前編
皆様、こんにちは。今日も私の記事を見に来てくれてありがとうございます。近頃の夏は毎年どんどん蒸し暑くなって、私の近所の草木も太陽の光を浴びすぎてとても暑そうです。いくら太陽の光が必要でも、やりすぎはよくないですよね……。みんな、頑張ってね。
そういえば、私が度々アップする写真を見て「竹」が映っている写真が多いって書いてくれる方が何人かいましたね。パンダの絵文字付きで書いてくれる人もいましたけど、個人的にあの文字凄い好きなんです。ただ、今回の記事の話題にしたいのはパンダちゃんじゃなくて、この「竹」についてなんです。
雨後のたけのこ、なんていう諺もあるとおり、竹って物凄い成長するスピードが速い植物だってよく言われています。一日で最大1mにまで大きくなったという話もあれば、竹にかけておいた鞄をうっかり忘れて、数日後に取りに戻ったら手の届かないところにあった、なんていう可哀想なことも聞きます。実は、竹林の地面の下には隅々まで「地下茎」って言う地面の下に伸びる茎があちこちに張り巡らされていて、地面の上にスペースが空けば、そこから竹の子が生えてきて一気に大地を突き破り、天高く伸びるというわけなんです。それで大きくなったら地下茎は分離して、新しい「竹」になる、そうやって竹はどんどん勢力を広げるんです。あ、ちなみに地下茎からは本物の根っこもちゃんと伸びてますよー。
なんかそう言うのを聞いたことある、という人もいるかもしれないですけど、これって要するにソメイヨシノと同じような感じだ、っていったら驚く人も多いかもしれないですね。皆さんが大好きな桜の木のソメイヨシノって、実は自分で実をつけることが出来なくて、人間によってからだの一部が切り取られて別のところに植えられて、それで大きくなっていったんです。まあ、一言で言い表しますと日本中のソメイヨシノは「クローン植物」ということですね。実は竹の地下茎も同じような感じで、こっちは地下茎をどんどん伸ばして範囲を広げていくという形なのですが、一つの場所にたくさん生えている竹や竹の子は、みんな同じ遺伝子を持つ「クローン」なんです。まあ、竹の場合は数十年か百年おきに花をつけて子孫を残すことが出来るんですが、みんな同じクローンの竹なので一斉に同じ時期に花を咲かせて、それで枯れてしまう、こういう理屈です。
さて、前置きが長くなりすぎてすいませんが、そんな「竹」の秘密を知ってもらえば、ここから取り上げる昔話もより分かりやすくなるかもしれません。ずーっと昔の話ですし凄いマイナーなので、多分知らない人も多いでしょう。ちょっとだけ怖いかもしれないので、程よい感じで涼しくなってくれたら嬉しいです。それに、多分居ないとは思いますけど、たかが「竹」って舐めている人、怖い目を見ますよー、なんちゃって。それじゃ、お話を始めましょう。
あ、あとちょっと補足。言葉遣いに関しては当時のものだと分かりにくいかもしれないので、現在使われてる言葉にしてます。ごめんなさい……。
昔々、まだ東京が「江戸」と呼ばれていた頃のお話。遠くへ向かうためには駕籠屋、それに乗るお金が無ければ自分の足が唯一の頼りだった頃。長くて険しい山道を半日以上もかけて歩き続ける、という事も珍しい事ではありませんでした。そんな中で……
「はぁはぁ……」
一人の男が先程まで必死に走っていた分の息を整え、森の木の下で雨宿りを始めていました。夕立というのは厄介なもの、先程まで晴れていたのに今は物凄い土砂降りです。せっかく順調に山道を進んで目的地に辿り着こうとしていたのに、このままだと立ち往生、先に進めません。よりによって傘など雨具を油断して持ってこなかったのも災いしたようです。
それから少し経ち、ようやく雨雲も通り過ぎたので、男の人もようやく動き出すことが出来たのですが、もうあたりはすっかり日暮れ、太陽の反対側はすっかり暗くなっていました。このまま歩いても、目的地についた頃は深夜、旅館などは空いていないかもしれません。野宿と言う最悪のケースも頭によぎってしまいます。
「まずいなぁ……どうしようか……」
