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おまけ

「『今回のお話はちょっと怖いムードになってしまいましたが、皆様の中でこういうあまり知られていない昔話ってありますか?

 知ってるー!っていう人がいたら…』


 ……あぢー……もう限界……」


 ブログの記事をもう少しで書き終えそうなところで、とうとう女性は熱帯夜の暑さに一時休憩することになった。こんなに暑いと、集中力も長くは続かないからである。

 彼女の名前は「竹取宮子(たけとり・みやこ)」。アフェリエイトブログやこの日常ブログを運営しつつ、人里や舗装されたバイパスから離れた山奥でだらだらと暮らす、いわゆる『フリーター』と呼ばれる類の女性である。今年の夏場も暑いので毎日のように家の中でゴロゴロしている彼女、その億劫さは服装にも現れているようで、濃い緑のタンクトップは肩や腕どころか腹やヘソも露出させ、下も緑色で染め上げているホットパンツ……どこか新緑を思わせる色合いである。後ろで結っている緑色の髪も含めてあまりにも大胆な外見だが、最近の猛暑を乗り切るにはちょうど良いスタイルらしい。それに、胸や腰、そして顔などスタイルも抜群な彼女にはある意味最適な夏服……かもしれない。

 宮子が住んでいる家は、山奥という立地に似合わない三階建ての大豪邸。木材を大量に活かし、夏は涼しく、冬は少々寒いが場所によっては暖かいという感じになっている。とはいえ、最近の猛暑はさすがにこの家でも耐えられないようである。椅子に座ってバテている彼女の元に、一階から美味しい緑茶と共に同居人が二人、パソコンが鎮座している二階へと上がってきた。


「あらー、とうとうバテちゃったんだねー」「パソコンも暑いんじゃないの、これ?」


 右側の彼女の名前は「竹取宮子(たけとり・みやこ)」。彼女こそ、この豪邸を始め、この一帯の山を何個も所有しているほどの大地主である。普段は町中で土地の賃貸で稼いでいるらしい。彼女も夏場は暑いようで、濃い緑のタンクトップは肩や腕どころか腹やヘソも露出させ、下も緑色で染め上げているホットパンツ……どこか新緑を思わせる色合いである。後ろで結っている緑色の髪も含めてあまりにも大胆な外見だが、最近の猛暑を乗り切るにはちょうど良いスタイルらしい。それに、胸や腰、そして顔などスタイルも抜群な彼女にはある意味最適な夏服……かもしれない。


 左側の彼女の名前も「竹取宮子(たけとり・みやこ)」。こちらは町中の花屋に勤務しており、自身の持つ知識や経験を最大限に活かして顧客により元気な植物が贈れるように勤めているという。そんな彼女でもやはり夏場は暑いらしく、外見はヘソ出しの濃い緑のタンクトップ、緑色のホットパンツ、そして結った緑色の髪という自然風味の組み合わせ……。


「こればっかりはどうにもねー」「ま、そうだよね……」「暑いのはパソコンのせいじゃないし……」


「「そうだよねー」」「「全く同感ね……」」

「「「あ、おかえりー」」」


 宮子と宮子と宮子が語り合っているうちに、新たに四人の同居人……というか女性が部屋の中に入ってきた。右から順に、「竹取宮子(たけとり・みやこ)」、「竹取宮子(たけとり・みやこ)」、「竹取宮子(たけとり・みやこ)」、「竹取宮子(たけとり・みやこ)」。全員とも、外見濃い緑のタンクトップに緑のホットパンツ、そして緑色の髪。いつの間にやら、部屋の中は7人の竹取宮子でいっぱいになってしまっていた。にこやかにそれぞれの今日の仕事や家の状況などを語る彼女たち。その姿は寸分違わぬもので、一切見分けがつかない。

 そうしているうちに、彼女たちの耳元に大きな車の音が聞こえてきた。舗装されていないとは言え、軽自動車から大型高級車、4WD車、トラクターに大型トラック、さらには路線バスまで多種多様、何十台もの車が停まっている豪邸近くの空き地の様子からは何度も踏み固められた地面が想像できるだろう。そして、「宮子」が所有する最も大きい車が、この大型連接バス。空港かどこかで僅か数年しか使われないままこの「森」に捨てられていた廃棄物を大修理し、『自家用車』として蘇らせた代物だ。同じように人間から見捨てられ、森で朽ち果てる運命を宮子の手によって覆され、命を吹き返した他の車と同様エンジンも取り替えており、木々や「宮子」本人を排気で苦しめないようにしている。

 

「「「「「「「おかえりー!」」」」」」」」


 空気が篭りやすい家の中よりも、外の空気のほうが案外涼しかったようだ。玄関から素足に抹茶色のジーンズを履き、太ももや二の腕を艶やかに見せながら出てきた7人の宮子が出迎えるのは……


「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」「ただいまー!」……


 連接バスから降りてきた、宮子、宮子、宮子、宮子、宮子、宮子、宮子、宮子……


 運転手も含めて百名以上。全員とも、結った髪にタンクトップ、ホットパンツ、そしてスニーカー。思考も同じ、「遺伝子」も同じ。あっという間に豪邸の周りは、「竹取宮子」でいっぱいになった。


==================================


 「へー、あのこと書いたんだー」書いたんだー」書いたんだー」ふーん」「大丈夫、そういうの書いちゃって?」


 森の中にたたずむ一軒の豪邸や駐車場に佇む自動車たちの周りで、百数十人もの宮子の話が盛り上がっていた。特に今回は、宮子の一人がブログに書いた内容のことで持ちきりである。ほんの少し個人情報を書いただけで場所がすぐに分かってしまうことも多い昨今、やはり実話を書いたことを心配する宮子も何人かいたが、当の「宮子」……この事を書いた宮子本人は大丈夫だ、と言った。


