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【44話】 勇者で半分

「無理無理」


俺は即答した。

説明を聞く前から、もう無理やと思った。


「いや、だからさ」

カツヤが肩をすくめる。



________


「ちなみにどんな奴なん?」

そう聞いた瞬間、カツヤはちょっとだけ考える素振りをして、


「ん〜説明するよりさ、

 一回近くまで行った方が早いわ」


そう言って、スマホを取り出した。


地図アプリ。

現在地。

指が画面をタップする。


1《ワン》のすみか


俺の時は歩いて行った。

時間もかかった。

なのに——


カツヤが押した瞬間、

世界が、切り替わった。


笑う暇もなかった。



空が、赤黒い。

雲が低く垂れ込めて、

雷が、どこかで鳴っている。


音は遠いのに、

胸の奥だけが震える。


明らかに分かる。

強いボスの前兆。


その荒野の入口に、

ひとつだけ立っている、無機質な看板。


ここから5キロ

ワンの領域


「……5キロ?」


思わず首を傾げる。


「5キロって、何?」


カツヤはあっさり言った。


「ワンの怖さはな、

 5キロ先から来るねん」


「は?」


「勇者が進めたんは……

 んー、たしか半分ぐらいやって言ってたかな」


嫌な情報しか出てこない。


「おまえ、ちょっと入ってみ」


軽く背中を押された。


「おい——」


足が、半歩。

領域の中に入った瞬間、


胃の奥が、ひっくり返った。


寒気。

吐き気。

理由のない悪感。


視界が一瞬、歪む。



——無理。


反射的に、足を引き戻した。


「な?」


カツヤが言う。


「もう、ここからやねん」


「……怖い」


声が、自分のものじゃないみたいやった。


「ハハ」

俺は乾いた笑いを出す。


「見えてもないのに?

 そんな規格外、ある?」


一、二歩、後ろに下がる。


そしてそのまま、

見境なく土下座した。


「すんません!

 勘弁してください!

 これは無理です!」


頭が地面に当たる。


「QRコード取りたいですけど、

 かなり近づかな取れへんし、

 全然無理やー!」


顔を上げる。


「てか、勇者で半分やのに、

 俺が行ける訳ないやろ!

 物理的に!」


カツヤは顎に手を当てた。


「ん〜……

 それは確かに、そうやなぁ〜」


少し考えて、


「あ」


急に声を上げる。


「そうや。

 押してダメなら、引いてみたらえーんちゃう?」


「は?」


「ここから挑発してさ、

 向こうに来てもらったらえーやん(笑)」


「いやいや!」

思わず立ち上がる。


「それ普通に俺、

 そのまま殺されるやん!」


「そこは安心してええで」

カツヤは軽い。


「基本な、ワンは最強やから、

 自分から攻撃してこーへんらしい」


「……らしい?」


「噂やけどな」


嫌な沈黙。


「でも挑発したらさ?」

俺は食い下がる。

「それは攻撃してくるんちゃうの?」


「ん〜」

カツヤは笑った。


「それは、分からん(笑)」


そしてスマホを操作しながら、


「まぁ、これ契約やからさ?」


画面が暗くなる。


「ほな、俺ログアウトしとくわ」


「え?」


「よろしく〜」


カツヤの姿が消えた。


赤黒い空の下、

5キロ先の恐怖だけが、

こちらを向いている。


——まだ、何も見えていないのに。


つづく


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