第12話
「嫌です」
断られた。
まさに予想外。
「気持ち悪い」
そこまで言うか。
「あなたがその容姿のせいで虫ケラ、ゴミ屑、蛆虫のような扱いを受けていたのと同じように、私もこの容姿のせいで様々な男の欲望にさらされてきた。だから私は絶対に男とは組まない。もう一度言う、気持ち悪いから絶対に嫌だ。特に貴様のような醜い男は絶対に嫌だ。虫酸が走る」
えーっと…………。
なんでこの人怒ってんの?
てか初めて会った時「女ではないのだが、それでも良ければ……」みたいなこと言ってたのに。
あれは社交辞令ですか、そうですか。
「……コエンザイルガさんや?善良なNPC老人であるワシを助けると思っ「嫌です」て……」
「な!散々便宜を図ってやったのに何じゃその言い草は!」
「勝手に鼻の下のばして勝手にやったことだろう。恩着せがましいことを言うな」
な、なんかさ、僕、置いてけぼり。
じじいは完全に固まってる。
こ、こちらの方、随分男らしい方なんですね……。「特別扱いは困る」とか言いながら、あれは自分に酔ったセリフだったようです。
「そういう事だから村長の資産をどうしようが貴様の勝手だ。好きにすればいい」
「へ、へぇ」
口調が戻ってしまった。
颯爽と去るコエンザイルガさん。
うん、今後は関わるのやめよう。
「じゃ、じゃあぼ、僕もこれで……」
じじいからの返事は無い。
ただの抜け殻のようだ。
『ヒエンイカルガは21,440ゴールドを手に入れた!』
なんか、ごめんなさい。
…………ここで12話 -完-でもいい感じだけど、流石にそれは短すぎるからもうちょい話を続けよう。
あの後、僕は武器屋へ行き、装備を整えた。装備は当初の予定通りのものに。
次の町に更なるアップグレード版があるはずだし、金は節約するに越した事はない。
武器防具を装備したことでどれだけ変わったのか知るため、教会でステータスも確認した。糞神父は僕の言いつけ通り余計なことは喋らなかった。良しよし。白い布を被っていなかったのは減点だがな。
以下が僕の現在のステータス。
――――――――――――――――――――
旅人
せいべつ:おとこ
レベル:1
HP:18
MP:0
E:聖なるナイフ
E:くさりかたびら
E:うろこの盾
E:木のぼうし
E:皮のブーツ
ちから:5
すばやさ:7
たいりょく:4
かしこさ:8
うんのよさ:12
かっこよさ:0
さいだいHP:18
さいだいMP:0
こうげき力:24
しゅび力:38
EX:0
しょうごう:ブサイク
(取得条件:複数の人間に「こいつ不細工だなー」と思われる)
(効果:かっこよさが常時−10)
とくぎ:なし
じゅもん:なし
――――――――――――――――――――
また突っ込みどころがあるよ……。
それは後で突っ込むとして攻撃力、防御力がしっかり上がっていることを確認。これならソロでもスライムも倒せるだろう。
で、称号だけどさぁ……。
かっこよさ−10ねぇ……。
もうあれだ、突っ込んだら負けなんだろうな。気にするのはやめよう。強さには関係無いもんな。
さてさて『スライム平原』に来ましたよっと。
うん、この間と同じように居るわ居るわスライムの群れ。
何か増えた? すげー居るんだけど。
ま、いっか。
周囲を伺うと今日も数人のプレイヤーが狩りをしている。装備は僕のと比べるとショボイ。このゲームは金稼ぐの大変なんだろうな。僕が稼いだ(?)お金も言わば裏技みたいなものだろうし。
だから皆、ほぼ初期装備で頑張っちゃってる訳だ。
ご苦労様でーす(笑)
よし! リベンジじゃい!
『スライム達が現れた!
しかしスライム達はこちらに気付いていない!
どうする? ねぇどうする?』
ねぇ、どうするって……たたかうよ。
暫く戦闘しないでいたけど、随分アナウンスがフレンドリーになったな。
スライム達?
あぁ、スライムの後ろにスライムベスが隠れてたのか。
ん?……スライムとスライムベスが――――キャッキャウフフしてる。
周囲を見てみると青とオレンジの物体が1ペアになり、ボヨンボヨンぶつかり合ってる。その数、目算で100ペア以上。
で、で、ディープキスしてるカップルも居やがる。艶かしい舌使い。な、なんかやけにリアルでエロい。僕の下半身が何やらもぞもぞしてきたよ?
繁殖期、かな。
――――全員死んだらいいと思うよ。
目の前のスライムに向かって聖なるナイフを振り下ろす。
『ヒエンイカルガの攻撃!
スライムに12ポイントのダメージ!!
スライムを倒した!』
よし、一撃だ! 聖なるナイフ素晴らしいぜ!
次はスライムベ…………あれ?
『スライムベスは錯乱している!
恋人が殺された事を信じたくないようだ。
しかし、彼女の目から涙がとめどなく溢れてきた。
どうやら彼の死を少しずつ受け止めているようだ。
……強い子ね。
ねぇ、どうすんのよ、この子』
えっと、慰める、とか?
『スライムベスの攻撃!(泣きながら)
ヒエンイカルガは1ポイントのダメージを受けた!
ヒエンイカルガはぼーっとしている。
スライムベスの攻撃!(彼との思い出を胸に抱いて)
ヒエンイカルガは1ポイントのダメージを受けた!
ヒエンイカルガはぼーっとしている。
スライムベスの攻撃!(「一緒に海、行きたかったな……」と思いながら)
ヒエンイカルガは1ポイントのダメージを受けた!
ヒエンイカルガはぼーっとしている。』
どうしろと!!!!!!
謝ればいいんですか!?
くっ、たかがモンスターじゃないか。
チェストーーーーッ!
『ヒエンイカルガの攻撃!
スライムベスに11ポイントのダメージ!
スライムベスを倒した!
スライム達をやっつけた!
ヒエンイカルガはレベル2に上がった!
最大値HPとかその他諸々がビミョーに上がった!
7ポイントの経験談を獲得!
6ゴールドを手に入れた!
新たな称号を手に入れた!
この女の敵が』
後味悪いし……。
アナウンスの人(?)絶対僕の事嫌いになったよな。
この後、僕は心の平穏の為にイヤホンを外し、スライム達を乱獲した。全体的に涙々の愛憎劇。
――――――――少し落ち込みました。
でも大丈夫。
落ち込むこともあるけれど、私は元気です。
Presented by キキ