【58話】 運動
「ほな、運動しよか」
その一言で、
俺は異世界に連れてこられた。
正直——
めちゃくちゃ不安だった。
1000円泣きつきおじさんと
異世界に来る未来、
想像したことなかった。
でも。
スマロバ経験者ではある。
それに——
なぜか、
妙な安心感もある。
……気がするだけかもしれんけど。
⸻
ログインと同時に、
オッサンはスマホを操作した。
ピッ。
景色が、切り替わる。
見たことのない場所。
地形は荒れていて、
どこから敵が来るか分からない。
空気が、殺伐としている。
サンダルが、
じょりじょりと地面を踏みしめる音だけが響く。
「……なぁオッサン」
「ほんまに大丈夫なん?」
オッサンは振り向かず、笑った。
「まぁまぁ。
なんとかなるから」
「いや、それが一番信用ならんねんけど」
⸻
「お?」
「来るぞ、来るぞー」
次の瞬間。
ガバァッと、
地面が盛り上がった。
中堅クラスのモンスター。
「うわ、出た!!」
⸻
オッサンは、
スマホを取り出した。
……いや、
取り出したというより、
連打している。
異様な速さで、
指だけが見えない。
でも——
オッサンは動かない。
モンスターが、
どんどん距離を詰めてくる。
「いや、避けろや!!」
腕が振りかぶられた。
ドンッ!!
オッサン、
思いっきり吹っ飛ばされた。
⸻
「いや全然あかんやん!!」
俺は口をあんぐり開けた。
「大丈夫か、オッサン!!」
地面に転がりながら、
オッサンは言う。
「……ぅお。
いってぇ」
「なかなか、やるな」
「感想そこ!?」
⸻
モンスターが、
さらに突っ込んでくる。
俺は反射的に、
オッサンの前に出ようとした。
「オッサン!!」
「いや、大丈夫やって」
オッサンは立ち上がらず、
まだスマホを連打している。
「絶対大丈夫ちゃうやろ!!」
⸻
攻撃が、当たる——
その瞬間。
オッサンのスマホが、光った。
一瞬。
本当に一瞬だけ。
モンスターが、止まった。
「……え?」
⸻
オッサンは、
何気ない動きで立ち上がり、
パンチ。
ただのパンチ。
一撃で、
モンスターが崩れ落ちた。
霧になる。
⸻
「……え?」
俺は、
完全にフリーズしていた。
「なにが起きたん?」
オッサンは、
腕をぶらぶらさせながら言う。
「いや、だから」
「運動やって」
「説明放棄すな!!」
⸻
「お前、強くなりたいんやろ?」
「……まぁ、はい」
「ほな次、やってみ」
「いやいやいや!!」
「危なかったら、多分助けるから」
「そこは100%助けるって言うとこちゃいます!?」
「100%なんかないわ。
あほか」
⸻
「……ほら、次来たで」
もう一体。
さっきより、
少しだけ弱そうなモンスター。
⸻
(俺の武器は、QRコード)
(写真撮らなアカン)
カメラを構える。
——無理。
近い。
速い。
「うわ無理!!」
逃げる。
走る。
後ろを見る。
「やっぱ無理ーー!!
助けてくださーーい!!」
⸻
オッサンは頭をぽりぽり掻いた。
「お前なぁ」
「逃げたら、
そら倒せんやろ〜」
「よし、そのまま
こっちまで逃げてこーい」
またスマホ連打。
また攻撃を喰らう。
「いやめっちゃ喰らうやん!!」
「どないなっとんねん!!」
オッサンは笑う。
「いや、これはな」
「癖や」
⸻
そのまま、
オッサンが蹴りを入れる。
一撃。
モンスター消滅。
⸻
「お前、ちょっと構えてみ」
「そうそう」
「パンチな」
「いや、もっと力入れて」
「フン!!って感じや」
「いや、もっとや!!
フン!!や!!」
⸻
(……この人)
(強いけど、
完全に教える気ない)
(普通にミスったら、
俺死ぬやつや)
⸻
(よし)
(オッサンのパンチは忘れよ)
(俺は、俺のできることをやる)
(敵の攻撃は避ける)
(でも——)
(寸前まで、
QRコード取れるように粘る)
⸻
モンスターが、
こちらを向いた。
来る。
俺は、
スマホを構えた。
——つづく。




