第2話
7Bの部屋に入ると遮光カーテンで窓からの日差しを遮っているようで、部屋の中は薄暗かった。この部屋は一辺が30メートルくらいある四角い部屋で、そこにはゲームセンターに置かれているガン○ムのゲーム(戦場の絆だっけ?)の筐体(きょうたい)に近いものが等間隔に並べられている。
…………どうしろと?
誰も案内してくんないんだけど。
ウロウロと部屋の中を徘徊し、電源が入っているであろう機械を眺める。
あ、人が寝てる。
何か頭にヘルメットみたいの被ってるけど、もしやVR世界にダイブ中?
…………………。
ふぉぉぉぉぉぁぉぉぁ!
テンション上がるわぁぁぁぁぁ!
マジで!?
マジでVR技術とかあんの!?
斑鳩飛燕がVR世界で俺無双できる系!?
目を皿のようにして機械を眺めていると、どこからかアナウンスのようなものが流れてきた。
「ようこそ株式会社Fake Worldへ。DURACUEのテスターとしていらした方はお好きな空いている筐体へ入って頂き、VRダイブ用ギアを頭に装着してお待ち下さい」
あ、やっぱり普通に会社なんだ。
いやいや、そんな事よりレッツVR体験!
空いている筐体を探し、潜り込む。
中にはリクライニングを全開に倒したような形のソファがあり、その上には何本もコードがついたヘルメットが置いてある。
ここに寝て、これを被ればいいんだよね。
いそいそとギア?を被り、腕をお腹の上で組んでソファに横たわる。
わくわく、テカテカ。
あ、テカテカはしてないよ。風呂に入ったし。
まだかなーとそわそわしているとギアからヒーリングミュージック的な音楽と共に女の人の声がしてきた。
「――――あなたはDURACUEの世界の住人として、これから生きることになります。さぁDURACUEでのあなたのお名前を教えて……」
これはあれか!
ネット小説とかでよく見る初期設定ってやつか!
ステータスポイント割り振ったり、ビジュアルを弄ったりするやつだな!
名前ぇ?
決まってんだろぉ?
斑鳩飛燕!
あ、でも異世界仕様の『ヒエン=イカルガ』の方がいいよな。
なので、ヒエン=イカルガでお願い!
………………。
おい、どうした機械。
なぜ何も起きない。
「音声ガ聞キ取レマセン。モウ一度ハッキリト発音シテ下サイ」
音声入力かよ!
VR技術あんなら思考認識しろや!
てか急にロボ声やめい!
まったく、しゃーねーな。
「ひ、ひえんいか、いかるが」
「『ひひえんいかいかるが』様デ宜シイデスネ?」
良くねーよ。
全然違うよ。
「ち、ちが」
「音声ガ聞キ取レマセン。モウ一度ハッキリト発音シテ下サイ。マタ、名前ノ確認ニ関シマシテハ『はい』『いいえ』デオ応エ下サイ」
んだよ、最初からそう言えよポンコツが。
「いいぇ」
「音声ガ聞キ取レマセン。モウ一度ハッキリト発音シテ下サイ。マタ、名前ノ確認ニ関シマシテハ『はい』『いいえ』デオ応エ下サイ」
イラッ。
ちゃんと言っただろうが!
くそっ。
「ぃいえ」
「音声ガ聞キ取レマセン。モウ一度ハッキリト発音シテ下サイ。マタ、名前ノ確認ニ関シマシテハ『はい』『いいえ』デオ応エ下サイ」
きぃーーーーーーーーーーーーっ!
なんざますっ!一体なんなんざますっ!
スネちゃま、スネちゃまー!!
くそっ、くそっ、糞ったれぇ!
いや、落ち着け、落ち着くのだ。
もう一度だけチャレンジだ。
意識して普通の人のように喋るんだ!
神よ、いや悪魔よ!我に力をっ!
「いいえ」
「デハ、再度オ名前ヲオ聞カセ下サイ」
Yes!!!!!!
まだだ、まだ終わっちゃいないっ。
集中しろ、集中だ。
唱えろ、唱えるんだ!
ヒエンイカルガ、ヒエンイカルガ
ヒエンイカルガ、ヒエンイカルガ
ヒエンウカルガ、ヒエンイカルガ
ヒエンイカルガ、フエンイカルガ
ひひえんいかいかるが
違うっ、そうじゃない!
ヒエンイカルガ、コエンイカルガ
コエンザカルガ、コエンザイルガ
コエンザイムQ10、ヒエンイカルガ
ヒエンイカルガ、ヒエンイカルガ
ヒエンイカルガ、ヒエンイカルガ
おしっ!
何か途中肌に良さそうな感じになったけど、概ねOK!
「ひえんいかるが」
「『ひえんいかるが』様デ宜シイデスネ?」
「あ、あい」
――――愛、それはかけがえのないもの。
愛なくして人は生きてはいけない。
そう、人は皆愛を求め彷徨う旅人なんだ。
またこれかよ。
しつこいわ。
「ひえんいかるが、ようこそDURACUEへ。では良い旅を――――」
お、おーーーい!
「あい」で認識したんかーい!
パラメータの設定は!?
ビジュアル設定は!?
目赤くしたり、白髪にするやつは!?
ね、ねぇ女顔にしたいんだけどさぁ!
お姉さんのアナウンスボイスと共にプシューと白い煙が筐体内を包み込む。
それを嗅いだと思った瞬間、僕の意識は失われてしまった。