月曜日 夕方
本日の代弁を終えた私は雨空を見上げていた。エデンでの雨は肌に触れるときらきらとして消えていたが、地上の雨は冷たく服を濡らすだけであった。すべてのものから守られるエデンでは味わうことのできないこの感覚が私は好きであった。
その時だった、三角形の何かが空から降ってきたのは。白いそれは紙でできており雨に濡れた結果しわしわになっていた。今にも破れそうなそれを広げてみると、『僕はここにいます。』と書いてあった。
「…こことはどこを指しているのだ?」
現在の日本において、曖昧さは美ではなくトラブルの原因になりうると考察される。そもそも曖昧の美などといったものは廃れつつある文化ではないのか。
日本語の文学的表現に関して考察を重ねていると同じものがまた降ってきた。
自身の考察の正当性を問うために、白い三角が降ってきたところへ向かうことにした。
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三角を拾ったところからブロックを二つ南に行ったところ、繁華街から少し離れたビルの屋上でそいつはいた。
「…おや?僕と同じように雨に打たれている人がいるとは。今日は珍しい日だね。」
「雨が降ることは珍しくは無い。」
その男はケラケラと笑いながら私に話しかけた。
「こんな大雨の中を歩いてる人なんていないと思ってたんだけどなあ。またうまくいかなかったよ。」
「お前は何かしていたのか?そしてこれはなんだ?」
残り一週間にしてこちらの計画を狂わされてはかなわない。
「うーんと、この紙飛行機に気付く人がいたら失敗で誰も気が付かなっかたら成功。」
これが成功したら、自殺するつもりなんだ。僕のことを誰も気付いてくれないってことは、僕は世界に不要ってことなんだろう?だけどいつも誰か気付いてしまうんだ。僕はこんなにも死にたいのに。
このずぶ濡れの男は自分が死にたいのか主張してきたが、いい加減に話が長い。
「だからこの方法は十七回目なんだけどね、真夜中にやってもダメなんだよ。新聞配達の人とか、飲み会帰りの大学生に見つかるんだ。でもね、今度こそって」
「おい」
「なんだい?僕の代わりにいい方法でもかんがえてくれたのかい。」
「方法など考えなくとも、次の日曜に世界は滅びる。」
「そっか。そうなんだ。」
男は笑顔でそう言った。
そしてその日の私の記憶はそこで終わっている。