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【第8話】 減る音がする


怖い。


理由は分からへんけど、

とにかく怖い。


目の前に座ってる相手は、

何もしてへん。


スマホも触らへん。

画面も見いひん。


それが一番、怖い。


(なんで動かずにおれるねん……)


ユウタは、

自分のスマホを膝の上に置いたまま、

一切触れずに固まっていた。


(見たら減る)

(触ったら減る)


——分かってる。


分かってるのに、

手が震える。


(もう……帰りたい)


相手が、あくびをする。


「まだ?」


その一言で、

心臓が跳ねた。


(今ので減った気する……)


根拠はない。

でも、確実に減った気がした。


(無理無理無理……)


ユウタは、

耐えきれずスマホをチラッと見る。


数字は見えない。


でも、

“余裕じゃない色”になってる。


(うそやろ……)


息が、浅くなる。


相手が、それを見て

少しだけ口角を上げた。


「あー……見ちゃった?」


その瞬間、

ズン、と何かが落ちる感覚。


(終わった……)


ユウタは、

机の端をギュッと掴む。


(僕、やっぱ向いてへん)

(こういうの、無理や)


逃げたい。

謝りたい。

負けでいいから早く終わらせたい。


その時。


ふと、

別の光景が浮かんだ。


——スマホキャッチ。


皆が固まって、

誰も動けへん中。


一人だけ、


「余裕やろ」


って、

意味わからん顔で笑ってた奴。


(……なんで笑えてたんやろ)


(あいつ、絶対何も考えてへんよな)


なのに。


あの時、

なぜか一番落ち着いて見えた。


(……僕は)


(今、めっちゃビビってる)


ユウタは、

そっとスマホを伏せた。


数字を見ない。


減ってるかどうかも、

もう知らん。


(あいつなら……)


(「減ってもええんちゃうん?」って言いそうやな)


相手が、

少しイラついた声を出す。


「……まだやる?」


ユウタは、

小さく頷いた。


声は出ない。


喉が、カラカラや。


時間が、重たい。


(お願い……)


(先に見てくれ)


相手の指が、

無意識にスマホへ伸びる。


——ピロン。


小さな音。


相手の顔が、

一瞬で青くなる。


「……っ」


ユウタは、

まだ画面を見てない。


でも、

分かった。


(あ……)


(終わったん、あっちや)


結果表示。


勝ち。


ユウタは、

その場にへたり込みそうになる。


膝が、笑ってる。


(怖かった……)


(ほんま、怖かった……)


でも。


立ち上がる時、

またあのアホの顔が浮かんだ。


意味もなく笑ってる、

あの感じ。


(……ちょっとだけ)


(ちょっとだけ、真似できたかもな)


ユウタは、

誰にも聞こえん声で呟いた。


「……ありがとう」


誰に言ったかは、

自分でも分からへんかった。


続く


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