【62話3章ラスト】普通
プチュン。
目の前が、真っ暗になった。
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気づいたら、
ログアウトしていた。
いつものパチンコ屋の前。
夕方の風。
ネオン。
人の声。
——オッサンはいない。
まぁ、分かってはいた。
それでも、
少しだけ周りを見てしまった。
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スマホを見る。
【武器セレクト】
・プッシュボタン
・壊れたスマホ
少し、悩む。
……いや、
そんなに悩まなかった。
壊れたスマホを選択。
「おっさん、ありがとうな」
「でも、これはいらんわ」
ちょっと笑って、
画面を閉じた。
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「よし」
「今日も行くで」
「運動しに」
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異世界に到着。
空は低く、
地面は硬い。
……でも。
前より、
少しだけ落ち着いていた。
(俺、ちょっと強くなったよな)
そう思った。
思っただけやけど。
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モンスターが出る。
避ける。
かわす。
QRコードを探す。
……見つからない。
相変わらず、
全然うまくいかない。
ポイントも増えない。
倒せもしない。
でも。
死なない。
それだけは、
確かだった。
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遠くで、
気配がした。
——嫌な感じ。
思い出す。
ナイフ。
笑顔。
プチュン。
身体が、
一瞬だけ固まる。
「……」
深呼吸。
(今日は、やめとこ)
逃げる。
全力で。
恥も、
作戦も、
理由もない。
ただ、
帰る。
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ログアウト。
また、
パチンコ屋の前。
さっきより、
空が暗くなっていた。
人は、
相変わらず多い。
皆、
普通に歩いている。
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(勝ってない)
(何も変わってない)
(でも)
(ちゃんと、戻ってきた)
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ポケットの中で、
スマホが重い。
プッシュボタンは、
ない。
それでいい。
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「……腹減ったな」
そう呟いて、
歩き出す。
今日も、
普通の日だった。
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……そのはずだった。
歩きながら、
ふと足を止める。
横断歩道の前。
信号は、青。
でも。
——一瞬だけ。
空気が、
止まった気がした。
音が消えたわけでもない。
光が歪んだわけでもない。
ただ、
ほんの一瞬。
“待たされた”感覚。
次の瞬間には、
車が走り出し、
人の流れも戻る。
誰も、
気づいていない。
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「……」
俺は、
何も言わずに歩き出した。
(気のせいや)
(そういうことにしとこ)
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ポケットの中で、
スマホが微かに震えた。
通知は、ない。
画面も、真っ暗。
それでも——
なぜか、
視線だけが外せなかった。
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今日も、
普通の日だった。
——そう思おうとした。
⸻
3章・修行編 完
次章:現実滲み編 開幕