なんて考えていたときでした。うっそうと茂る森の中から、見慣れない明かりが灯っているのを男は目にしました。こんなところに村なんてあったかな、もしかしたら怖いお化けかもしれない、なんて色々と不安な考えもよぎりましたが、野宿なんてしたら夜ににわか雨なんて降ったら大変ですし、何よりもっと怖い「山賊」がやってくるかもしれません。決心した男の人は、荷物を背負って道を外れて森の中に入り、光の方向へと進むことにしました。幸いにも森の中には獣道が出来上がっており、鹿や熊にも出会うことなく男は楽に向かうことが出来ました。そして、森を抜けた先の開けた場所には、信じられない光景がありました。
「す、凄い……!」
なんとそこには、地図にも載っていない「村」があったのです。
見た目はごく普通の村、男が生まれ育った場所とあまり変わりません。周りを山に囲まれていて、村の近くには竹が多く生えていました。狐や狸に化かされてるのかも、と再び考えてしまった男ですが、もう一つの可能性が頭の中に浮かびました。ずっと昔、戦いに負けた落ち武者がこっそり地図にも無い場所に逃げ延び、村を作ってひっそりと暮らしているという……。それでももしかしたら自分はよそ者として殺されてしまうかもしれませんが、今にもさよならをいいそうな今日の太陽を見て、男は覚悟を決めて山肌を降りて「村」へと急ぎました。
柵も何も無い村の傍にやって来た時、男は早速第一村人を発見しました。農作業を終えて、家に帰ろうとする一人の女性。そのあどけなくも美しい表情を見たとき、一瞬で男の鼓動は上がり、顔も真っ赤になりました。ですが、初対面でいきなりそういう攻め込み方をするのは効果的でありませんし、今はどこか宿を探すほうが先です。
「す、すいません!」
大声で言われ、やはり女性のほうも驚いてしまいましたが、幸いにも警戒する様子も無く男の話を聞いてくれました。外部の人間を敵視することが多かったこの時代にしては非常に珍しい光景かもしれませんが、女性は男の困っている様子を見て、何とか助けたいと思ったようです。そして、女性の案内で彼は村のほうへと向かう事になりました。
中の様子も、ごく普通の村……あちこちに竹やぶが妙に多いところが気になりますが、それ以外は大して見慣れた農村と変わらない光景でした。そんな中で、家が多い村の中心部に入りかけた十字路で、彼女は少し待って欲しいと言いました。家があまり片付いておらず、準備をする必要がある、と言うのです。泊めてくれるだけでもありがたいと言うことで、男はその指示通り待つことにしました。それから少し経ったときです。彼の視線が、妙なものを見つけました。
「あれ……?」
服装も髪型も、間違いなく先ほどの女性です。なのに、やって来たのは村の中心部へ向かう道ではなく、それと反対側……家も多いですが竹やぶが目立つ方向からでした。何かあったのかと尋ねた男でしたが、聞かれた方はきょとんとした顔つきでした。色々と尋ねてみたのですが、どうも先程の女性とは「別人」だったようで、最終的に双方とも謝る結果になりました。
そして、女性が立ち去ってから数分後。
「お待たせしました」
中心部の方向から慌てて戻ってきた女性は、間違いなく自分を案内してくれた女性です。
あれは一体誰だったのか、男性のほうは尋ねようとしたのですが、宿に泊まれることの安心感に負けて結局言い出すことは出来ませんでした……。
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ずっと男は、この村がやっぱりお化けが自分を食べるために作った村なんじゃないか、と疑いをかけ続けていたのですが、その心は大きな民宿……と言うより彼女の家で出された豪華な食事で吹き飛んでしまいました。ずっと昔の農村の食事なので、現在の皆様には豪華というよりも健康志向という感じかもしれないですが、山菜や焼き魚の味に舌鼓を打ち、雑穀交じりの玄米もたっぷり食べることが出来て、男は大満足でした。しかも何が嬉しいって、皿の料理がなくなる良いタイミングで女性が次の料理を持ってくるという気配りの良さ。すっかり機嫌が良くなり、疑念も晴れた男はその女性相手に自分の身の上話やら何やら、色々な話を持ちかけました。彼がそれなりに成功している商人だということや、最近は中々景気のいい話が無くて大変なこと、などなど。
せっかく仕事を頑張ってるのにどの女性も見向きもしない、何ていう話になった時、そういえばこの村に「男」は居ないのか、と男は女性に聞きました。
「それが……実は男の人はみんな出稼ぎに……」
