【37話】 滲んだQRコード
【37話】滲んだQRコード
アルバムを、開いた。
動画は、一つだけ。
「〇〇さんの場合」
再生時間、十五秒。
短い。
……短すぎる。
指が、
勝手に動いた。
⸻
軽い音楽。
どこかで聞いたことのある、
前向きなBGM。
画面に映ったのは、
俺やった。
笑ってる。
でも、
自分がこんな顔してた記憶はない。
「彼は、
いつも迷っていました」
立ち止まる俺。
振り返る俺。
逃げる俺。
「でも、
間違った選択は
一つもありません」
リナの横顔。
ユウタの手。
白いロビー。
一瞬ずつ、
切り取られていく。
「なぜなら——」
外に出て、
すぐ戻る俺の背中。
「彼は、
“戻る”という
選択をしたからです」
音楽が、
少しだけ大きくなる。
「安全に」
「確実に」
「失敗しないように」
最後に、
白い画面。
「あなたも、
同じ選択を
しませんか?」
映像は、
それだけやった。
(これ俺のコマーシャル、笑)
⸻
スマホを、伏せる。
胸の奥が、
じわじわ熱い。
……俺の人生。
映画でもなく、
物語でもなく。
誰かの背中を押すための、
コマーシャル。
風呂場で見つけた、
滲んだQRコード。
あれは、
あのスマホを武器にするためのヒントや。
⸻
病院に戻った。
白い廊下。
白いロビー。
いつもと同じ風景。
でも、
同じに見えへん。
心の奥で、
ずっと一つの考えが回っていた。
——あのQR。
俺だけのもんちゃうよな。
あのスライム。
……あいつにも、
あるんちゃうか。
⸻
俺は、
嘘をつき続けた。
異世界なんて、
最初から無かったみたいに。
ナオキにも。
マモルさんにも。
何も言わなかった。
だって。
……スライムぐらい、
倒したいやん。
それだけや。
⸻
まちに待った、
退院の日。
ロビーに集まった人たちが、
拍手してくれる。
ナオキが、
手を振った。
「またな!」
マモルさんは、
笑いながら。
「たまには、
将棋やれよ!」
その奥。
白い壁の向こうに、
誰かの影が見えた。
神様、
……みたいな。
「コウ!!」
そう、
呼ばれた気がした。
気のせいかもしれん。
でも、
確かに聞こえた。
⸻
俺は、
笑って手を振りながら。
嘘を、抱えたまま。
病院を出た。
スライムを倒すために。
——ただ、それだけの理由で。
外の空気は、
相変わらず、
うまかった。
つづく




