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中学二年生  作者: 多摩屋
中学生編
11/33

第11話

ギルドの新しい在り方

 いやっほー!

 今日で15歳よー!


 あたしの名前はルル=ルールルー。


 捨て子だったあたしを拾って育ててくれたじーちゃんの名字がルールルーだったのと、茶目っ気たっぷりのじーちゃんが面倒だからと適当につけてくれた名前なの。


 ほんとお茶目さん☆


 王都グランデロンでも偏屈で有名なじーちゃんは実は昔、凄腕の冒険者だったらしい。


 かの有名な伝説の冒険者『ヒエン=イカルガ』とも一時期パーティーを組んで、亜人達の都市シャイニングにある大迷宮を踏破したことがあるんだって。


 そんなじーちゃんは冒険者を引退後、グランデロンの南30キロ程にある『常闇の森』に家を建てて住んでいる。


 なんでこんな魔獣ばかりの森に住んだのかは謎だけど、あたしが捨てられたのがここだから結果オーライ。 じーちゃん居なきゃ間違いなく魔獣のエサだったもんね。




 話は戻るけど、今日であたしは15歳。


『15になったら外の世界を旅して良し』 


 という許可をじーちゃんに貰ってたのだ!



 いよいよ今日、あたしは冒険者になる!

 これがワクワクせずに居られるかっての!




「ルルや、もう支度は済んだのかい?」



「うん! じーちゃんの若い頃に負けないくらいの冒険者になって、帰ってくるよ!」



「ほっほっほ、女ながらに勇ましいのぉ。

 外の世界はルルの理解を越える事ばかりじゃぞ?

 わしの若い頃とは人も制度もだいぶ違うようじゃしのぉ……」



 偏屈で有名なじーちゃんだけど、あたしには物凄く甘々なのだ。



「心配性だなぁ、じーちゃんは。 大丈夫! 根拠はないけど大丈夫よ!」



「ほっほっほ、それだけ元気なら大丈夫そうじゃの。 困った事があればいつでも帰って来て良いのじゃからな?」



「ありがとう、じーちゃん!」



 じーちゃんに抱きつき、加齢臭をくんかくんかして名残惜しみながらもあたしは扉を出る。





 王都まで30キロかぁ……。


 魔法は割りと得意だけど体力には自信がないあたし。


 飛翔魔法なんて高度な魔法は使えないし、やっぱり歩くしかないかぁ……。


 まだ早い時間だし、夕方までには着くよね。




 てくてく、てくてく。



 てくてく、てくてく。



 てくてく、てくてく。



 てくてく、てくてく。





 ――――――――――。






 …………着いたし。



 普通こういう場合、魔獣に襲われたり、山賊が貴族や商人の馬車を襲ってたりするもんじゃないの? そんで助けた相手がめちゃくちゃイケメンだったり、ツンデレエルフだったりするのが王道でしょう?



 これじゃ話が広がらないじゃないか……。

 あたしこの話のヒロインよね?


 まさか……。

 この話で使い捨てされるキャラ?

 前回の新聞配達員みたいに。


 (「新聞配達員は」次回登場予定です)




 !? 誰!?


「新聞配達員は」って!?


 あたしは!?






 ――――――――――。







 ……まあその事に触れるのはやめとこう。



 さて、当初の予定通り、冒険者ギルドに行ってさっさと登録を済ましちゃわないとね。



 冒険者ギルドは街の中央にあるって確かじーちゃんが言ってたなー。 目立つからすぐ分かるはずだって言ってたし。


 お、あれかな?




「おぉ!? ルールルーさんじゃねぇか! いつ王都に来たんだい?」



 知らないおじさんに話し掛けられた。



「え? 失礼ですがどちら様ですか? あたし王都に来たのは初めてだし、それに何であたしの名前を?」



「いやいや、最近は景気が悪くてしゃーねーよ。 魔女の森のせいで……」



「……はい? 何を言ってるのかさっぱりなんですけど……魔女の森?」



「あら? ルールルーさんともあろうお方が知らないんでさぁ?」



「あの……誰かと勘違いしてません?」



「ガハハ、そりゃそうか! いやね、最近王都北にある魔女の森ってとこに……てかギルドで聞いた方が詳しく聞けると思いますぜ?」



(……心の病気かな?)



「…………」



「…………」



(なんだろう? ……あたしが何か喋るのを待ってる感じだ)



「…………」



「…………あのぉ…一体な「いえいえ、今度はウチの魚も買って下さいよ、旦那!」んな…」



 被せて来やがった……駄目だこりゃ。


 話を終えた体のおじさんは急に無表情になり、王都の正門の方を見ている。



 (関わらない方が良さそうね)



 そっとその場を離れ、ギルドへ足を向ける。



 少しするとさっきのおじさんの声が聞こえてきた。




「おぉ!? ラインハルトさんじゃねぇか! いつ王都に来たんだい?」




 …………。




 …………。




 …………あ。




 そう言えば聞いた事がある。

 魔族の秘術『エヌ・ピー・シー』。


 その呪いとも言える秘術は対象者を不老不死にする代わりに自我を破壊し、決まったセリフを延々と話すだけの存在にしてしまう。


 また対象者に呪縛の効果もあり、ある一定の範囲以外、移動が出来なくなる。




 …………あの人も魔族の被害者なのね。


 恐ろしい現実に少しセンチメンタルになりつつもギルドの扉を開く。





 うわぁ――――――――。


 ある意味、壮観な景色に茫然とする。




 全身鎧を着た筋骨隆々な女エルフ。

 (耳でかろうじてエルフと分かる……)


