ジニア〜不在の友を想う〜
なんか、短編小説を書いてみたくなったので書いてみました。ただ短編がどういうものかよく分からず書いたので、優しい目で見てくださると嬉しいです。
7月17日
夕陽が差し込んで埃がきらきら光る教室でいつも通り2人で駄弁っていた。
「ねえ、夕花。土曜日って家でお祝いする?もし空いてたら一緒に遊びに行かない?」
「行きたい!お祝いも夕方からだから、午前中は空いてるよ」
くるっとこちらに振り返ってきた彼女は、満面の笑みを浮かべていた。
「じゃあ、どこ行こうか?」
私もつられて笑顔になりながらそう尋ねた。
「そうだなぁ。やっぱり、いつも行ってるカフェに行きたいなぁ」
「いいね。じゃあその日は奢るよ」
「いいの?やったぁ!」
「ふふっ。夕花あそこ好きだもんね」
「うん。何食べようかなぁ」
「この際、胃袋に入るだけ食べたら?」
「私少食だからなぁ」
「じゃあ、私と食べるものわけよ。2人でシェアすれば色々食べられるし」
「いいかも!」
「ふふっ、じゃあ決まり。11時くらいにいつもの場所で」
「うん!あ、このお花、もう元気ないなぁ」
しょんぼりとしながら夕花が教室の隅で花瓶に近づいていく。
「夕花って、ほんとに花好きだよね」
少し肩を落とした彼女の背に向かってそう言った。
「うん!やっぱり名前に花って入ってるから、なんとなく意識しちゃうんだぁ」
少し早口になりながらおっとりと喋る彼女の周りの空気はどこか柔らかく感じた。
「ふっ、じゃあ今日も、なんか花教えてよ」
「いいよぉ。ふふっ、えっと、じゃあ今日の誕生花の百日草かな。えっとね百日草ってすごいカラフルでふわふわしてて綺麗なんだぁ」
花のことを話す夕花は、子供みたいに無邪気だった。
「へぇ、そうなんだ。花言葉ってなんなの?」
「ふふっ、玲奈はほんとに花言葉が好きだね」
「やっぱり知ってると花プレゼントする時とかいいかなって」
「そうだねぇ。百日草の花言葉はね、不在の友を想うと遠い友を想うだよ」
「ふーん、じゃあもし友達が遠く行くってなったら贈ろうかな」
「うんうん!いいと思う!」
「ははっ!急に推し激しい」
「だってだって、花贈るって素敵だもん。いいなぁ、私もお花もらいたいなぁ」
私が座っている机に頬を預けながら、子供みたいにねだっていた。
「ふふ、じゃあ、お花プレゼントするよ。明後日誕生日でしょ?」
「本当!?やったぁ!約束だよ?」
「ふふっ、うん」
「じゃあ、もうそろそろ帰ろっか」
「うん!」
廊下を歩いている時も靴を履き替える時も、彼女は明後日の話をし続けていた。
7月18日
「夕花せーんせ!」
「ふふ、もう、その呼び方やめてよぉ」
少し笑いながらも頬を膨らませてこっちを睨んでいた。
「ははっごめんって」
彼女の怒り顔に思わず笑いが漏れた。
「もう、次はほんとに怒っちゃうからね?」
「はーい」
「それで、どうしたの?」
「今日の花聞こうと思ってさ」
「もちろんいいよ!今日の誕生花ならマリーゴールドかなぁ。すごい可愛らしい見た目してるのに花言葉は少し悲しいんだよ?」
彼女の表情が一気に明るくなった。その様子に、思わず吹き出しそうになりながら、なんとか言葉を紡いだ。
「そうなんだ。なんなの?」
「嫉妬、悲嘆、絶望なんだぁ。もっとあったかい感じの花言葉の方が似合うのに」
「ははっ、それは確かに悲しいな」
「でしょ?!」
「ふふ、うん」
「あ、もう6時!?もう帰らないと!」
「そうなんだ、またね」
「うん、また明日!」
「一ノ瀬さん!廊下は走っちゃダメよ?」
「わ、ご、ごめんなさーい!」
「ふっ」
廊下から聞こえてきた、よく通る彼女の声に思わず吹き出してしまう。
「なんか曇ってきたし、私もそろそろ帰らなきゃ」
(曇りの日にあんな花言葉か、少しやな感じ)
校門を出た時かすかにサイレンの音が聞こえてきた。
7月19日
「夕花、遅いな」
(いつも15分前にはきてるのに)
プルルルル、プルルルル、ぴっ
「あ、もしもし夕花?どうしたの?何かあった?」
「玲奈さん、こんにちは」
(夕花のお母さん?)
