【65話】現実
夜。
河原。
缶コーヒー。
カツヤは、
いつもの顔で立っていた。
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「……で?」
「最近、なにしとんねん」
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俺は、
少しだけ考えてから言った。
「現実世界でさ」
「モンスター倒してる」
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カツヤ、
一瞬だけ黙る。
笑うでもなく、
驚くでもなく。
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「……は?」
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横断歩道。
コンビニ。
自販機。
並ぶ人。
イライラ。
空気。
俺は、
順番に話した。
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「ポイントは?」
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「……出ぇへん」
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カツヤ、
ため息。
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「やろうな」
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少しだけ間を置いて、
続ける。
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「お前ほんま意味ない事するん
好きやなぁ」
「たかがそんなモンスター何匹か狩っただけで」
「この世界は優しくならんで?」
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「結局、助けた奴らも」
「また同じ事、繰り返す」
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「そんなん」
「お前も、分かっとるやろ」
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俺は、
肩をすくめた。
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「……まぁ」
「そうかもな」
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少しだけ考えてから、
「でもさ」
「なんもせんより、マシやろ?」
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カツヤ、
鼻で笑う。
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「まぁ」
「そりゃそうかもなぁ」
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間。
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「てかさ」
カツヤが言う。
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「そんな事より」
「お前、そろそろ働いたら?」
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「ニートやろ?」
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「偽善者ごっこしとる時間あるなら」
「バイトでも行ってこいよ」
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ぐっさァ
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音はしない。
でも、
確実に刺さった。
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俺は、
何も言わなかった。
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「……じゃあな」
カツヤは、
そう言って缶を捨てた。
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「異世界でも、現実でも何もできてない
奴が、誰か救えると思う?」
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それだけ言って、
去っていった。
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(お前の言葉なんか全然刺さってないからな!!)
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翌日。
求人サイト。
条件、
どうでもいい。
近い。
すぐ入れる。
それだけ。
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ファミレス。
面接は、
五分。
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「いつから入れます?」
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「……明日から」
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「助かります」
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それだけ。
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初日。
制服。
サイズが、
合ってない。
鏡を見る。
(……誰やこれ)
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「とりあえず、皿下げて」
店長は、
それだけ言った。
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ホール。
音。
皿。
声。
子ども。
ため息。
全部、
一気に来る。
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「すみませーん」
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(……待って)
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手を伸ばす。
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「まだ食べてるんですけど」
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「あ、すみません」
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胸が、
きゅっとなる。
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次。
「呼んでますよ?」
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「すみません」
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(……あ)
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足元。
影。
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照明のせい。
そう思いたかった。
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でも。
動いた。
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忙しい時間。
余裕が、
なくなる。
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「遅いな」
「まだ?」
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小さい声。
でも、
ちゃんと刺さる。
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影が、
濃くなる。
俺の足元で。
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(……俺が?)
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皿を持つ。
重い。
思ったより、
ずっと。
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客の足元。
別の影。
俺の影と、
少し重なる。
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(……滲んでる)
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閉店。
床を拭く。
跡は、
全部同じになる。
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外に出る。
夜。
軽くない。
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スマホを見る。
通知、なし。
ポイント、なし。
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「……」
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それでも。
明日も、
シフトは入っている。
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——つづく。