「ちゃんとばれないように脚色もしたし、それにあんな内容、信じる人なんていないよねー?」

「そうそう、まずこの話を知ってるのは『私』だけだもん、大丈夫だよ!」

「あ、そうか♪」「じゃあ安心だね」「心配して損しちゃったよ、えへへ」


 隣から別の宮子も援護してくれた。確かに「宮子」の言うとおり、この話を知っているのは自分しかいない。何せこの場所をはっきりと把握した人間は今のところ『彼』一人だけ、そしてあの後に彼は……。


「はいはーい!そういえばちょっと話があるんだけど」

「「「「「「「「「「「「「「「「ん?」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 一人の宮子の提案に、他の彼女が一斉にその方向を向いた。好奇心に満ちた茶色の瞳と、きょとんとしたような表情がいくつも並び、空き地やその周辺の草原に広がっている。


「「「「「へー、あの土地買ったんだ!」」」」」」「「「「すごーい!」」」」」

「だってみんな畑も田んぼもポイ捨てしちゃって、動物が凄い暇そうだったんだもん」「それ分かるー!」「草花も戸惑ってたもんねー」「イノシシは図々しいけどね……」「たはは、そりゃ仕方ないよ」


 ……現在、日本各地で田畑が放棄され、人間と自然の境目が曖昧になり続けている。政府の政策、後継者不足、要因は様々だが、その結果がイノシシやクマなどの野生動物の人間世界への接近、貴重な里山の光景の消滅などである。そして、その隙を縫うかのように自然の大きな力は人間に見捨てられた地を元の状態に戻そうとしている。ただし、その後に蘇る「自然」というのが、元の自然と同じである、とは限らない。


「それでさ、明日にでもあそこを一気に『整理』しない?」

「え、ほんと!?」「うわー、凄い久しぶり!」「いろいろと道具が必要になるよねー」「楽しみー♪」「腕が鳴るねー!」

「すると当然『私』もいるよねー」「あそこは結構広いから、うーんと用意したほうがいいかも」「了解!」


 ……今、日本各地の里山で「竹」、特にモウソウチクと呼ばれる種類が問題になる事例が増えている。強靭な繁殖力、旺盛な成長力を武器に、他の木々を押しのけて山を我が物顔で占拠してしまう、ということも報告されている。こういった場所は地震には強くなるものの洪水には弱くなり、地滑りを起こしてしまうこともある。当然ながら生物のバランスは大混乱し、薄暗い竹やぶの中の生態系は貧弱だ。さらには、竹に溜まった水を利用してカが大発生、人間にさらなる被害をもたらすこともある。


「それにしても、『私』がこんなにいるのに全然ばれないんだよねー」「怖いくらいに気づいてないよねほんと!」

「分かる分かる」「結構人間を利用するのは楽だよねー」「クマとかサルとか、シカもよく言ってるもん」「人間の視点は」「『美しさは強さ』」「『可愛さは正義』」「『そしてお金は無敵の武器』だもん、ねー♪」「ありがたやありがたや♪」


 ……ただ、このような事態を引き起こしたのも、結局は人間である。長年に渡って人々と共に生き、彼らの生活に関わり続けた「竹」が見放されていき、食料であるタケノコですら外国のものを輸入するようになってしまった。彼らの手厚い保護を失った竹たちは、暴走を始めたのである。

 そして、その勢力はもはや生態系や自然だけに留まらなくなっている。山里の自然や土地はおろか、町で暮らす人間の世界にまで「竹」は既に入り込んでいる。千年も前から変わらぬ美貌や豊富な知識、そして活発な行動力を武器に、どの人間にも気づかれないまま仕事を「竹」で占領し、貴重な土地をも名実共に我が物にしている……。


「それじゃ!」「準備の前に!」「人手を増やしますか!」「「「「「「おー!」」」」」」」


 基本的に睡眠をしなくても動くことのできる宮子には、24時間、限りない時間がある。今夜もそれを活かし、明日の準備をすることにした。


 宮子の号令と同時に、豪邸を包み込む山々が少しづつ光に包まれ始める。いや、正確に言えばこの山々を埋め尽くすかのように繁茂する何万本もの「竹」の節……さらに言えば、竹取姫子の体が。次第に光の周囲に黒ずんだ影が現れ始め、次第に女性の姿を作り、やがてそこに色がつき始め、数十秒後には一人の女性……「竹取宮子」となって立ち上がる。濃い緑のタンクトップに緑のホットパンツ、抹茶色のスニーカー、結った髪……何千何万、三つの山の竹一本一本から、全く同じ姿の女性の姿がまるでプロジェクターに映し出されるように現れ続ける。そして再び竹の節々は光り、新たな「宮子」が再び生み出される。そしてまた竹の節は光り、生み出され、光り、それを何度も繰り返す……。

 これと同時に、山肌を埋め尽くす大胆な衣装の「宮子」の足元からも、別の「宮子」が生え続ける。何百、何千、何万もの竹の子が、地面に強靭なネットワークを作る地下茎から無尽蔵に。まるで新天地を楽しみにするかのように。



 彼女は一人の「人間」ではない。何十万、何百万も居る「女性」を指すだけの名前でもない。この山を始めあちこちで繁茂し続ける竹、地面を覆い尽くす地下茎、新たな自分を自在に創り出すために生え続ける竹の子、そして人間たちと直接関わる女性。その全てが彼女、『竹取宮子』なのだ……。


「それじゃ、準備開始!」

「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」「おー!」……

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