「こんにちは。あの夕花大丈夫ですか?」
「っ……」
「あの……」
「……夕花は、昨日亡くなりました」
「え……」
パサッ
手から花束を入れた袋が滑り落ちていた。
「昨日……学校からの、帰り道で、車に、撥ねられたの。……病院で、息を引き取ったわ」
急に、目の前にある花壇の色が褪せた気がした。彼女の母親の声は頭にとどまることなく、形にならずに流れていった。でも言葉は口から勝手に出てきていた。
「そう、だったんですか。お悔やみ申し上げます」
「……あなたもね。夕花と仲良くしてくれて、ありがとう。夕花幸せだったと思うわ」
「どう、なんでしょう」
震えそうになる声でなんとか出した答えは思っていたものとは違っていた。
「……あのね、お葬式なんだけれど、家族だけで見送ることにしたの。だから、あなたは……その」
「っ、大丈夫です。家族の時間を、大切に、してください。それでは、失礼します」
早口になりながらもなんとか言葉を紡いだ。
「えぇ」
ツーツーツー
(もう、予定なくなっちゃったし帰らなきゃな)
「あの!」
「……はい?」
「これ落としてます」
「ああ、ありがとうございます」
花を渡してくれた女性が少し驚きつつも不安そうな顔をしていたので精一杯笑って花を受け取った。息が詰まりそうになりながら、その場をすぐに去った。そして気づいた時には家に帰っていた。どうやって家に辿り着いたかはもう覚えていない。ただ部屋で1人泣き喚いていたのは覚えている。
「夕花……本当は死んでないって言ってよ。いつもみたいに、ほわほわ笑いながら、私に花の話してよ」
7月20日
明かりをつけることもなく、閉じ切ったカーテンの部屋の中で、1人座っていた。時々親が来て何か話していた気がするけれどもう覚えていない。なんとなく布団に移動しようかと思ったけど、めんどくさくてやめた。
「夕花……夕花は……っ」
7月21日
今日彼女のお葬式があったらしい。学校には行けなかった。机に雑に置かれた花をなんとなくそのままにしておきたくなくて花瓶に挿した。コレオプシスは少し枯れていた。
7月22日
今日も学校に行かず家にいることにした。今日の花を夕花から聞く代わりに自分で調べた。ふと、彼女とのメッセージ画面を開いていた。メッセージを辿っていくうちに画面に水滴がぽつりぽつりと落ちてきた。その途端に耳をつんざくほどの蝉の声と道路を走り去る車の音が、目に痛いほどの夕陽の色が溢れてきた。
「う、あ……っ、うああああ」
呼吸ができなくて、息が苦しくなって、でも泣いて、なんで泣いているのかさえわからなくなって。そして、急に眠たくなって。ぼんやりしている中、ふと夕花に会いたくなった。だから彼女の家族に連絡してお墓に行かせてもらうことにした。それからフラワーショップに行った。カーネーションとムギワラギクを買うために。久しぶりの日光があたたかかった。
7月23日
早朝の墓地は、どこか美しかった。そっと、夕花のお墓の前にしゃがみ込む。
「……ねえ、夕花。誕生日、一緒に祝いたかったな。生きてて欲しかった。……なんで、夕花があの日教えてくれたのマリーゴールドだったんだろうね。ほんとに、神様って、ひどいよ……」
墓石は鈍く異質で、朝日に照らされていた。
「私ね、花、自分で調べたんだよ?それで白のカーネーションとムギワラギクなら、お供えとして持ってきてもいいかなって思って。本当はさ、もっとカラフルなものとか明るい花言葉の花が良かったけど、でも……夕花、死んじゃってすぐだからさ…………っ」
唇を噛んで下を向き必死に泣くのを我慢する。
「……ねえ、夕花?……私、学校行きたくなかったんだ。でも私、夕花と一緒に前に進むよ。あのさ、四十九日に、百日草、供えにきてもいいかな?……いいって言われなくてもくるけどね……」
墓石に軽く手を乗せて目を閉じた。
「夕花……またね」
鼻を突き抜けるようなひんやりとした空気が肺を満たした。とても冷たい朝だった。
「また、会おうね」
空を見上げてそんなことをポツリと呟いた。




