◆11月の秋寂 オレンジ色の世界で
11月は寒くて暗くて、どこか寂しくて好きじゃない。
けれど、この枯れ果てた景色も今だけだ。やがて山の頂上に見える白い冠雪が、少しずつ範囲を広げながら里に下りて来る。そうすれば一面の純白の世界に変わってゆく。
今はそれまでの静かな「幕間」みたいな時間なのかも、なんて思う。
と、僕らしくも無くメランコリーなことを考えるのは、やっぱり日の沈む時間の速さと、吹き抜ける乾いた風の冷たさのせいだろうか。
いつもの学校の帰り道、紅葉と稔りの季節はとっくに過ぎて、あたり一面は刈り入れの終わった田んぼと、枯れたススキ野原だけの寂しい風景に変わっていた。
冷たい木枯らしに首をすくめる。
……そろそろマフラー欲しいよなー。アニメでもマフラーしているキャラ多いし、なんてぼんやり考えながら、僕はとぼとぼと家路についていた。
後を歩くユウナも、今日は心なしか言葉少なだ。
一日を総括するようなマシンガントークを聞かされる僕としては、たまには静かな時間も欲しかったりする。
山の稜線に、赤々とした夕日が沈んでゆく。陰になった山の峰や木々を徐々に夕闇が覆いはじめる。枯葉色の落ち葉が風に吹かれ、時折、かさかさと音を立てながら転がっていった。
「ね、アキラ(あきら)。この前貸した百円かえしてよ」
不意にユウナがそんな事を言いだした。
すっかり冬服に身を包んだ幼馴染みの頬は寒さで赤くなっている。
確かに先週、学校の購買でヤキソバパンを買おうと思ったときにお金が足りなくて、ユウナに借りたんだった。
「今返さなきゃダメ?」
「そう、今」
月末も近い今、お小遣いの残りは壊滅的だ。
それを今返せとか……鬼か。年の瀬に借金取りに追われる気分だよ。
追われたことは無いけどさ。
僕はしぶしぶ財布を取り出して、僅かに残った小銭から百円玉を取り出して、後ろからついてくるユウナに「はいよ」と差し出す。
残金は278円。
明日は購買で買うパンのランクを落とし、アンパンと牛乳という張り込み中の刑事みたいな昼食決定だ。
「返したからな」
「毎度ありっ」
と、ユウナが笑顔で僕の手から百円を……受け取らない?
正確には、百円を持った僕の手を、ユウナの冷たい手が掴んだまま離してくれないのだ。
「な、なに……?」
「利息分、払ってもらおうか」
ユウナが悪戯っぽくほくそ笑む。
「はぁ? 利息て!?」
「……体で」
な――何言ってんだコイツ?
か、か、体で払うってアレか、時代劇で町娘がぐるぐるーって剥かれるヤツ。
思わず心臓の鼓動が跳ね上がった。からかわれていると判っていても、ぼふ、と勝手に顔が熱くなる。
「うん! アキラにね、カイロになって働いてもらうの」
子供みたいにそういって笑うと、突然、冷え切ったユウナの手が僕の手をモミモミとし始めた。恥じらい気味に……なんてこともなく、まさに「悪代官が村娘の手をスリスリ」するみたいな大胆な動きでだ。
「へへ、ええのぅ、ええのぅ……!」
「おぃこらっ!?」
「恥らう……アキラ」
「むしろユウが恥らえよ!?」
辛うじて渋い顔を貼り付けてツッ込んでみるけれど、温まりはじめた小さな手をにべもなく振り払ってしまう勇気を、僕は持ち合わせていなかった。
いや、むしろ、僕はこうしていたい……? 多分……、そうなのだ。
女の子の柔らかい指先に指先の温度は上がる一方で、それでも嬉しいとか、何か気の効いたことを言えるはずもなく。
「うん、すこし温かくなったかも」
「そだね」
白線とガードレールで隔てられた農道の遥か彼方に目線を向けながら、ほんのり温まってくるユウナの手を静かに握り返す。
山の稜線に沈んでゆく夕日が、辺りを一層オレンジ色に染めてゆく。
枯れたススキも、山も、空も――。
変化していく風景のなかに、僕たちの影が長く伸びて、近づき、つながる。
11月はこんなにも綺麗で暖かくて、僕は別に嫌いじゃない。
【◆11月の秋寂と オレンジ色のセカイで 了】
【さくしゃより】
今回のイラストは結構お気に入りですw
さて、この終わりの見えない物語も、あと二話でおしまいです。早ければ明日明後日にも公開します。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。




