【64話】 並び
夕方
コンビニ。
レジ待ち
やたらと混んでる。
空気が、重い。
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俺の後ろ。
おじさん。
貧乏ゆすり。
足が、
小刻みに揺れている。
カゴの中身は、
缶ビール一本。
それだけ。
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(……)
足元を見る。
影。
揺れている。
いや——
揺らしている。
おじさんの足じゃない。
足の“下”。
(あ)
(こんなとこにもおるんか)
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モンスターは、
小さい。
派手な形もない。
ただ、
イライラを増幅させる。
吸うのは、
ポイントじゃない。
余裕。
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レジが、
ひとつ空く。
俺が先に呼ばれる。
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(……)
(どう倒そか)
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俺は、
一歩前に出た。
「おっちゃん」
声をかける。
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「こっち空いてるで」
「先、どうぞ」
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おじさん、
ポカーン。
「え、ええんか?」
「ちょっと急いでてん」
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「えーっすよ」
「俺、急いでないんで」
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。
おじさんの足が、
止まる。
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「ありがとうなぁ〜」
笑顔。
貧乏ゆすり、
完全に消えた。
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その瞬間。
足元の影が、
しゅわぁ……と薄くなる。
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おじさんは、
何も知らない。
ただ、
普通に会計して出ていった。
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俺は、
最後にレジに立つ。
いつも通り。
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スマホを見る。
通知、なし。
ポイント、なし。
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「……」
「まぁ、ええか」
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外に出る。
風当たりが、
ちょっと軽い。
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(倒した……よな?)
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誰も、
拍手しない。
誰も、
褒めない。
でも。
確実に一体、消えた。
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俺は、
何もなかった顔で歩き出す。
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コンビニを出て、
少し歩いたところ。
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自販機。
前に、
高校生が二人。
片方が、
小銭を落とした。
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「……あ」
小さく声が出る。
拾おうとして、
でも手が止まる。
後ろのやつが、
ため息をつく。
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「はよせえよ」
小声。
でも、
ちゃんと刺さる。
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足元。
影。
今度は、
細い。
糸みたいに伸びて、
二人の間を繋いでいる。
(……あぁ)
(これも、か)
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増幅させる、
苛立ち。
「早くしろ」
「空気読め」
その間に生まれる、
一瞬のトゲ。
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俺は、
何も考えずに口を出した。
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「そこ、落ちてますよ」
指差す。
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高校生、
一瞬きょとんとして、
「あ、あざっす」
拾う。
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後ろのやつも、
気まずそうに目を逸らす。
「……すいません」
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その瞬間。
糸みたいな影が、
ぷつん、と切れた。
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影は、
消えた。
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二人は、
何事もなかったみたいに
ジュースを買って、
去っていく。
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俺は、
その場に残る。
スマホを見る。
通知、なし。
ポイント、なし。
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「……やっぱ、出ぇへんか」
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でも。
空気は、
さっきより軽い。
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(……二体目やな)
〜つづく〜




