【59話】運動その2
最近の日課。
夕方になると、
パチンコ屋の前でオッサンを待つ。
だいたい同じ時間。
だいたい同じ場所。
少し遅れて、
少し勝って、
少し負けて。
「よっ」
それだけ言って、
そのまま一緒に歩く。
⸻
「ほな、食後の運動な」
その一言で、
異世界に飛ぶ。
もう何度目か分からない。
相変わらず、
オッサンは攻撃を受ける。
相変わらず、
俺は逃げる。
たまに避ける。
オッサンが倒す。
3体。
多くて4体。
それ以上はやらない。
「今日はここまでやな」
そう言って、
現実世界に戻る。
⸻
そんな日々が、
しばらく続いた。
正直、
強くなった実感はない。
でも——
死んでない。
それだけは確かだった。
⸻
ある日。
異世界から戻ったあと、
パチンコ屋の裏で缶コーヒーを飲みながら、
俺は聞いた。
「なぁ」
「そろそろ教えてくれへん?」
オッサンは、
缶を振りながら言う。
「なにを?」
「オッサンの能力」
少し間。
「……あぁ」
「俺のな」
オッサンは、
少し考える素振りをした。
「俺のは、
武器ちゃうからなぁ」
「は?」
「まぁでも、
教えたるわ」
オッサンは笑う。
「8192や」
「……は?」
「8192分の1でな」
「ちょっとだけ、
世界が固まる」
「一瞬な」
⸻
俺は眉をひそめた。
「それって……
使える能力なん?」
オッサンは肩をすくめる。
「基本、使えんな」
「え?」
「せやから俺、
めっちゃ連打する」
「敵の攻撃が来るまでに、
だいたい1万回は押しとるで」
「……あほちゃうん?」
「まぁな」
「でもな」
「長押しでもええねんけどな」
「余計意味分からんわ!!」
⸻
「じゃあ何で、
毎回そんな喰らっとるん?」
俺が言うと、
オッサンは少しだけ笑った。
「そら、
来ん時は来んからな」
「ほとんど外れる」
「だから毎回、
普通に殴られる」
「死ぬか生きるかの時に、
何しとんねん……」
「男らしいやろ?」
「どこがやねん」
⸻
少し沈黙。
風の音。
パチンコ屋の換気音。
オッサンは、
遠くを見ながら言った。
「固まるかどうか、
期待して動くと」
「何もできん」
「せやから」
「固まらん前提で、
どう生き残るかだけ考えとる」
俺は、
何も言えなかった。
確かに。
止まるかもしれない一瞬を
待っていたら、
何もできない。
「……それ、運動なん?」
俺が聞くと、
オッサンは即答した。
「せやで」
「生き残る練習や」
⸻
その日も、
また夕方になったら
パチンコ屋の前で待つと思う。
オッサンが出てきて、
「よっ」って言って。
また、
運動に行く。
たぶん明日も。
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正直、
俺はまだ弱い。
でも。
このオッサンとなら、
異世界に行ける気がした。
理由は、
よく分からん。
ただ——
なんとなく。
⸻
——つづく。




