1st story:僕
あぁ、何でこんな仕事を請けてしまったのだろう・・・
僕は、ある家の門の前で、そう思った。
古ぼけた家だ。こんなところでこの町をのっとる計画を建てているなんて信じられないけれど、仕事だから確かめるしかない。
僕は右手に持っている大きな斧を握り締め、「大丈夫だ」と何度も自分に言い聞かせながら、家の扉を叩いた。
僕はいわゆる記憶喪失というやつだ。
池の近くの草むらで目を覚ますと、大勢の人たちに囲まれていた。僕が身体を起こすと周りからたくさんの声がかかる。
「君、大丈夫かい?」「生きてて良かったな」「溺れかかっていたんだぞ、お前」「ねぇ、何処から来たの?」
それが、僕の一番最初の記憶。それより以前の記憶は、無い。
僕はボートの中で大きな斧を握り締めながら気絶していたらしい。
それを近くの釣り人が発見して、助けてくれたんだそうだ。
「あのまま行けば近くの滝から落ちて死んでたかもしれないな、俺に感謝しろよ!ボウズ!」
と、僕を助けた釣り人は語る。
ちなみに後から分かった事なんだけど、助けてくれた位置から滝までは大体3kmぐらい離れているらしい。
釣り人はそのことを知っているのだろうか?
・・・まぁ、その話は置いといて、僕は一体誰なのか?と、言う疑問が当然生まれるのだけど、
大きな斧のわりに鎧などの重装備はしていなかったので、僕は旅人だったという説が今は一番有力だ。
名前はショウ。斧に「Syo」と彫ってあったことから、僕の名前は「ショウ」なのだろうという結論になった。
・・・これは僕の名前じゃなくてこの斧を作った人の名前だっていう説もあるけれど。
あと、僕は外見が10歳〜15歳ぐらいなのに、そんな歳で旅人など出来るのだろうか?という疑問も当然生まれてくる。
そして、僕は何処から来たのか?何でこんな大きな斧を持っているか?
僕に関する謎はたくさん有る。
・・・まぁ、キリが無いからその話も置いといて、
僕はその釣り人に助けてもらった後、優しそうなおじいさんに世話をしてもらってるんだけど、
そのおじいさん、正直に言うと貧乏だ。服を作る仕事をしているけど、給料もそんなに良くない。
おじいさんは「いいよいいよ、わしは毎日一人で寂しくてね」と言って僕を引き取ってくれたけれど、ご飯はいつも一人分しか出てこない。
そのご飯は僕の分だった。おじいさんは「食べてきた」と言うけれどそれが嘘なのはすぐに分かった。
なにせ、毎日外で食べてくると言うのは貧乏なおじいさんにはありえないし、第一おじいさんが段々やせ細っていくのがはっきりと分かる。
僕はそれを知っていたけれど、何も出来なかった。仕事をしようとしても、拒まれた。
よりによって、僕が助けようとしているおじいさんに。
「お前はまだ子供じゃないか。働くには体力が必要だ。お前にその体力はあるのか?」
そうおじいさんに言われた。「でも・・・」と引き下がらない僕に、
「なら、そうだな・・・これをお前に渡そう」
と、おじいさんは僕に1メートルぐらいの長さで、針ぐらいの細さしかない細長い鉄を僕に渡した。
「これを折ってみろ。何を使っても構わん。これが折れたら仕事をしてもいいぞ」
僕は早速外に出て、薪を二つ取り出して縦にして地面に埋め込んで、その上に針を置いた。
そして、僕は大きな斧を持ってきて、思い切り針に向かって振り下ろした。
ガ キ ィ ィ ン ! !
大きな音がして、僕はその衝撃で後ろに倒れてしまった。
斧は僕の真後ろにある大きな木に突き刺さった。
「ハッハッハ・・・それはスィンガードというものでな、とても硬い鉱物だ。この前拾ったのだがな、これを折る事が出来たら、仕事をしてもいいだろう」
そう言って、おじいさんは家に戻っていった。
僕はスィンガードを見つめながら、これを絶対に折ってやると心に誓った。
それから僕はトレーニングに励んだ。暇な時間ならたっぷりある。
寝るか近くの友達と遊ぶ以外のほとんどの時間をトレーニングに費やした。
ある日、友達に「何でそんなにトレーニングしてるの?」と聞かれたことがある。
そこで僕はスィンガードを取り出して「これを折ってみたいから」と、答えた。
友達は「こんなもの、こうやってやれば・・・」と、針を両手で持って思いっきりそれに力を加えたけど、びくともしない。
「あれ?おかしいな・・・」と、今度は木の棒を持ってきて思い切り振り下ろしてみたけれど、今度は木の棒の方が折れた。
友達は「ま、頑張れ」と、一言だけ言って、スィンガードを僕に返した。
それから2ヶ月、トレーニングのおかげで大分力がついたと自分でも感じるようになった。
前までは重く感じていた斧も軽々持てるようになったし、近くの友達とやるかけっこはダントツで僕が一番になった。
そして、最初の挑戦から3ヵ月後、もう一度スィンガードに挑戦することにした。
薪を埋め込んでスィンガードを置く。そして、大きな斧を振り上げて、思い切り振り下ろした。
ガ キ ィ ィ ィ ン ! ! ! ! ! !
僕はまた衝撃に負けて後ろに倒れこんだけれど、今度は斧を手放さなかった。
そして、スィンガードを見ると、少しだけ曲がっていた。
これならもう一回やれば・・・。
僕はそう思ってもう一度挑戦してみた。
少しお尻についた泥を払って、それからもう一度力の限りスィンガードに向かって斧を振り下ろした。
パ キ ィ ッ ! ! !
その音を聞いて、スィンガードに目をやると、薪の下に「二つ」、細長い金属が落ちていた。
「折れた・・・」
最初、何が起きたのか分からなかった。でも、改めてあの硬かった針が折れた事を再確認すると僕の気持ちが一気に高ぶった。
「折れた・・・折れたんだ!あの硬かった針が!僕、ついにやったんだ!」
感情が高ぶるままに叫んでいると、僕の声のうるささのせいか、おじいさんが家から出てきた。
それに気が付いた僕は早速おじいさんのところに行って、
「折りましたよ!ついに!ほら、折れてるでしょう!?」と、おじいさんにスィンガードを見せながら叫んだ。
おじいさんは驚いた表情で「本当に折ったのか・・・?」と、二つに折れたスィンガードを見つめていた。
読んでくださり、ありがとうございます!
これからも頑張って書き続ける予定なので、
よろしくお願いします!