第6話
「今日は何人だった?」
殺風景な事務所フロアに初老に差し掛かる男の声がこだまする。
「あ、課長!今日は2人ですね。1人は普通のオタクっぽい高校生くらいの子で、もう1人は……すっごい可愛い男の子でした!もうその辺の女の子なんか比べものにならないくらい綺麗で、女のわたしが嫉妬しちゃうくらいの!」
男の声に答えた声は可愛らしいアニメ声だ。声の主の見た目は普通のOLそのものだが、声とテンションだけをみれば10代前半のそれでしかない。
「容姿も重要なファクターではあるけれど、我らの世界に適正があるかはまた別の話だろう」
課長と呼ばれた男もまた特徴の無い容姿だ。満員電車に乗っていたら他のサラリーマンと同化してしまうだろう。
「夢の無いこと言いますねぇ。適正があった上で容姿端麗なら言うことないじゃないですかぁ」
「まぁ君の趣味に口出しするつもりはないよ。さて、新人の話は置いておいて、今日の報告を聞こうか」
「あ、はい!えーっと、こっちに仕舞ったはずなんですけど……あ、あったあった!」
がさごそと机の引き出しを漁り、バインダーに綴られた書類を1枚、2枚と捲り上げる。
「えーっと、DURACUEと地球世界との接続状態は変わらず安定しています。
ログイン搬入、ログアウト搬出ともに問題なく行われており、テスター達はVR世界である事を疑っている様子はありません。
昨日の死亡者は全テスター97名中、12名。それぞれ直近の教会に搬送し、ザオラルにて蘇生済みです」
「現在の最高レベルは?」
「プレーヤー名はジェイ。現在のレベルは11で転職はまだしていません。特技は覚えておらず、呪文はメラとザメハの二つ取得しています」
「うーん、確かそのプレーヤーはDURACUEを始めてもう1年になるはずただったな。それでその程度か、話にならんな。入れ替えるか……」
「『異世界の人間の中には強大な力を持つ者が居る』なんて誰が言い出したんでしょうね。『チート』……でしたっけ?」
「知らんよ。私はただの課長でしかないからね、上の決定事項は絶対だ。言われた通りに仕事をするまでだよ」
「課長……だいぶこっちの世界に染まっちゃいましたね。本当にサラリーマンみたい」
眉間に皺を寄せ、うーんと唸る男。
頭の中はビルテナント家賃やエセVRダイブ装置の電気代、異世界間を繋ぐホールの維持費、またそれらに付随する人件費。これらをどうやりくりしていくかに毎日頭を悩ませている。
男は苦笑する。
『サラリーマンみたい』か……。
向こうでは『バトルマスター』だった私が何の因果か、地球という世界で20年以上もサラリーマンというやつをやっている。
私の職業ステータスはまだバトルマスターと記載されているのだろうか……。こちらに居る以上、確める術はないが。
――――日本の関東某所にある中小企業、
『株式会社Fake World』
表向きの顔はシステム開発会社。
その実態は地球とは違う世界『DURACUE』の危機を救うべく、異世界の人間を仮召喚し、適正を見定める為の組織。
DURACUEの島国をひとつ丸々使っての一大プロジェクト。
急造された村、町、城はまだまだ張りぼてだらけ。NPCを演じる現地DURACUE人は演技に慣れていないせいか、棒読みが目立つ。
そんな穴だらけのプロジェクトであるが故に未だ成果は上がっていない。
しかし、そのプロジェクトは1人の青年の出現により実を結ぶこととなる。
――――まだ先の話だが。