今も地方と都市の格差は問題になっていますが、昔はもっと酷かったもの。そんな中でこんな豪華な食事を出してもらったことを考えると、あわよくばナンパしようと考えていた男は、なんだか申し訳ないと女性に言いました。幸い女性のほうも気にしていない様子でしたが。
そしてもう一つ。色々と豪華な食事が出ている中で、男が意外に思ったのは、村のあちこちに生えているはずの「竹の子」を使った料理が出ていないこと。
「この村では竹は重要なことに使っていますの。建物を作ったり、道具を作ったり……」
「なるほどな、そりゃ食べるなんてもったいない訳だ」
言われてみれば、この家の中もあちこちが竹で満ち溢れています。この村は「竹」を中心に成り立っているのです。そう、建物から山、森、そして人、ありとあらゆるものが……。
そしてその夜。竹細工で出来たお風呂につかり、すっかり疲れも取れた男は、女性が用意してくれた寝床で寝ることにしました。江戸時代は扇風機もエアコンもありませんけど、その代わり通気性に富んだ建造物や道具で対処が行われていました。竹で出来た骨組みだけの枕や柔軟性に富んだ竹の敷布団を見て、本当にここは「竹」が中心なんだな、と男は思いました。朝起きたら、この村の住人とこれらを使った商売をする相談でもしようか、なんていう皮算用が頭の中に思い浮かんだ時でした。女性が、一つだけ守って欲しい事がある、と言うのです。
「夜になってもし周りが明るくなっても、絶対にこの場所から動かないでください」
「……へぇ、そりゃ変わった願い事だな。どうしてだい?」
「それは……言うことは出来ません」
どうやら、よっぽどの事情があるようです。正直言ってかなり気になってしまうのですが、どこぞの鶴の恩返しを無駄にした爺さんと婆さんのようなことはしない、と男は明るく言って、女性を安心させました。ただ、内心はやはりその『秘密』とやらをこの目で見てみたい、という心のほうが強かったようです。やっぱり仕方ないですよね、見るなと分かっても見ようとしてしまうのは人間ですから。
で、結論から言ってしまうと結局この男も、どこぞの爺さんや婆さんとまったく同じ行動をとってしまいました。
女性の言ったとおり、夜も更けたあたりからやけに村の中が明るくなり始めたのです。最初は満月かと思われたのですが、お月様の明かりにしては妙にはっきりしていますし、何よりこんなに規則正しい感覚で月の光が雲に隠れることなんてあり得ません。最初はあの時の約束がよぎった男だったのですが、ふと見た窓の外に、例の女性が歩いている様子を見て、とうとう好奇心のほうが勝ってしまったようです。
「そーっと、そーっと……」
元々この村には外部から誰も来ることが無く、いつも村人しか居なかったせいでしょう。扉には鍵すらなく、男は妙な明るさに包まれた村の裏道へとこっそり抜け出しました。幸いにも家の中には誰もおらず、見つかることはありませんでしたが、それがますます男の興味を掻き立てることになってしまいました。一体こんな夜の間に、女性たちは何をしているのだろうか……今も昔も、男性というのはスケベなものなんですね。
と、その時。近くの道……家に面した大きい道からやぶの中を進む足音が聞こえてきました。女性か村の人だと思い、ばれては大変だと慌てて身を隠す男性。そして、そこからそっと足音の正体を見たとき、その顔は驚きに包まれました。このとき村を包み込んでいたのは、月よりも明るい光の点滅。ずっと前に問題になったアニメのあれのように激しいものじゃなくて、柔らかい光がゆっくりとした点滅するという形だったのですが、それでも十分に女性の顔を見るだけの明るさがありました。で、それが問題だったのです。ちょうど女性は三人組だったのですが、その誰もが、あの時男の世話をしてくれた優しい女性と瓜二つ……いや、この場合は瓜三つだったのです!
これは一体どういうことなのか、あの女性は三つ子だったのか、そうだよな、きっとそうだ、なんて男は思っていたに違いありません。こんな見知らぬ状況ですと自分の中で勝手に納得するなんていうことはよくありますからね。ですが、その僅かな希望はすぐに打ち砕かれてしまいました。その女性たちが過ぎ去った後、また三人の同じ姿かたちの女性が現れました。髪型や着物の少々の乱れも、その位置まで全く同じ。ですが、この女性たちがやってきた方向は、先程ここを通り過ぎた女性と同じ方角……つまり男は、一度に「六人」もの同じ女性を見てしまったのです!