【28話】入ったらアカン所
「あいつ
「…入ったか」
壊れかけの男が、ぽつりと言った。
森の奥。
さっきまで主人公がいた場所。
もう、
そこには何もない。
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「うわぁ……」
テンション高い男が、
思わず声を上げる。
「マジで行ったん?
あそこはアカンやろ?」
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巨体の影は、何も言わない。
ただ、
動かない。
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壊れかけの男が、
遠くを見る。
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「死んだかな?」
テンション男が聞く。
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「いや」
壊れかけは首を振る。
「死んだかどうかも、
分からん」
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少し間が空く。
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「……まぁ」
テンション男が、
肩をすくめる。
「どっちにしろ、
もう戻ってこーへんわな」
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その時。
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巨体が、
ほんの少しだけ動いた。
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「……」
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低い声。
「まだ」
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二人が、
一瞬だけそっちを見る。
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「“まだ”?」
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巨体は、
それ以上何も言わない。
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ただ。
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森の奥を、
じっと見ていた。
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暗い。
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いや。
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暗い、ではない。
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光がない、
という概念そのものが
存在しない。
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見えていないのに、
見えている気がする。
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聞こえていないのに、
音がある気がする。
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スマホ。
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【ロード中……】
【0%】
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「……はは」
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笑ったつもりが、
口が動いたかどうかも分からない。
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「これ……」
「終わらんやつやな……」
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0%。
ずっと0%。
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考え始める。
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(あの3人、
どうしてるんやろ)
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でも、
その考えが途中で溶ける。
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(……あれ?)
(俺、
今なに考えてたっけ)
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思考の「始まり」と「終わり」が、
ぐちゃぐちゃになる。
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時間の感覚が、
先に崩れる。
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何分か。
何時間か。
何日か。
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全部、
同じ重さ。
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スマホを見る。
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【ロード中……】
【0%】
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(まぁ……)
(待つしかないか)
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その「まぁ」が、
何回目なのかも分からない。
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気づくと。
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考えること自体が、
ズレ始めている。
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「俺」が、
遅れてくる。
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(……俺って、
こんな考え方やったっけ)
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不安が来る。
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でも、
理由がない。
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理由がない不安は、
処理できない。
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スマホ。
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【ロード中……】
【100%】
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「……え?」
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次の瞬間。
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世界が、
勝手に始まった。
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⸻
ぐちゃぐちゃ。
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上と下が、
途中で入れ替わる。
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人が、
途中でモノになる。
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意味が、
先に来て。
形が、
あとから追いつく。
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さっき通った道が、
次の瞬間には
「通ったことがない道」になる。
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ルールが、
存在しない。
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いや。
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ルールが、毎秒変わる。
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「……ヤバい」
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言葉だけが、
ようやく追いつく。
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視界の端。
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白い、
形。
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でも、
まだ近づけない。
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近づくという概念自体が、
信用できない。
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ただ一つだけ、
分かることがある。
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(あれだけ……)
(あれだけ、
ちゃんとしてる)
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それが何かは、
まだ言葉にできない。
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世界は、
相変わらずぐちゃぐちゃだ。
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でも。
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一つだけ、
認識が崩れない場所がある。
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主人公は、
無意識に
そっちを避け続けていた。
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怖いから。
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なぜ怖いのか、
分からないから。
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つづく。




