【31話】診察室
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パトカーの中。
エンジン音が、
一定のリズムで響いている。
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窓の外は、
普通の街。
信号。
看板。
自転車。
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(……あれ)
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胸の奥で、
何かが引っかかる。
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(これ……)
(もしかして……)
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「……あの」
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思わず、声が出た。
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「もう大丈夫です」
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「家、帰れるんで」
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身体を、
少しだけ前に動かす。
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その瞬間。
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「動かないでください!」
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声が、
一段階だけ強くなる。
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警察官の手が、
反射的に動く。
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「危ないですから」
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口調は丁寧。
でも。
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距離が、
一気に詰まる。
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(……あ)
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(これ)
(下手なこと言うたら
あかんやつや)
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頭が、
急に冷える。
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「……すみません」
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大人しく、
座り直す。
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(病院、言うてたな)
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(……逆らわん方がええ)
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車は、
そのまま走り続けた。
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病院。
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白い建物。
白い壁。
白い床。
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警察官二人に挟まれて、
中を歩く。
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視線が、
少しだけ集まる。
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診察室の前。
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椅子に座らされる。
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「〇〇さーん」
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名前を呼ばれて、
中へ。
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医者。
白衣。
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椅子に座るよう、
手で示される。
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医者は、
すぐには喋らない。
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ただ、
こちらを見ている。
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視線。
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観察されている、
という感覚。
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耐えきれなくなって、
先に口が動く。
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「……えっと」
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「ここって……」
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一瞬、
言葉を選ぶ。
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「……現実世界、ですよね?」
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医者の眉が、
ほんの少しだけ動く。
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「大丈夫ですよ」
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穏やかな声。
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「ここは、現実ですよ」
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その一言で。
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一気に、
力が抜ける。
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「あ……」
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「よ、良かった……」
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「二度と
戻れへんかと
思いました……」
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胸を撫で下ろす。
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安心が、
一気に溢れる。
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そして。
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喋ってしまう。
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異世界の話。
スマロバの話。
認識がズレる世界。
ガチャ。
入ったらアカン所。
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止まらない。
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医者は、
うんうんと頷く。
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「それは大変でしたね」
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「怖かったですね」
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優しい。
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あまりにも、
優しい。
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「……あ、じゃあ」
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主人公は、
立ち上がる。
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「もう大丈夫なんで」
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「帰りますね」
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——コツン。
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背中。
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何かに、
当たる。
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振り向く。
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看護師。
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大きい。
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無言。
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「……え?」
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次の瞬間。
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背後から、
医者が近づく気配。
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「では少し様子を見ましょうか」
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「いや、あの、ほんと、
もう大丈夫なので」
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看護師を少し押しのけ
ようとした瞬間....
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「暴れると危ないですよ」
看護師にガッチリ
腕をホールドされる
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「え?ちょ、え!」
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「先生、お願いします。……」
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「はーい、
ではちょっとチクっとしますね〜」
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「いや、俺家にかえっ..
視界が、
ぐらっと揺れる。
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言葉が、
途中で溶ける。
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「……かえ……」
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「……」
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「いやー危なかったですねー
もう少しで暴れる寸前でしたね」
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「そうですね〜、助かりました。」
「何番の隔離室空いてますか?」
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「えーと今なら1番が空いてます」
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「じゃあ、そこでー」
「かしこまりました」
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ギィ
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重たい音。
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ドアが、
閉まる音。
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意識が、
ぷつりと切れる。
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目を閉じる直前。
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主人公の頭に、
最後に浮かんだ言葉。
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(……あ)
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(これ)
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(ログアウト、
できてへんやつや)
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つづく。




