【38話】48%
退院して、
家に帰った。
鍵を開ける音が、
やけに響いた。
「ただいま」
返事はない。
当たり前やのに、
少しだけ、間が空いた。
部屋に入る。
見慣れた天井。
見慣れた床。
病院の白とは違う、
ちゃんと生活の色がある。
荷物を置いて、
ベッドに腰を下ろす。
……静かや。
ロビーのざわめきも、
ラジオ体操の音も、
もうない。
机の上に、
スマホが二台並んでいた。
画面がバキバキのやつと、
もう一台。
しばらく、
そのまま見ていた。
手を伸ばしたのは、
割れてない方。
電源を入れる。
——反応しない。
「あ、そっか」
充電ケーブルを挿す。
画面が、
ゆっくり光る。
1%
……少な。
思わず、
息が漏れた。
そのまま、
スマホを置いて寝た。
⸻
次の日。
目を覚まして、
一番に確認する。
48%
「一日で、
これかい……」
独り言が、
部屋に落ちる。
まあ、ええか。
フルじゃなくても、
動くやろ。
スマホを、
手に取る。
画面を、
見つめる。
——スライム。
頭の中に、
あの言葉が浮かぶ。
とりあえず、
スライムだけ。
倒して、
終わり。
深呼吸。
誰に聞かせるでもなく、
小さく言った。
「……よし」
親指が、
画面に触れる。
視界が揺れる
頭の中で
「スライムだけ...
とつぶやく
________
辺りが広がる
リアルな空、
リアルの地面、
でもどこか無機質で
どこか寂しい
久しぶりのような、
でも、全然久しぶりじゃないような。
あの空気。
あの色。
あの距離感。
……うん、ここや。
今回は、迷わない。
すぐに、
森を選ぶ。
ロードが終わるのを待ちながら、
ふと、思った。
……てか。
そもそも、
あいつに近づけるんか?
前に見た感じ、
結構、近づかなアカンよな。
あの強烈な酸が
頭にチラつく
遠くから、
カメラで撮れへんかな……。
いや、
あのカメラの感じは
遠くからじゃ無理や。
多分、
相当近づかんとアカン。
……よし。
待ち伏せ大作戦や。
⸻
森の中。
俺は、
物陰に身を潜めた。
いや、
潜めたつもりになった。
周りに落ちてる枯葉を、
かき集める。
腕に。
背中に。
頭の横に。
なんなら、
顔にも。
うつぶせで、
地面に寝転ぶ。
スマホは、
すぐ撮れる位置に。
あとは——
待つだけ。
待つ。
ひたすら、
待つ。
時間の感覚が、
だんだん曖昧になる。
森の音だけが、
流れていく。
カサ……。
何かが、
遠くを通った。
息を、
止める。
……違う。
二足歩行。
ゴブリンや。
武器を引きずりながら、
こっちに気づかず通り過ぎていく。
心臓が、
ドクドク鳴る。
次。
重い足音。
ドスン、
ドスン。
オーク。
デカい。
臭い。
絶対、近づきたくないやつ。
枯葉の隙間から、
必死で見送る。
……まだ。
さらに待つ。
羽音。
ブゥン……。
上。
視線だけ、
動かす。
虫型のモンスター。
低空飛行で、
森を横切っていく。
頼むから、
降りてくるな。
通り過ぎた。
……よし。
また、
静かになる。
どれくらい経ったか、
もう分からん。
その時。
ぺちょ。
一瞬、
全身が固まる。
ぺちょ。
来た。
目を、
見開く。
息を、
完全に殺す。
ぺちょん。
ぺちょん。
近づいてくる。
音が、
軽い。
葉の隙間から、
そっと覗く。
——スライム。
思ってたより、
透明。
ぷるぷる揺れてる。
そして、
下の方。
……黒い。
小さな、
影。
——あった!!
心の中で、
叫ぶ。
スマホを持つ手に、
ぐっと力が入る。
今や。
「パシャ!!!」
森に、
とてつもなく大きな
シャッター音が響き渡った。
……。
…………。
ぁ。
それは..
完全に忘れとったわ。
つづく




