくて美味しい。
「ま、いっか」
細かい事なんてどーでもいい。それが夏なんだ。
【◆7月のおわり ひと口だけの悲劇 了】
【さくしゃより】
夏ですね!
皆さん体調など崩さないように冷たいものの食べすぎには注意しましょう♪
クワガタですが、あれから雌を二匹追加で捕まえました。
今、飼育ケースの中にオス一匹にメス二匹というハーレム状態w
勝手に台詞をつけて楽しんでいます(←暗いwww