【第10話】普通で、完璧で、つまらない
朝は、いつも同じ時間に起きる。
カーテンを開けて、天気を確認して、
スマホでニュースを流し見してから、歯を磨く。
鏡の中の私は、
今日もちゃんと“普通”だった。
清楚。
真面目。
ちょっと成績が良くて、
親から見たら安心な娘。
⸻
「行ってきます」
玄関でそう言うと、
母は必ず同じ言葉を返す。
「気をつけてね」
それが嫌いだった。
心配されるのも、
信頼されているのも、
全部、退屈だった。
⸻
大学では、私は空気だ。
目立たないけど、浮かない。
誰とも揉めないし、
誰にも深く関わらない。
ノートは綺麗で、
課題は期限前に出す。
「ちゃんとしてるね」
そう言われるたび、
胸の奥が少し冷えた。
⸻
――ちゃんとしてる、って何?
⸻
昼休み。
友達がスマホを見せてくる。
「ねぇ見てこれ、怖くない?」
都市伝説みたいな動画。
どこかで誰かが消えたとか、
意味不明なアプリの話。
私は、笑った。
「またそういうの?」
内心では、
やっと来たかと思っていた。
⸻
スマロバトル。
その噂を初めて聞いた時、
胸が高鳴った。
怖い?
ううん。
嬉しかった。
⸻
だってやっと、
私が普通じゃなくて
良い世界ができたから。
⸻
それから、私は勝ち続けた。
内容は覚えてない。
覚える価値もない。
勝った。
ポイントが増えた。
自分設定に振った。
魅力。
魅力。
魅力。
誰もが、
私を見るようになった。
⸻
でも、
満たされなかった。
⸻
勝っても、
誰も壊れない。
誰も泣かない。
世界は、
相変わらず普通だった。
⸻
ある日。
街のカフェで、
一人でコーヒーを飲んでいた時。
隣の席から、
小さな声が聞こえた。
「……あいつ、やばいらしいな」
スマロバトルの話。
自然と、耳が向く。
「なんかな、何も考えてないねんて笑」
「負けまくってるけど平気な顔してるって」
「なんか、行動おかしいねん」
「笑ってるらしい」
――笑ってる?
⸻
私は、
その瞬間に分かった。
⸻
あぁ。
この人だ。
⸻
負け続けてるのに、
壊れてない。
普通なら、
とっくに消えてる側の人間。
それなのに、
まだそこにいる。
⸻
興味が湧いた。
初めて。
心から。
⸻
その日の帰り道。
私は、
スマホを強く握った。
「お願い」
誰に言うでもなく。
「当たって」
⸻
――震えた。
短く、一度。
⸻
画面を見て、
思わず笑った。
「対戦可能状態になりました」
⸻
相手の名前。
見覚えのある名前。
噂の中心。
⸻
……ふふ。
⸻
やっとだ。
やっと、
“面白い人間”が来た。
⸻
私は、
ゆっくりと了承を押した。
⸻
この人となら。
きっと。
⸻
何かが壊れる。
⸻
――次回、対決。




