【57話】普通の話2
温泉の帰り道。
少しだけ、街が騒がしかった。
電話しながら歩くスーツの男。
買い物袋を提げた主婦。
楽しそうに笑いながら歩く学生。
「……ええなぁ」
なんか、
めっちゃ普通っぽい。
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その横で。
パチンコ屋の前に、
泣き崩れてるおじさんがいた。
「あーー!!
くっそぉぉぉ!!」
……。
まぁ、
こういうちょっと普通じゃない人も、
おるよな。
そう思いながら、
横を通り過ぎようとした、その時。
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「にぃちゃん!!」
呼ばれた。
嫌な予感。
「ちょっと1000円貸して!!」
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「……いや、
あの、僕もお金なくて」
「いや知らんがな!!
1000円あるんか!?ないんか!?」
(うわ、やばいおっさんや)
「……1000円は持ってますけど、
貸したくないです」
正直に言った。
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「なんでや!!
あるんやろ!?貸してくれよ!!」
「あと1000円あればいけるんや!!
確実に!!
……いや、ほぼ!!
多分!!」
(自信なくなってるやん)
「いや、無理です。
ごめんなさい」
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「ええんやなぁ……」
おじさんが、
じっと俺を見る。
「そんなん言うんやったら……
押してまうからなー!!」
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おじさんは、
おもむろにスマホを取り出した。
画面を、
ポチッ。
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シュッ。
一瞬で、
おじさんの手に
1000円札が現れた。
ドキッとした。
……まさか。
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おじさんは、
その1000円を握りしめて、
こっちをチラッと見てから——
ニコニコしながら、
パチンコ屋に戻っていった。
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嫌な予感がして、
恐る恐る財布を開く。
……ない。
俺の所持金
1520円のうちの
1000円札が。
「……あいつ」
「やりやがったな」
しかも。
「スマロバ経験者かよ……」
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文句の一つでも言ってやろうと、
パチンコ屋の入り口で待った。
……待った。
……待った。
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気づけば、
4時間くらい経っていた。
ようやく。
おじさんが、
パチンコ屋から出てきた。
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手には——
万札の束。
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おじさんは俺を見つけると、
ぱっと笑った。
「あー!!
さっきのにぃちゃん!!」
「ありがとなぁ!!」
そう言って、
1万円を差し出してきた。
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……。
怒る気、
一瞬で消えた。
むしろ、
めっちゃ感謝した。
このおじさんの引きに。
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「よっし!!」
「ほな飯いこか!!
寿司!!
もちろん奢りやで!!」
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「いや、
もうこんなにもらったんで
僕は大丈夫です」
「まぁまぁ、
そう言うなってぇ」
「人生一度きりやからなぁ」
強引に、
連れて行かれた。
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馴染みらしい寿司屋。
大将に、
次々と注文を入れていくおじさん。
さっきまで
1000円貸してって
泣いてた人とは、
とても思えない。
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「ご馳走様でした」
のれんをくぐると、
もう深夜だった。
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「さぁ次はどこ行く?」
「おねーちゃんおる所、行くか?」
「え、
まだ行くんですか?」
「当たり前やろ!!」
「今日は今日しかないねんぞ!!」
「……いや、
そのままやんけ」
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「よーし!!
今日は朝まで飲むぞー!!」
「いぇーい!!」
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二人して、
朝まで遊んだ。
財布の中身は、
仲良く旅立っていった。
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明け方。
並んで、
用を足す。
妙な安心感があった。
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「てか……」
「スマロバ、
やってるんですよね?」
恐る恐る聞いた。
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「あー」
「なんか、
やっとるなぁ」
それだけ。
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おじさんは、
空を見上げて言った。
「なぁ」
「おならする時、どっちにケツ向ける?」
「俺は右に向けるで?」
.....
「俺は左ですね」
.....
「そうかぁ〜
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なんでそんな事聞くのか
意味は、
よく分からなかった。
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「よう飲んだし」
「ちょっと運動しにいこか?」
「……運動?」
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おじさんは、
ニヤッと笑った。
「せや」
「ワシな」
「そっちの方が、
得意やねん」
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空が、
少しだけ明るくなっていた。




