【第11話】 切るか、壊れるか
場所は、
どこにでもある夜の街だった。
ネオンがにじんで、
人の声が遠い。
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目の前に立つ男は、
拍子抜けするほど普通だった。
噂に聞いていた“やばい奴”。
もっとこう、
鋭い目とか、
殺気とか、
そういうのを想像していたのに。
実際は――
「どもーこんちわー」
間の抜けた声。
気の抜けた笑顔。
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……なに、それ。
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私は、少しだけ苛立った。
「あなたが、例の人?」
「ん?。たぶんそーかなー」
“たぶん”って何。
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視界の端で、
システムが起動する。
【対決内容:非公開】
【ルール追加】
私の喉が、
無意識に鳴った。
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【対決名:長電話】
【対象:親族】
【効果:未公開】
……きた。
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私は、
ほぼ同時に理解した。
――これ、命が絡む。
理由は分からない。
でも、確信があった。
このゲームは、
そういうのを平気でやる。
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スマホを見る。
“母”の名前。
いつもと同じ表示。
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一瞬、
胸の奥がきゅっと縮んだ。
……あぁ、そっか。
私、
ちゃんと怖がれるんだ。
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隣を見ると、
男はもう電話をかけていた。
「もしもーし」
声、軽っ。
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「うん、元気元気」
「いやー、なんとなく」
なんで、
そんな笑ってんの?
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私は、
自分のスマホを耳に当てた。
呼び出し音。
……長い。
出てほしくない。
でも、出てほしい。
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「もしもし?」
母の声。
その瞬間、
心臓が一気にうるさくなる。
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「どうしたの?」
「……別に」
声が、
思ったより普通で。
それが、
逆に怖かった。
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時間が、
確実に削られていく感覚。
数字は見えない。
でも、分かる。
減ってる。
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隣から、
笑い声が聞こえる。
「いやー、ほんま?」
「それ、めっちゃええやん」
楽しそうに、
どうでもいい話。
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……なんで?
なんでこの人、
平気なの?
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私も、
話し続けた。
どうでもいい話。
大学の話。
近所の話。
頭の中は、
ずっと一つ。
――どこまでいける?
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罪悪感?
ある。
でもそれ以上に、
興奮してる自分がいる。
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切れば終わる。
切らなければ、壊せるかもしれない。
でも――
壊したい、壊したくない。
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ふと、
隣を見る。
男は、
まだ笑ってる。
目が合った。
ニコニコしたまま、
小さく首を傾げた。
「顔色悪いけど大丈夫?」
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その瞬間。
背中を、
冷たいものが走った。
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この人。
分かってる。
全部。
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なのに、
止まらない。
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私は、
初めて迷った。
自分が怖いのか。
相手が怖いのか。
分からない。
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母の声が、
少し遠くなる。
「……あのね」
その声を聞いた瞬間、
限界が来た。
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プツッ。
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通話終了。
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スマホが、
重く感じた。
結果表示が出る。
【勝者:――】
文字が滲む。
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顔を上げると、
男はまだ電話をしていた。
「あ、そろそろ?」
「うん、またなー」
プツッ。
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終わった。
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彼は、
スマホをポケットに入れて、
いつもの調子で言った。
「ありがとー。なんか分からんけど
楽しい勝負やったな笑」
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……勝負?
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私は、
笑えなかった。
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この人は。
私が、
一番欲しかったものを
全部持っていた。
壊れてない心。
分かっていて進む狂気。
そして――
戻れない笑顔。
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どこか遠くで、何かが壊れる音がした。
私かもしれない、私ではないのかもしれない
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でも、
どうでもよかった。
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ただ一つ、
はっきりした。
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このゲームで、
一番危ないのは。
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本気で楽しんでる人間だ。
つづく




