【66話】レッテル
「今日は、皿洗いで」
店長は、
俺の顔も見ずに言った。
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シンク。
山。
皿。
コップ。
油。
(……さぁ、やろか)
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一枚目。
手が滑る。
ガシャン。
音が、
店に広がる。
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店長が、
ちらっとこっちを見る。
一瞬。
ほんの一瞬。
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(……あ)
(今の顔)
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「あー……」
「まぁ、気ぃつけて」
口調は、
軽い。
でも。
目が、
冷たい。
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(あ、こいつ使えん奴や)
そう言われた気がした。
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次。
「早くして」
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次。
「まだ?」
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次。
「君、あんま向いてなさそうやな」
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(……は?)
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胸の奥が、
ざわっとする。
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(俺が悪いん?)
(まだ二日目やぞ?)
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手が、
雑になる。
水が跳ねる。
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「ほら、もっと早く」
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(なんやねんコイツ)
(絶対モンスターくっついとるやろ)
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目を凝らす。
店長の足元。
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……何もない。
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(……あれ?)
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背中が、
ぞわっとする。
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嫌な予感。
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俺は、
ゆっくり視線を下げた。
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自分の足元。
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いた。
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小さい。
黒い。
札みたいな形。
額に、
文字。
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【使えない】
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目が合う。
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(……うそやろ)
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トイレ。
個室。
鍵。
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スマホを出す。
QR。
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ピッ。
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表示。
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モンスター名
【使えないレッテル】
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説明。
——一度貼られると、
——人に認められるまで、
——何をしても
——「使えない」に見える。
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喉が、
乾く。
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(……俺)
(いつから貼っとった?)
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外から、
「早く戻ってー」
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声。
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俺は、
スマホをしまった。
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鏡を見る。
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制服。
濡れた前髪。
疲れた顔。
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(……)
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モンスターは、
まだいる。
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逃げない。
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俺の足元で、
じっと見ている。
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バイトが終わる、
夜。
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足が、
重い。
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帰り道。
トボトボ歩く
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気づいたら、
河原に向かってた。
理由は分からん。
ただ——
いた。
カツヤ。
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相変わらず、そこにおる。
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缶コーヒー。
笑。
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「……カツヤさ〜ん」
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声に出した瞬間、
情けなくなる。
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「なんとかなりませんか?」
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カツヤ、
俺の足元を見る。
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「あー……」
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「派手に貼られとるなぁ」
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俺は、
ちょっとだけ足を引いた。
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「ん〜」
カツヤ、
顎に手を当てる。
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「なんとかは」
「できなくはないけどなぁ」
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間。
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「やっぱ」
「タダでは無理やろ」
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俺、少し考えてから言う。
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「……異世界バーガー」
「奢るとかじゃ、ダメですか?」
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即答。
「無理」
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「お前、バーガー1個で」
「仕事、攻略できるとおもとん?」
「てかお前ポイントないやんけ笑」
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「……ですよね」
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肩が、
落ちる。
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「でも」
「他に俺」
「できる事なんか、なくて」
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カツヤ、
少し考える。
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「……まぁ」
「せやなぁ」
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「前はワンやったし」
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ニヤっと
「次は」
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「アイツしかないやろ」
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沈黙。
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「……魔王」
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「……え?」
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「いや」
「それだけは」
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言い切る前に、
遮られる。
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「でもな」
「その代わり」
「俺が、
「完璧に、
「仕事できるように」
「教えたる」
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「魔王も」
「倒すんちゃうやろ?」
「QRコード」
「パシャやん?」笑
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「いやいや」
「そのパシャは」
「命かかっとるパシャやねんって!!」
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カツヤ、
肩をすくめる。
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「でもお前」
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「RINAとYUTA」
「助けるんやろ?」
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「どっちみち」
「通る道やんけ」
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俺、
黙る。
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「まぁでも」
カツヤが続ける。
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「別に、今すぐ魔王取ってこい」
とは言わん。
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「まず」
「そのレッテル、外したる」
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「その代わり」
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「外れた瞬間、バイト辞めろ」
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「そっから、魔王や」
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「どうよ?」
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「……それは」
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「ちょっと……」
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カツヤ、
一歩近づく。
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「そんなレッテルも、外されへん奴が」
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「この先、異世界いけるかよ」
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胸に、刺さる。
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「……分かった」
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スマホが、
震える。
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ピロン。
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《交換条件が成立しました》
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条件
【使えないレッテルを外す】
報酬
【魔王のQRコード】
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カツヤ、
満足そうに笑う。
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「よーっし」
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「じゃあ」
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「レッスン1や」
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「ファミレス行くぞ」
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「奢れ」
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「……え?」
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——つづく。




