第2話
「またか……」
俺こと、斑鳩飛燕(いかるがひえん)は朝が弱い。
いや、本当は普通に起きられるのだが、日々の闘いのせいで睡眠時間が極端に削られているのだ。
昨晩も幻術師の宿木氷雨(やどりぎひさめ)の奇襲を受け、朝の4時まで精神魔術の応酬を繰り広げてたから眠くて仕方がない。
なのにだ、こいつは俺の事情なんてお構い無しで俺の布団に潜り込む……。
「……あふっ、あ、ひーくんオハヨー」
「……いつもの事だが、聞かせてもらうぞ。 何でお前がここに居る」
「ひーくんのお布団あったかいからさー。あはは」
「それはまだいい、いや、良くはないが……、なぜ裸なんだ?」
「えへへ、ひーくんの朝の生理現象をマリアが処理してあげなきゃいけないから?」
ゴツンと拳骨を落とし、ため息をつく。
「痛いよ、ひーくん……」
涙目で頭を擦りながら「えへへ」と誤魔化すマリア。
こいつは俺の隠れ家の隣に住んでいる神堂マリア(しんどうまりあ)だ。
俺は両親が亡くなってからは両親と住んでいた家を売り払い、呪術的波動が届きにくい郊外のアパートを選んでひっそりと暮らしていた。
その隣に住んでいたのが同い年のマリアだ。
こいつも俺と同じ境遇(両親が亡くなっている)で12歳の時から一人でこのアパートで暮らしている。
学校も同じセントオフィーリア学院で、クラスメイトだ。
「一人暮らしで寂しいのは分かるが、朝から刺激が強すぎるんだよ。 もう少し自重してくれ……」
「ボクの身体を見て、ひーくんはムラムラしてくれてるんだっ!?」
笑顔全開で俺に抱きついてくる裸のマリアをため息をつきながら優し 「カズちゃーん、遅刻しちゃうわよー、早く起きなさーい」 ……く抱き締め、頭を撫でてやると、気持ちよさ 「今日の朝食はカズちゃんの好きなパンケーキにしたからね~」 ……そうに目を細める。
クソッ。
「ほら、早く服を着ろよ。 学校遅刻しちゃうぞ」
「うん! 今日はひーくんのお弁当め作ったから、楽しみにしててね!」
顔を洗い、制服に着替えると味噌汁の香りがすることに気が付く。
「えへっ、ひーくんが寝てる間に朝食も作っておいたの~」
まったく、こいつには敵わないな。超絶美少女な上に料理も完璧で、さらに生徒会長でもあるんだから。
学校では俺なんかより、ずっとイケメンがマリアにアプローチをしてるのに全てを振って、俺なんかと一緒に居たがる。多分、俺のことを家族みたいに感じているんだろう。でなきゃ、こんな女顔の俺と一緒に居る訳がない。
「いつもありがとうな、マリア」
「ひーくん……ボク、あの、そ 「和男! パンケーキ冷めちゃうから早く降りて来なさい!」 の……」
幻聴が……氷雨めぇ……時限式の幻術を仕掛け 「もう母さん起こさないからね!」 ていきやがった、な……。
「あのね、ボク……ひーくん、ううん、飛燕のことが……」
味噌汁の湯気か二人の沈黙の中、ゆらゆらと揺れている。
「ど、どうしたマリア、何か変だぞ?」
「ずっと前から大す 「ドダダダッ」 きなのっ!」
突然の告白。 ガチャリ
俺は頭が真っ白にな 「いい度胸してるねぇ、和男。 あんた母さんがいつまでも優しく起こしてあげると思ったら大間違いだよ!」
「だから勝手に僕の部屋に入ってこないでって何度も言ってるじゃない!」
「なんだ、起きてるんじゃない。 だったらさっさと……和男、それ、何?」
「な! 見ないでよ!」
「あのね和男。 母さんあんたがどんな趣味持ったって構わないけど……それ……抱き枕なの?」
み、見られた……『マリアさまにお願いっ』のレアノベルティ、等身大マリア抱き枕を……。
「変な大人にならなきゃいいけど……、早く降りといで、パンケーキ電子レンジで温めておくから……」
あ、パンケーキ食べたい。
あぁ…学校行きたくねぇなぁ……。
お母さんてなぜかご飯冷めるの嫌いません?