第15話
「あ、気が付いた?」
う、うーん……何があったんだっけ……?
後頭部に柔らかな……いや、硬いな。
硬い感触を感じつつ、意識が覚醒する。
「ねぇ、何があったか覚えてる?」
心配そうに目尻を下げながら僕の顔を覗き込む顔。その人物は。
甘ったるいハスキーボイス。
真っ黒に日焼けした肌。
鍛え抜かれた肉体。
露出の多い服。
右耳にピアス。
ゴツゴツとしたエラ骨、頬骨。
金髪坊主。
何故か白い口唇。
……人はこれをゲイと呼ぶんじゃなかろうか?
一気に覚醒する意識。
おい!ちょっと待て!
前回の「女の子のような人影を見て〜」ってくだりはどうした! 完全に男だぞ!
てか、第一印象ハードゲイだぞ!
広がるのか!?
話広がるのか、これで!
「よかったぁ〜。無事みたいね!」
キャッキャとはしゃぐハードゲイ。
と、とにかくこの体勢はマズい。
こんな硬い膝枕、最悪だ。
「ふぁ、ふぁなふぁふぁ?(あなたは?)」
あれ、喋れてない。
てか、気持ち悪い。
ヴぇぉ、オヴェェェ、ゴルェェブェ、
びちゃびちゃびちゃ。
「あぁ、駄目じゃない! せっかく薬草を煎じて、折れた前歯部分に塗り込んだのに……」
青臭ぇんだよ!
青春みたいですね!
ん? 口がムズムズする。
『ヒエンイカルガのHPが15ポイント回復した!』
薬草が効いたのか、むくむくと歯が生えてきた。なんて効き目だよ。
煎じて傷口に塗る、が正しい使用法か。
いや、今はそんな事どうでもいい。
「あ、ありがとうございます。あ、あの、あなたは?」
「アタシ?アタシはジェイ。DURACUEを始めて1年のベテランプレイヤーよ。ちなみに見て分かるとおり、ゲイよ」
やっぱりですか……。
自己紹介でいきなりカミングアウトとは、もの凄い強者だ。漢だな。
「しかしアンタ凄いわね。アレ、何かの特技な訳?口から光線出すやつ」
あれは……。
くちルーラと命名すれば良いのだろうか。
漢字で書くと口ルーラだから、『ロルーラ』と呼ぶか。そんな特技存在しないけど。
『ヒエンイカルガは特技:ロルーラを覚えた!』
おい!アナウンス!
冗談を真に受けるな!
てか心読むな!
……………………。
……あれ?冗談じゃないの?
マジで特技登録された訳?
あんなん、いつ使えと。
使うたびに瀕死って。
メガンテ並かよ。しかも効果分からんし。
「ちょっと、何ぼーっとしてるのよ。アンタ本当に大丈夫?」
「あ、いや、す、すいません。あれは、ロルーラ?って言う特技みたいです」
「……しかし変わった奴ね、アンタ」
とりあえず、こんなとこ(村と次の狩場の間)に居てもしょうがないので、一旦村へ帰ることに。
見た目と性癖は異常だが、意外に常識人なジェイさん。おかしな出会い方をしたせいか緊張もせず、いつの間にか自然に話せていた。
ジェイさんはさっきも聞いた通り、DURACUE歴1年のベテランプレイヤーらしい。
レベルは11。1年もやっていてレベルが11ってやけに低くね?って思ったけど、8あたりから急に成長速度が下がるらしい。また、特技や呪文もかなり覚えにくく、単なるレベルアップでは絶対に覚えないらしい。
ロルーラを覚えた経緯を話したら爆笑されたけど、とにかくそういった切欠がなければ覚えないとの事。
「はぁ〜久々に爆笑させてもらったわ〜。普通キメラの翼を口に含んだりはしないわよ? プフフッ」
「笑い過ぎですよ……ノリでついやっただけですから」
ひとしきり笑った後、ジェイさんは何かを考えると僕の両肩をがしっと掴んできた。
ヒッ。
「……気に入った! ねぇアンタ、アタシと組まない?」
「ぼ、ぼ、ぼ、僕は始めては女の子ってき、き、決めてるので!」
「……ちょっと待ちなさいよ。何を勘違いしてるのか分からないけど、アタシにだって選ぶ権利くらいあるわよ。そうじゃなくってパーティを組もうって言ってるの!」
パーティ? 僕と?
「アタシもひとりに限界を感じてたとこだし、初心者を導くのもベテランプレイヤーの役割じゃない?」
「……変な道に導いたりしないですよね?」
「しないったら! アタシの好みはジャニーズ系なの! アンタみたいなのは願い下げよ、ばーか」
操の危機はないようだ。
……しかし、初めての仲間がゲイか。
人は良さそうだから問題はなさそうだけど、ゲイだもんなぁ……。
ゲイ、ゲイかぁ……。
「ゲイ、ゲイうるさいのよ! アンタなんか最低ランクの不細工じゃないの!」
あ、口に出てたのね。
でも確かに僕みたいな不細工が選り好み出来る立場じゃないんだよなー。手を打つか。
「えっと、宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
「うん! 宜しくね!」
輝くような笑顔で僕に笑いかけるジェイさん。
不覚にもその笑顔を一瞬可愛いと思ってしまった。大丈夫だろうか、僕。