【41話】 ぷるん
異世界の、
深い森。
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枯葉が積もっている。
湿っていて、
柔らかい。
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その中で、
少しだけ、
ほんわりと光るものがあった。
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——涙だった。
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正確には、
枯葉の奥。
彼の目に、
大量の涙が溜まっていた。
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「……っっくそ濃いわ!!」
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声が震える。
怒りなのか、
悔しさなのか、
自分でも分からない。
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「誰が倒せるねん!!」
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拳を、
枯葉に叩きつける。
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「アホか!!」
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さっきまで、
頭の中は計算だらけだった。
勝率。
距離。
手順。
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なのに今は、
全部どうでもよかった。
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代わりに、
謎の感情が押し寄せてくる。
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——助けたい。
——なんとかしてやりたい。
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理由はない。
理屈もない。
ただ、
胸の奥が勝手に熱くなる。
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「……なんやねん、これ」
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その時だった。
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ぷるん。
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音がした。
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ほんの、
小さな音。
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彼は、
顔を上げた。
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枯葉の向こう。
淡く光る、
丸い影。
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——スライム。
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揺れている。
静かに。
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彼の口が、
勝手に動いた。
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「……あの」
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通じるかどうかなんて、
分からない。
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それでも。
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「人間に戻る練習、しませんか?」
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言った瞬間、
自分でも驚いた。
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何を言っているのか。
なぜそんなことを。
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スライムは、
一瞬、動きを止めた。
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そして。
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ぷるん。
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次の瞬間、
スライムが弾いた。
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——威嚇。
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透明な塊が、
空を切る。
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ジュッ。
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横の木が、
音もなく溶けた。
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幹が崩れ、
葉が落ちる。
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「……っ」
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主人公は、
逃げなかった。
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足が、
動かない。
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——いや。
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動かさなかった。
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心臓がうるさい。
でも、
視線は逸らさない。
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スライムが、
もう一度、揺れる。
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次は、
当てられる距離。
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それでも。
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口が、
勝手に動いた。
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「形が……!」
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声が裏返る。
それでも止まらない。
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「形があれば……!」
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「人間になれたら……!」
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「家族の元に、帰れるやろ!!」
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....
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「……俺に!!」
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「協力させてください!!」
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森が、
静まり返った。
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スライムは、
止まっていた。
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攻撃でもない。
逃走でもない。
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——戸惑い。
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人間が、
逃げない。
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しかも、
自分の“形”の話をしている。
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意味が分からない。
理解も、できない。
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それでも。
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スライムは、
ぷるんと震えた。
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それは、
威嚇ではなかった。
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【次回】
スライムと共に