 華美なローブを着た美しい男ドワーフ。

 (ずんぐりむっくりなのに顔が芸術品のように整ってる……)


 半裸状態でちょこまかと動き回る竜人。

 (キャハハなどと奇声をあげてる……)


 女をはべらせ、ゲハゲハと笑うホビット。

 (なんて邪悪な顔……)




 ずいぶんあたしのイメージと違うな……。


 じーちゃんが言ってた「人も制度も変わった」ってやつはこのことかぁ。




 ま、とりあえず見なかった事にして、さっさと冒険者登録しちゃおうっと。



「あのー、すいませーん」



「わたくし、冒険者ギルド王都本部受付担当のミリアと申します。 本日はどのようなご用件でしょうか?」



 うわー、出来る人って感じ。



「冒険者登録をしたいのですが」



「ご新規の方ですね? ではまず、こちらの用紙にお名前を頂けますか?」



 ヤバ……。

 あたし字書けない……。


 森での生活では文字なんて必要なかったし、じーちゃんも教えてくれなかったんだよね……。



「あの……恥ずかしながら、私、文字が書けないんです……」



「あら、それは困りましたね……」



 …………。



 …………。



 …………。



 …………。



「あの……こういう場合、代筆とかしてもらえないのでしょうか?」



「そのようなサービスは一切行っておりません」




 …………。



 …………。



 …………。



 …………。




「えっと……どうしたら……いいのかなーなんて……」



「本を読むなり、学校に行くなりすれば宜しいかと」




 …………。






 ―――――2日後。





「あの…冒険者登録したいのですが」



「あぁ、アナタまた来たの」



「名前くらいなら書けるようになったので……」



「ではこちらの紙に名前をお書き下さい」



 拙いながらも自分の名前を書いて提出する。 本屋で『やさしい公用語』を立ち読みし続けた甲斐があるというものだ(涙)



「ではまず冒険者ランクのご説明からさせて頂きますね。 冒険者ランクは『S』『V』『P5』『MOB』『.exe』『RH-』『残念賞』という順に7つのクラスがありまして「ちょっ、ちょっと待って!」あなたは当……」



「なんでしょう?」



「普通、Fから順にF、E、D、C、B、A、S、SSって感じなんじゃないの!?」



「昔はそうでしたが今は違います。 では続けます」



 うわー、素っ気なーい。




「『S』『V』『P5』『MOB』『.exe』『RH-』『残念賞』と順に7つのクラスがありまして、あなたは当然Sランクからとなります」



 何か急に強くなった気がするゎー。



「ランクアップの条件は依頼の遂行数も多少影響しますが、主な要因はギルドへの袖の下、いわゆる賄賂ですね」



 黒っ!!



「高ランクになると高い報酬の依頼を受けることも出来ますし、『残念賞』クラスになればみんなチヤホヤしてくれます」



 みんなって誰?

 チヤホヤされるだけ?



「依頼の受け方ですが、あちらに掲示板があるのが見えますか? そうですか、視力いいんですね」




 …………。




「ああ、話がそれました。 依頼の受け方ですが基本、大声で私たち担当者に『魔獣の討伐したーい!』なり、『要人警護したーい!』とか言って下さい。 要望に合わせてリストをお渡しします」




 …………さっきの掲示板関係ないの?




「また、魔獣討伐時の証明ですが、殺した魔獣を持って来て下さい。 角や牙なんていくらでも偽造出来てしまうので、討伐証明部位なんてものは存在しませんのであしからず」



 ドラゴンとかも持ってくるの……?

 輸送費だけで赤字になりそうじゃない……



「依頼が失敗した場合は違約金8ママーをギルドに支払うペナルティがありますので、お気をつけ下さい」



 8ママー?



「あの……あたし田舎者でお金の単位が分からないので教えてもらえますか……?」



「そのようなサービスは一切行っておりません」





 ―――――1日後。





「お金の単位、なんとなく覚えてきました……」





 本屋にあった『一般常識(お金編)』をひたすら立ち読みして覚えたが、意味が分からない。


 まず、最小の単位『オロチョン』。

 オロチョンは白銀貨だ。

 

 オロチョン22枚で『エリクソン』1枚。

 エリクソンは銅貨だ。


 エリクソン39枚で『ママー』1枚。

 ママーは鉛貨だ。


 ママー11枚で『ギャランドゥ』1枚。

 ギャランドゥは貝殻だった。



 もうね、意味わかんない。

 あたしのファンタジーの常識が一切通じない。



 ――――――。



「とにかく、違約金については8ママーですので覚えておいて下さい。 では最後になりますが、本人情報の登録を行いますね」



 がさごそと奥から紙オムツのようなものを取り出すミリアさん。





「こちらを装着して、排尿願います」






 まんま紙オムツ!?






「あ、あの…普通指をナイフで傷つけて、血を水晶に垂らすとかじゃないんですか?」



「…………はぁ?」



 くっ、こいつ……。



「わ、分かりました……トイレ行ってきます」



「駄目です、不正行為が行われないようギルド職員の目の前で排尿して頂きます」



「はぁ!? そ、そんな恥ずかしいこと出来る訳ないじゃないですか!」



「決まりですので」



「乙女が人前でオムツ着けて尚且つ、その場で失禁しろってのかー!?」



 (ぶふっ……、失禁だってっ)



「おい、お前今笑ったろ?」



「いえ、笑ってません」



 こいつ……頬がひくひくしてやがる。



「もームカついた。 冒険者ぁ? 糞食らえだ! 帰る! 二度と来るかボケぇ!」







 ――――こうしてルル=ルールルーの冒険は終了した。




じーちゃんと静かに暮らしたとさ。

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