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【第二話】 バッテリーチキン

その日は、何でもない放課後のはずだった。


チャイムが鳴って、

教室の空気が一気に緩む。


椅子を引く音。

笑い声。

スマホを取り出す動作。


いつもと同じ。

……のはずなのに。


俺は、ずっと落ち着かなかった。


ポケットの中のスマホが、

まだ震えていないのに、

「来る」って分かってしまう。


嫌な予感だけが、

じっと張り付いて離れない。


教室の前の方で、

リナが友達に囲まれていた。


最新のiPhoneを片手に、

画面を見せながら笑っている。


充電残量なんて、

一度も気にしたことなさそうな顔。


俺と目が合った瞬間、

リナは一瞬だけ、目を細めた。


知ってる。


理由もなく、そう思った。


次の瞬間だった。


――ブン。


俺のスマホが震えた。

いや、俺以外にもいたのかもしれない。


画面を確認すると


俺のスマホに

黒の画面に白い文字が表示されていた。


「次回対決」


その下に、短い文字。


「バッテリーチキン」


心臓が、嫌な跳ね方をする。


説明は、なかった。


でも、

なぜか分かる。


これは、

バッテリーをどこまで使えるかの勝負だ。


使い切ったら終わり。

でも、残しすぎても意味がない。


どこで止めるか。

どこまで攻めるか。


ただの我慢比べじゃない。

チキンレースだ。


リナは、迷わなかった。


スタートすると同時に、

動画を再生する。


音量は最大。

画面の明るさも最大。


配信、ショート動画、SNS。

指を止めない。


まるで、

減っていくバッテリーを

挑発するみたいに。


余裕。


そういう背中だった。


俺は、何もできなかった。


画面をつけて、すぐ消す。

写真を開いて、閉じる。


意味のない操作を、

ただ繰り返す。


残量は表示されていない。

減っているのか、減っていないのかも分からない。


時間だけが、

じわじわ削れていく。


リナのスマホが、ふっと止まった。


画面の端に、

小さな数字。


3%。


その瞬間、

リナは迷いなくボタンを押した。


終了。


スマホが静かになる。


勝った。


そう分かる表情だった。


俺は、まだ押していない。


まだだ。

まだ、いける。


指に力を込めた、その時。


――ピピッ。


バイトのアラーム。


一瞬、視線が落ちる。


次の瞬間、

画面が真っ暗になった。


電源が、落ちた。


負けた。


スマホは、沈黙したまま動かない。


リナのスマホだけが、

静かに光っている。


俺は、その光を見ながら思った。


これで終わりなわけがない。


これはきっと――

始まりだ。


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