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中学二年生  作者: 多摩屋
中学生編
10/33

第10話

現実と虚構が交錯――。

なんてねー。



 ――――この世には科学では証明出来ない不可思議な事で満ち溢れている。



 神隠ししかり、迷宮入りの殺人事件しかり。


 それら「普通」の人間に手に負えない超常現象を秘密裏に解決する「普通ではない」人間が居る。






 そう、彼だ――――。






 表の顔は公立中学に通うただの中学生。


 身長は157センチ、体重は55キロぐらいのぽっちゃり体型。


 黒髪、黒目の純日本人。


 鼻がやや大きく、目は小さい。


 思春期特有のニキビが頬と額を覆っており、甘めに評価しても下の中あたりとしか言えないビジュアルだ。


 髪の毛は長くもなく、短くもなく、しかし脂ぎっている。



 こうして見ると、どこにでもいる少し暗めで少し不潔な子供にしか見えない。




 しかし、特徴は一致する……。





 ――――俺は知っている。彼の真実を。







 俺の仕事は何の変哲もない新聞配達員。

 今年で26になる。


 毎日をただ自堕落に過ごす俺はやりたいことも無く、アルバイトで食い繋ぐ毎日。


 自他共に認める駄目な大人だ。




 そんな俺がある日、変な夢を見た。

 夢見がちな子供が喜びそうな内容だ。


 絵に描いたような「THE 天国」と呼べる風景に1人立つ俺。


 しばらくすると自称女神が現れ、ある人物を救って欲しいと俺に言う。


 女神曰く、その彼は人智を超越した力を持ち、人類をあらゆる脅威から守っているそうだ。



 しかし、その彼はその強大過ぎる力ゆえに身体がもたないらしい。

 年に1ヶ月程、ただの子供になり、その力を一時的に体外に出さなければならないと。 



 その間、俺にその彼を守って欲しいと。



「守ろうにも俺はただの人間だ、戦う力なんて無い」



 そう伝えると女神は安心させるように微笑み、



「彼の力を一時的に封じている魔法の羊皮紙に触れる事で彼の力の一部があなたに流れ込みます。そしてその資格があるのはこの世界であなただけなのです」


 と俺に使命を与えた。



 更に女神は子供の姿になった「彼」の身体的特徴と彼の真の名前である「飛燕」という名を伝えると霧のように消えてしまった。




 夢から覚めた俺は「何て恥ずかしい夢だ……」とひとしきり布団の上で悶えつつ、目覚ましの時間を見て飛び起きた。


 速攻で着替えを済まし、職場へダッシュ。



 何とか遅刻は免れ、夕礼を終えた俺は夕刊の配達に向かうと、配達ルート上にある一軒家から姉弟喧嘩らしき声が聞こえてきた。



 内容までは聞こえて来なかったが、何となく姉が弟を苛めている感じに聞こえる。



「平和だなー」なんてぼんやり空を見上げるとその一軒家の窓から広告のチラシが数枚、ひらひらと落ちてきた。



 新聞配達員である俺は「けしからん」と散らばったチラシを拾い集め、文句を言おうとその一軒家の呼び鈴を押そうとした時、目に飛び込んできた文字に驚愕した。



「……ようひし?」



 右手に握られたチラシには汚い字で『羊皮紙』と書かれており、そのすぐ下には『飛燕』の文字が。





 その瞬間、身体中からゾワゾワと鳥肌が立つ。






 な、なんだこりゃあ!?






 風邪を引いた訳でもないのに震えが止まらない。 チラシから異質な何かが流れ込んでくるような……。


 得も言われぬ高揚感に包まれ、意識が遠のいていく。







 ――――――。








「…………ぶ…か!?」



「だいじ……すか!?」



「大丈夫ですか!?」



 うっすらと意識が覚醒してゆく。


 目の前には中学生と思われるブサイクな少年がうつ伏せに倒れている俺を見ており、また玄関の奥から扉を少し開けてこちらの様子を見ている女の子が居た。


 その子も……まあその何だ、一般受けしないだろうマニアックな顔立ちだ。 うん。



 何となく喧嘩していた姉弟なんだろうなと分かった。




「……あの、救急車呼び、ます?」


 びくびくしながら俺に話し掛ける中学生。



 しかしブサイクだなー……。


 凄ぇニキビ面だし、鼻はでかいし、目はちっちぇーし。


 うわっ髪の毛、超テカテカしてる……シャンプーしてんのかよ。



 ――――え?


 何だこの特徴。

 どこかで聞いた覚えがあるぞ……。


 あれ……? 俺はチラシを拾って、そんで文句言いに呼び鈴を押そうとして……。


 たまたま目に入ったチラシの裏側に『羊皮紙』と『飛燕』の文字を見つけて……。




 ――――!?




「お前……もしかして『飛燕』か……?」




 少年の小さな目が驚愕に染まる。




「な、なぜそれを……」



 彼は俺の右手にあるチラシを目にすると、勢い良くチラシをひったくり、「わ、忘れて下さい!!」と逃げるように家の中へ入っていこうとする。




「ま、待て! お、俺は女神にお前を託されたんだ! お前を守れと!」



 なんとも言えない困惑したような、それでいて怯えているかのような顔で俺を見る少年。


 少年は家の中に姿を消し、すっと玄関の扉が閉まる。


 扉の向こうからは女の笑い声が聞こえてくる。



 ……そりゃそうか。


 ただの新聞配達員が女神だの、守るだの言ったところで頭のおかしな変質者扱いされて当然だよな……。




 ――――いや、待てよ。



 あいつ、俺が『飛燕』と呼び掛けた時「な、なぜそれを……」って言ってなかったか!?




 ――――調べてみる必要がありそうだ。



 平凡な毎日に辟易としていた俺に、降って湧いてきた非日常。




 俺の人生が変わるかもしれない。



 



いや、変わんねーし。

勘違いだし。

思い込みも甚だしいし。

名前ねーし。

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