【35話】 外
【35話】外
朝。
いつも通りの、白い部屋。
白いロビー。
白い床。
白い壁。
ふと、
よく見た仮想現実の世界がフラッシュバックする。
——でも、ここは病院や。
ラジオ体操が始まる。
スピーカーから流れる、聞き慣れた音。
横では、ナオキがノリノリで体操している。
やけに楽しそう。
腕を回しながら、
ふと思った。
……これって、いつ出れるんやろ。
ナオキを見る。
口に出さん方が、ええよな。
「〇〇さーん、面談でーす」
呼ばれる。
いつも通り、椅子に座る。
「だいぶ安定してきましたね。
そろそろ、外出許可、出しますね」
……え?
一瞬、意味が分からん。
出れる。
外に。
とてつもない喜びが、
一気に込み上げてくる。
ガッツポーズしそうになる。
——いや。
心の中で、耐える。
「では、
明日から許可出しておきますので」
_____
「失礼します」
そういって面談室
の扉を閉める
_________
ナースステーションを出た瞬間、
思わず、ナオキに小声で言った。
「外出許可、もらった!!」
ナオキは、
いつもの顔で笑った。
「おー!!
良かったなぁー!
めっちゃレベルアップやん!
えーなぁー!!」
……ん?
ふと、引っかかる。
「ナオキは……?」
少し間を置いて、
ナオキは言った。
「んー……
俺は、まだやねん」
どこか遠くを見ながら。
その顔は、
いつものナオキより、
ほんの少しだけ曇って見えた。
⸻
次の日
外に出た。
——初めての外出。
空気が、うまい。
普通に車が走ってる。
人が歩いてる。
信号が変わる。
なんか分からんけど、
最高や。
思わず、
道端の雑草と握手した。
緑が、めちゃくちゃ綺麗や。
何も起きてない。
ただの、普通の日常。
……のはずやのに。
ポケットに手を入れる。
ない。
いつも、そこにあるはずのもの。
スマホが、ない。
少し、思い出す。
⸻
「こちらに、
外出時間とお名前、病院番号をお願いします」
カキカキ。
「所持品ですが、
スマホなどは一時返却もできます。
どうされますか?」
…………。
「……まだ、
大丈夫です」
⸻
ふと
前を見る。
一人の男が、
道端でスマホを見ていた。
ただ、それだけ。
なのに。
心臓が、跳ねた。
ドクン、と
胸の奥で音がする。
一気に、思い出が溢れ出す。
リナ。
画面を覗く目。
ユウタ。
差し出された手。
始まりは、
いつも、あれやった。
息が、浅くなる。
さっきまで綺麗やった世界が、
急に、作り物みたいに見えた。
俺は、踵を返す。
外出は、一時間。
でも、
20分も経ってない。
病院の入口が見えた瞬間、
なぜか、安心してしまった。
白い壁。
白い床。
白い空気。
中に入ると、
胸の鼓動が、ゆっくり落ち着いていく。
ロビーでは、
ナオキとマモルさんが、
楽しそうに話していた。
笑ってる。
普通に。
その光景を見て、
ふと、思う。
……外出って、
そもそも、反対なんちゃうんか。
でも。
今の俺には、
ここが一番、落ち着く。
——あ。
そういうことか。
もう、みんな、
そうなんや。
ここが、
「家」になってるんや。
さっきの、
ナオキの顔が浮かぶ。
「まだやねん」
その言葉の意味が、
ようやく、分かった気がした。
つづく




